事業企画の将来性|AI時代に生き残る事業企画の条件
事業企画という職種の将来性を問う声が、ここ数年で明らかに増えている。背景にあるのはAIの急速な普及であり、「市場調査や資料作成はAIが担うのではないか」という問いは、すでに多くの現役担当者が感じている実感に近い。
結論から述べると、事業企画という職種そのものが消滅するリスクは低い。ただし、「今の仕事の進め方のまま市場価値が維持される」とも言いにくい。AIによって特定の業務が代替される一方、AI時代だからこそ求められるスキルセットが明確に変化しつつある。本稿では、事業企画の職種特性・AI時代における役割変化・将来の市場価値を高める条件を、実務の観点から整理する。
事業企画の職種特性と現状
事業企画は、企業によって定義が異なるが、共通しているのは「事業の方向性を設計し、実行に移す橋渡し役」という機能である。具体的には以下のような業務領域で構成される。
- 新規事業・既存事業の戦略立案
- 市場調査・競合分析・事業性評価
- KPI設計と進捗モニタリング
- 経営会議向け資料の作成・意思決定支援
- 他部門(営業・プロダクト・マーケ)との調整・横串業務
IT・SaaS企業では、プロダクトマネジャーや事業開発と役割が重なるケースも多く、厳密な境界線は引きにくい。コンサルティングファーム出身者がインハウスに転じた際に担う職種として認知されることも多く、ロジカルシンキングや資料作成能力が評価軸として重視されてきた。
この点が今、問い直されている。「ロジカルシンキングと資料作成能力」という従来の評価軸が、生成AIによって部分的に代替され始めているためだ。
AI時代に代替されやすい業務・されにくい業務
事業企画の業務を構造的に分解すると、AIとの親和性に差がある。以下の表は代替可能性の目安を整理したものである。
| 業務領域 | 代替可能性 | 理由 |
|---|---|---|
| 市場調査・情報収集 | 高い | 情報の検索・要約・比較はAIの得意領域 |
| 定型フォーマットの資料作成 | 高い | スライド構成・文章生成は自動化が進む |
| 財務モデルの初期構築 | 中程度 | テンプレート適用はAI対応。仮定設計は人間が担う |
| 競合分析の枠組み設計 | 低い | 「何を問うか」の設計は文脈依存で難しい |
| 社内意思決定プロセスの操作 | 低い | 組織の力学・人間関係は構造化しにくい |
| 新規事業の仮説設計 | 低い | ゼロから問いを立てる行為はAIが苦手 |
| ステークホルダーとの合意形成 | 低い | 利害調整・信頼構築は人間の領域 |
この分類から見えるのは、「情報処理・整理・出力」の部分はAIに移管され、「問いを立てる・判断する・合意を形成する」部分は人間に残る、という構造である。
事業企画の担当者にとって不利なのは、「情報処理・整理・出力」に多くの時間を費やしてきた職種であるという点だ。逆に言えば、その時間が解放されることで、本来高付加価値であるはずの「問いの設計」や「意思決定支援」に集中できる環境が整いつつある。
AI時代に求められる事業企画の条件
1. 「問いの設計力」の解像度を上げる
市場調査やデータ分析はAIが迅速に処理できる。しかし「何を調べるべきか」「どの問いに答えれば意思決定が前進するか」という問いの設定は、事業文脈の理解なしには行えない。
優れた事業企画担当者は、経営層が漠然と抱える課題を「問い」に変換できる。「新規事業を検討したい」という曖昧なニーズを「自社が参入すべき市場の条件は何か」「今期内に判断するために必要な情報は何か」という具体的な問いに分解できる能力は、AIでは補えない。
2. 「数値の文脈解読力」を磨く
財務モデルや事業計画を作る能力から、「この数値が示すビジネス上の意味を解釈する力」へのシフトが起きている。AIはモデルを生成できるが、「このARPUの低下が顧客構造の変化を示しているのか、pricing戦略の問題なのか」という文脈解読はできない。
数値を鵜呑みにせず、事業の実態と照合しながら判断できる担当者は、AI時代においても希少性を維持しやすい。
3. 組織横断の調整力を評価軸として意識する
事業企画は本来、部門横断的な役割を担う。営業の現場感、プロダクトの開発制約、経営層の優先課題をつなぎ合わせ、共通の方向性を導くプロセスには、信頼関係や組織文脈の理解が必要になる。
この「人と組織に関わる業務」は、AIが代替しにくい最後の領域でもある。スキルとして明示しにくいため軽視されがちだが、AI時代においては相対的な優位性として機能しやすい。
4. AIを「使いこなす」側に回る
AI活用を前提とした業務設計ができるかどうかは、今後のキャリアに大きく影響する。自分の業務の中でAIが代替できる部分を特定し、そこに投じていた時間を高付加価値業務に再配分できる担当者は、同じ職種の中でも生産性と市場価値が分岐していくと考えられる。
具体的には、プロンプト設計・出力の品質評価・AIと人間の業務分担の最適化を実務の中で繰り返すことが、スキルとして積み上がりやすい。
事業企画の年収レンジと市場価値の目安
職種としての将来性を考える上で、現在の市場における待遇感も参照軸になる。以下はあくまで目安であり、企業規模・業種・個人の経験によって幅がある。
| 経験年数・ポジション | 年収目安(正社員・日系・外資問わず) |
|---|---|
| 経験1〜3年(担当クラス) | 500〜700万円前後 |
| 経験3〜7年(リードクラス) | 700〜950万円前後 |
| マネジャー・事業企画部長クラス | 900〜1,300万円前後 |
| 経営直下・CFO補佐・事業本部長支援 | 1,200万円以上も視野 |
SaaSやテクノロジー企業では、事業企画とPMM(プロダクトマーケティングマネジャー)や事業開発の境界が曖昧なため、ポジション名より担っている実態で評価されることが多い傾向がある。
ケーススタディ:AI活用後に評価が上がった事業企画担当者の型
あくまで典型的なパターンとして、以下のような職種変化の例がある。
ケースの型:大手SaaS企業の事業企画担当(経験5年)
以前は、月次の事業報告資料の作成と競合調査レポートの更新に週の30〜40%を費やしていた。生成AIとデータ可視化ツールを組み合わせることで、これらの業務を週次での確認・補正作業に集約。空いた時間を「新規市場への参入可否評価」と「経営会議での意思決定ロジックの設計」に当てるようになった。
結果として、経営層から「資料を作れる人」ではなく「判断の材料を設計できる人」として認識が変わり、重要な意思決定の場に呼ばれる機会が増えた。
このパターンに共通するのは、AI活用を「作業効率化」で止めず、空いたリソースを「高付加価値業務への再投資」につなげているという点である。
よくある質問
Q1. 事業企画はAIに職を奪われるのでしょうか?
一部の定型業務(情報収集・資料の初稿作成など)はAIに移管されていく傾向にありますが、職種全体が消滅するリスクは現時点では低いと考えられます。変化するのは業務構成であり、AIが苦手とする「問いの設計」「組織調整」「経営判断の支援」に貢献できる担当者の価値は、むしろ相対的に高まりやすい環境になっています。
Q2. 事業企画としてのキャリアを伸ばすなら、どのような経験を積むべきですか?
「資料作成や分析」に留まらず、意思決定の場に近い業務に携わる経験が重要です。具体的には、経営会議へのアジェンダ設計への関与、新規事業の事業性評価への主体的な参画、部門横断プロジェクトのPMOなどが挙げられます。アウトプットの質より「何を問い、どう判断したか」を説明できる経験の積み方が将来的に差別化につながりやすいです。
Q3. コンサル出身者と事業会社出身者では、事業企画としての市場価値に差がありますか?
傾向として、コンサル出身者はロジカルシンキングや構造化の評価が高く、事業会社出身者は社内調整や実行の現実感が評価されやすいです。どちらが優位かは採用企業の文化・フェーズによります。転職市場では「コンサル経験+インハウス経験」の組み合わせが高い評価を受けやすい傾向があります。
Q4. 事業企画はどのようなキャリアパスを描きやすいですか?
事業企画の経験は、経営企画・COO補佐・事業開発・社内起業家(イントレプレナー)・スタートアップへの転職など、複数の方向に接続しやすいです。ただし「事業企画としての専門性」を伸ばす方向と「経営に近い意思決定者になる」方向では、評価されるスキルが異なるため、どちらを志向するかを早めに意識しておくことが、キャリア選択の精度を上げることにつながります。
まとめ
AI時代における事業企画の将来性は、業務の「やり方」が変わるという意味では大きな変化にさらされているが、職種の本質的な価値—問いを立て、判断を支え、組織を動かす—は代替されにくい。変化に対応できる担当者とそうでない担当者の間で、市場価値の分岐が進んでいくのが今後の傾向であると考えられる。AIを使いこなしながら、高付加価値業務に時間を集中させる業務設計ができるかどうかが、当面の実力差につながりやすい。事業企画として現在の立ち位置を客観的に把握したい場合、専門的なキャリア相談を活用することも、市場価値の確認手段として検討に値する。