事業企画の転職市場動向【2026年】|求人数・採用ニーズの変化
事業企画職の転職市場は、2025年から2026年にかけて需給の構造的な変化が続いており、単なる求人数の増減を超えた質的な転換が起きている。企業がDXや新規事業開発を経営の最優先課題に据えるなかで、事業企画の担い手に求められるスキルセットが変容し、採用側・候補者側の双方で「ミスマッチが生じやすい」状態が続いている。本稿では、求人数の動向、採用ニーズの変化、求められる人材像の移行、そして転職を検討する際の実務的な論点を整理する。
事業企画の求人市場:全体的な需給構造
求人数の傾向と背景
事業企画を冠するポジションの求人数は、過去2〜3年で継続的な増加傾向にある。背景として大きく三つの要因が挙げられる。
第一は、上場企業・メガベンチャーを中心とした「事業ポートフォリオの組み替え」である。既存事業の収益が成熟フェーズに入り、新たな収益柱を設計する専門人材を内製化しようとする動きが広がっている。これまでは戦略コンサルティングファームに外注していた機能を、社内に取り込もうとする企業が増えている。
第二は、SaaS・プラットフォームビジネスの拡大にともなう、プロダクト戦略と事業戦略の融合である。事業企画とプロダクトマネジメント(PM)の境界が曖昧になりつつあり、両機能を担えるハイブリッドな人材への需要が高まっている。
第三は、大企業の新規事業部門やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)組織の設立・拡充である。これらの組織では、外部の経営環境を読みながら社内リソースと結びつける役割が必要とされ、事業企画人材の採用枠が広がっている。
一方、求人数が増えている分だけ採用難易度も上がっており、「ポジションは増えたが、実際に選考を通過しやすくなったわけではない」という構造が生まれている。
採用ニーズの質的な変化
企業が求める人材像の移行
2024年以前と比較すると、事業企画職の採用要件には以下のような変化が見られる。
| 以前の重視要素 | 近年の重視要素 |
|---|---|
| 市場調査・競合分析の実務経験 | データ分析を伴う意思決定の経験 |
| 事業計画書・資料作成スキル | 仮説検証のサイクルを回した経験 |
| 経営企画・戦略コンサル出身 | 事業責任を持ったPL/KPI管理経験 |
| 業界知識・ドメイン理解 | 事業フェーズを越えた汎用的な思考力 |
| マネジメント経験 | 個人の事業推進力(IC人材への需要増) |
特に注目すべきは、「管理職ポジションだけでなく、Individual Contributor(IC)としての高度専門職」の需要が増えている点である。大企業においても、特定領域のエキスパートとして自律的に事業設計できる人材を、マネジメントラインとは別に確保しようとする傾向が強まっている。
採用企業のフェーズ別ニーズの違い
採用ニーズは企業のフェーズによって大きく異なるため、求人票の職種名が同じでも、実際に求められる役割は相当異なる。
スタートアップ(シリーズA〜C) プロダクト・市場フィット(PMF)の前後に位置する企業では、データを扱いながら高速で仮説検証できる人材が求められる。資料作成や承認プロセスよりも、実行と検証のスピードが優先されるため、大企業での事業企画経験者が必ずしも適合するわけではない。
成長期のメガベンチャー・上場SaaS企業 事業拡大局面では、既存モデルを横展開しながら収益構造を最適化できる人材が重視される傾向にある。SQL・BIツールを活用したデータ分析と、ビジネス上の意思決定を橋渡しできるスキルセットが評価される場面が多い。
大企業の新規事業部門 社内政治・関係者調整のスキルと、外部環境の変化を読む感度の両立が求められる。外部からの採用においては、「いかに社内でプロジェクトを推進できるか」を問われる傾向がある。
年収水準の目安と変動要因
事業企画職の年収は、企業フェーズ・規模・個人の裁量範囲によって幅が広く、一般化しにくい。ただし、おおよその目安として以下のような分布が見られる。
| 対象層 | 想定年収レンジ(目安) |
|---|---|
| 経験3〜5年、スタートアップIC | 600〜900万円前後 |
| 経験5〜8年、メガベンチャー・SaaS | 800〜1,200万円前後 |
| 経験8年以上、マネジャー以上 | 1,000〜1,500万円前後 |
| コンサル→事業企画への転身(30代前半) | 700〜1,100万円前後 |
これらはあくまで相場感の目安であり、業種・企業規模・ストックオプションの有無・成果連動型報酬の割合によって実態は大きく異なる。特にスタートアップでは、固定給が抑えられる代わりにエクイティ報酬が付与されるケースもあるため、現金報酬のみで比較することには注意が必要である。
ケーススタディ:コンサル出身者の事業企画転職
典型的な転職パターンの構造
30代前半、戦略コンサルティングファームで5〜6年のキャリアを持つ人材が事業会社の事業企画部門へ転身するケースは、転職市場で一定の頻度で見られる。この層に対する企業側の評価と懸念点はおおむね以下のような構造を取ることが多い。
企業側が評価するポイント
- 論理的な課題整理・構造化のスキル
- 事業計画や投資判断の資料を短期間で仕上げる実行力
- 経営レイヤーとのコミュニケーションに慣れていること
企業側が懸念するポイント
- 「提言して終わり」ではなく、実行フェーズを担った経験が乏しい
- 自社事業への当事者性・オーナーシップが未知数
- KPIを継続的に追いかける運用経験が少ない
この懸念を払拭するためには、コンサル時代に「クライアントの事業に深く関与し、数字の変化を追ったプロジェクト経験」を具体的なエピソードとして語れるか否かが選考の分岐点になりやすい。また、面接においては「なぜコンサルではなく事業会社か」という問いに対して、事業への当事者性を軸にした答えを構築しておくことが、選考通過の確度を高める傾向がある。
よくある質問
Q1. 事業企画の求人は実際に増えているのか、それとも見た目だけか?
求人数自体は増加傾向にあるが、採用要件の高度化により、実際に内定を得られる候補者の絶対数は限られている。「事業企画」と名がついた求人のなかには、実態が経営企画補助や社内調整役にとどまるものも混在しているため、JD(職務記述書)の精査が重要である。
Q2. 未経験から事業企画へのキャリアチェンジは現実的か?
完全な未経験からの転身は難易度が高い傾向にある。ただし、営業・マーケティング・エンジニアリング等の職域で「事業数値を意識した業務経験」「社内横断プロジェクトへの参画」「データを用いた改善提案」の実績がある場合、親和性が認められるケースがある。まず現職で事業企画に近い業務を積むことが、最も現実的な移行ルートのひとつといえる。
Q3. SaaS企業と大企業の事業企画、どちらが市場価値を高めやすいか?
一概には言えないが、SaaS企業では「仮説検証・データドリブンな意思決定・事業KPIの管理」を短いサイクルで経験しやすい点が、汎用的なスキル獲得につながりやすい側面がある。大企業では関係者調整・予算管理・組織横断のプロジェクト推進経験が積みやすい。どちらが優れているというより、キャリアの次のフェーズで必要とされる経験が何かによって選択基準が変わる。
Q4. 事業企画職の転職活動における選考の特徴は?
多くの企業でケース面接・戦略プレゼン・ワークサンプルテスト等が組み込まれる傾向がある。コンサル選考と異なる点は、「あなたの過去の実績をどう再現できるか」が問われる点にある。抽象的なフレームワークの活用よりも、自分がどの意思決定に関与し、どう数字を動かしたかという具体性が評価されやすい。
まとめ
事業企画職の転職市場は求人数の増加という表面的な追い風がある一方で、採用要件の高度化・多様化により、単純な経験年数やブランド職歴だけでは通過しにくい構造になっている。企業フェーズごとに求められるスキルセットが異なること、そしてIC人材への需要が拡大していることは、キャリア設計において重要な変数である。データ分析力・事業への当事者性・実行を伴う推進経験の三軸が、市場価値を左右する共通因子として機能する傾向が続いている。自分の経験がどのフェーズ・どの組織形態に適合するかを客観的に把握することが、転職活動の精度を高める第一歩となる。現時点での市場価値の確認やキャリア選択の整理には、専門性を持つキャリアアドバイザーへの相談を活用することも、一つの有効な選択肢である。