CTO・VPoE候補の転職市場動向【2026年】|求人数・採用ニーズの変化

職種:CTO・VPoE候補 |更新日 2026/7/4

エンジニアリング組織のトップを担うCTO(最高技術責任者)およびVPoE(VP of Engineering)の候補層に対する採用ニーズは、2025年から2026年にかけて構造的な変化を遂げている。求人数の増減という表面的な数値だけでなく、企業が何を期待し、どのような候補者を選んでいるかという「採用の質」の変化を理解することが、この層の転職を検討する上では不可欠である。本記事では、市場全体の動向、ポジション別の需給構造、年収・処遇の傾向、そして候補者側に求められる要件の変化を順に整理する。


市場全体の動向:求人数より「採用難易度」が上昇している

求人の絶対数という観点では、CTO・VPoE候補ポジションはここ数年で一定の水準を保っている。スタートアップの新規設立数が高止まりし、SaaS企業のシリーズA〜C調達が継続していることが背景にある。

しかし実態として、採用担当者や経営者から聞こえる声は「人がいない」ではなく「合う人が見つからない」に変化している。この差異は重要である。候補者プールの絶対数が不足しているのではなく、企業が期待する要件と候補者の実態がミスマッチしている状態を指す。

具体的には、以下の3点が要件の変化として挙げられる。

最後の点は2025年以降に急浮上した要件であり、この一点だけで候補者の評価が大きく分かれるケースが増えている。


ポジション別の需給構造

CTO・VPoEは名称こそ似ているが、企業フェーズや組織設計によって役割の重心が異なる。転職市場においても、それぞれの需給バランスは異なる傾向がある。

CTOポジションの需給

CTOへの需要は、スタートアップとエンタープライズで二極化しつつある。

スタートアップ(シリーズA以前)では、創業CTOのままスケールできず「技術マネジメント寄りの外部CTOを採用したい」という需要が継続している。一方でシリーズB以降の企業では、「既存CTOの補佐・後継候補としての採用」というケースが増えており、ポジション定義が曖昧なまま採用が進むリスクが高い。

エンタープライズ(大企業・上場企業)では、DX推進文脈での技術責任者ポジションが増加しているが、既存の情報システム部門との権限整理が未解決なまま採用が走るケースが散見される。候補者側はオファー前に権限範囲の確認を徹底することが重要である。

VPoEポジションの需給

VPoEポジションは、エンジニア組織が一定規模(目安として20〜50名超)に達したSaaS・プロダクト企業での需要が中心である。

CTOが技術戦略・アーキテクチャ・対外コミュニケーションを担い、VPoEが採用・育成・組織設計・デリバリー管理を担うという分業が定着しつつある企業では、VPoEのポジションが明確に設計されている。しかし日本市場においては、この分業が明確に設計されている企業はまだ少数であり、実態としてはエンジニアリングマネージャー(EM)の上位職として「VPoE相当」のポジションが設けられているケースが多い。


年収・処遇の傾向

以下は、企業フェーズ・規模別の年収レンジの目安である。市場全体の傾向を示すものであり、個別の条件は企業の調達状況・業績・報酬設計によって大きく異なる。

企業フェーズ / 規模CTO想定レンジ(目安)VPoE想定レンジ(目安)
シリーズA前後(エンジニア〜20名規模)800万〜1,200万円 +ストックオプション700万〜1,000万円 +ストックオプション
シリーズB〜C(エンジニア20〜100名規模)1,200万〜1,800万円 +ストックオプション1,000万〜1,500万円 +ストックオプション
上場済み・大規模(エンジニア100名超)1,500万〜2,500万円超1,200万〜2,000万円
エンタープライズ(DX推進文脈)1,200万〜2,000万円1,000万〜1,600万円

ストックオプションについては、企業の株式価値・行使条件・ベスティングスケジュールによって実質価値が大きく変動するため、固定給換算での比較には限界がある。オファー検討時には、SO(ストックオプション)の行使価格・発行株数比率・クリフ期間を必ず確認したい。


候補者側に求められる要件の変化:2026年に向けた傾向

「技術 × 経営」の接続が評価軸の中心に

かつてはエンジニアリング領域での技術的深さが第一評価軸だったが、現在は「技術的意思決定をビジネス目標と結びつけて語れるか」が中心的な評価軸になっている。具体的には、以下のような場面での説明能力が問われる。

これらを「結果」として語れる候補者と、「方針」として語るにとどまる候補者の間では、評価の差が生じやすい。

生成AI実装経験の有無が実質的な差別化要素に

2025年以降、生成AI・LLMを開発プロセスまたはプロダクトに実装した経験の有無が、候補者評価における実質的な差別化要素となっている。具体的には以下の観点で問われる傾向がある。

「関心がある」「勉強中」という状態では、この要件を満たしているとは見なされないケースが増えている。

組織設計とカルチャー形成の言語化

エンジニア組織の規模拡大局面では、採用・育成・評価制度の設計経験が問われる。特に「どのようなカルチャーを意図的に設計したか」を説明できるかどうかが、面接の深度に影響しやすい。


ケーススタディ:VPoE採用における要件定義の変化

以下は実際のケースではなく、採用市場で観察される典型的なパターンを整理したものである。

状況:シリーズBを完了したSaaS企業。エンジニア組織が30名規模に拡大し、CTOが技術戦略に集中するためVPoEポジションを新設する方針を決定。

当初の要件:「大手企業出身で、マネジメント経験3年以上。スクラム・アジャイル推進の実績があること」

面接プロセスを経て要件が変化:数名の候補者と対話する中で、求めているのは「プロセス管理者」ではなく「組織の成長に伴う採用・評価制度の設計者」であると認識が変わる。最終的に採用したのは、エンジニア10名規模の組織を40名規模まで拡大した経験を持ち、採用基準の言語化・グレード制度の設計を主導した人物だった。

示唆:VPoEポジションは、要件定義の段階で「何をする人か」が不明確なまま採用が走りやすい。候補者側は、ポジションの目的・成功定義・CTOとの役割分担を面接の早い段階で確認することが有効である。


よくある質問

Q. CTO候補とVPoE候補では、どちらが転職市場での求人数が多いですか?

求人数の絶対値はCTO候補の方が多い傾向があるが、これはスタートアップ初期段階でのCTO採用需要が常に一定数存在するためである。VPoEポジションは組織が一定規模に達した企業に限定されるため、求人数は少ないが、候補者プールも絞られており、マッチング難易度は同程度と見るべきである。

Q. 現職でCTOや技術責任者の経験がなくても、これらのポジションへの転職は現実的ですか?

現職タイトルよりも「経験の中身」で評価される傾向が強い。エンジニアリングマネージャーや技術部長として、採用・評価・アーキテクチャ意思決定・経営層との連携を実質的に担ってきた実績があれば、タイトルがCTOでなくても候補者として評価されるケースは少なくない。

Q. エンタープライズ企業のCTO(DX推進文脈)と、スタートアップのCTOは、転職市場で互換性がありますか?

互換性は限定的であることが多い。エンタープライズのCTO経験者がスタートアップに転じる場合、スピード・リソース制約下での意思決定経験の有無が問われる。逆にスタートアップCTOがエンタープライズに転じる場合は、ステークホルダー管理・社内政治・稟議プロセスへの適応力が評価の焦点になりやすい。

Q. ストックオプションの条件はどのように評価すればよいですか?

比較の観点として、行使価格(付与時点の株価に近いほど有利)、発行済株式総数に対する付与比率(0.1%と1.0%では実質価値が大きく異なる)、クリフ期間(通常1年)とベスティングスケジュール(通常4年)、そして行使期限を確認することが出発点になる。調達ラウンドが進むにつれて付与比率が下がりやすい点も念頭に置いておきたい。


まとめ

CTO・VPoE候補の転職市場は、求人数の拡大よりも「要件の高度化と明確化」という方向で変化している。技術的な深さだけでなく、ビジネスとの接続・組織設計の実績・生成AIへの実装経験が実質的な評価軸に加わっており、候補者として準備すべき内容が数年前とは異なっている。企業側も採用の目的を言語化できていないケースがあるため、選考プロセスの早い段階でポジションの成功定義を確認することが候補者にとっても有効な判断材料となる。年収・ストックオプションの条件は企業フェーズによって大きく異なるため、個別条件の相場感を把握した上で比較・交渉することが重要である。現在のポジションや経験がCTO・VPoE候補としての市場価値に照らしてどこに位置するかを客観的に把握したい場合は、専門領域に精通したキャリアアドバイザーとの対話が一つの有効な手段になる。

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)