20代で組み込みエンジニアに転職する|ポテンシャル採用の実態と狙い目企業

職種:組み込みエンジニア |更新日 2026/7/4

組み込みエンジニアへの転職を20代で実現するには、「ポテンシャル採用」の論理を正確に理解することが出発点となる。Web系やアプリ開発と比較して採用母数が少なく、領域固有の専門性が求められるぶん、未経験・浅い経験からのキャリアチェンジには構造的な難しさがある。一方で、人材供給が需要に追いつかないため、素地のある20代を育成しながら採用しようとする企業も一定数存在する。本記事では、その実態と採用側の論理を整理しつつ、転職活動の解像度を高めることを目指す。

組み込みエンジニアという職種の構造的特徴

組み込みエンジニアは、家電・自動車・産業機器・医療機器・IoTデバイスなど、ハードウェアと一体になったソフトウェアを開発する職種である。OSが存在しない、あるいはRTOS(リアルタイムOS)など限定的な実行環境での開発が多く、メモリやCPUリソースの制約を前提とした実装が求められる。

この領域の特徴として、以下の点が挙げられる。

こうした特性から、即戦力採用では実機経験や特定アーキテクチャの知識が重視される。ただし、20代のポテンシャル採用においては、「基礎がある人材をどこまで育てられるか」という採用側の方針が色濃く出るため、経験の有無よりも素地と志向性が選考軸になりやすい。

ポテンシャル採用における評価軸

採用担当者が未経験・経験浅の20代候補者を評価する際、重視される要素はおおよそ以下のように整理できる。

技術的な素地

C言語の基礎的な文法理解、ポインタ操作・メモリ管理の概念的理解、ビット演算の経験といった基礎知識は、ポテンシャル採用においても一定の基準として機能する。大学や専門学校でマイコン実習を経験している場合はその内容を具体的に説明できることが重要であり、独学でArduinoやRaspberry Piを用いた製作経験があれば、実践的な関心の高さとして評価につながりやすい。

問題解決の思考プロセス

組み込み開発では、ハードウェアと絡み合った不具合の原因を論理的に切り分ける能力が実務上きわめて重要になる。面接では、過去の技術的な課題に対してどのようにアプローチし、解決したかという思考プロセスを具体的に語れることが求められる傾向がある。

領域への志向性と継続意欲

Web系に比べて習得に時間がかかること、成果が見えにくいプロセスが続くことなどを踏まえ、採用側は「なぜ組み込みか」という志向性を確認しやすい。物理的な製品が動く面白さや、ハードウェアに近い層でソフトウェアを制御することへの興味を、自分の言葉で語れるかどうかは選考に影響しやすい。

経験別・転職難易度と年収目安

経験・バックグラウンド転職難易度の目安想定年収レンジの目安
組み込み実務3年以上(車載・産機)比較的容易550〜750万円程度
組み込み実務1〜2年(民生品・IoT)標準的400〜550万円程度
他領域エンジニア(C言語経験あり)やや難しい350〜480万円程度
非エンジニア・文系学部(IT知識あり)難しい300〜400万円程度
電気・電子系学部卒(実務未経験)企業方針次第300〜420万円程度

上記はあくまで相場観の目安であり、企業規模・業種・勤務地・スキル詳細によって大きく変動する。特に車載(AUTOSAR対応・機能安全ISO 26262)や医療機器開発は専門性プレミアムがつきやすく、同じ経験年数でも他領域より高い水準になる傾向がある。

狙い目となる企業の特徴

すべての組み込み関連企業がポテンシャル採用に積極的なわけではない。20代転職において受け入れ体制が整っている企業には、一定の共通パターンがある。

メーカー系・Tier1サプライヤーの新規プロジェクト立ち上げ期

既存製品の改修フェーズではなく、新規開発プロジェクトの立ち上げ期に人員を拡充している組織は、ある程度の育成コストを許容していることが多い。採用要件に「意欲がある方、歓迎」「経験浅でも可」という文言が入っている場合でも、採用人数が複数名であれば育成前提の採用である蓋然性が高い。

受託開発・組み込み専業ベンダー

自社製品メーカーではなく、複数顧客から開発案件を受託するタイプの会社は、領域の幅が広く、さまざまな製品・アーキテクチャに触れる環境になりやすい。経験浅の段階での習熟スピードを重視するため、素地重視の採用になりやすい傾向がある。

IoT・スマートデバイス領域のスタートアップ〜中堅

比較的歴史が浅く、組織として組み込み開発の経験者層が薄いスタートアップでは、経験年数よりも自律的に学習できるかどうかを重視するケースがある。ただし、この場合は育成体制が整っているかどうかを入社前に確認することが重要で、「未経験でも大丈夫」という言葉だけで判断するのは慎重であるべきである。

ケーススタディ:Web系バックエンドエンジニアからの転職例

プロフィールの型: 24歳、大学の情報系学部卒後にWebシステム開発企業に入社。主にサーバーサイドのAPI開発を担当し、業務ではPythonとJavaを主に使用。趣味でArduinoを用いた電子工作を続けており、センサーデータの取得・送信を行う小型デバイスをC言語で実装した経験がある。組み込み系への関心は入社前から持っていたが、当初は就職機会がなかった。

転職活動での進め方の型:

  1. ポートフォリオの整備:GitHubにArduinoプロジェクトのコードを整理。READMEに設計意図・ハードウェア構成・つまずいた点と解決策を記載
  2. 基礎知識の補強:MIPSアーキテクチャやARM Cortex-Mシリーズの基本的な動作を書籍で確認。割り込み処理・DMAの概念を整理
  3. 企業選定の絞り込み:IoT機器・産業用センサーを扱う受託開発系の中堅企業を中心に検討。採用要件に「電子工作経験歓迎」「ポテンシャル重視」の記載がある企業を優先
  4. 面接での語り方:「なぜ組み込みか」に対し、趣味の製作で実機が動いたときの感覚を起点に、ソフトとハードの境界に近い層での開発に興味があることを具体的に説明

このようなケースでは、実務経験の有無よりも「自分で課題を設定して動くものを作った経験」を軸に評価されやすい。転職後の想定年収は350〜420万円程度からのスタートになることが多いが、実務経験を積むにつれて数年内に大幅に上昇する余地がある。

よくある質問

Q. 文系学部出身でも組み込みエンジニアになれますか?

可能性がゼロとは言い切れないが、難易度は高い。C言語のポインタ操作やメモリ管理、ハードウェアの基礎知識(デジタル回路・電気信号)は自力で学習している必要があり、それを示す成果物や学習記録が求められる傾向がある。専門学校や職業訓練での補強を経てから転職活動に入るルートが現実的な選択肢の一つとなる。

Q. 未経験から始める場合、最初に何を学ぶべきですか?

C言語の基礎(特にポインタ・構造体・ビット演算)と、マイコンの動作原理(割り込み・タイマー・UART等の通信インターフェース)を並行して学ぶことが有効とされている。ArduinoやSTM32評価ボードを用いた実機開発を通じて、コードと実際のハードウェア動作を紐付けて理解する経験を積むと、面接での説明にも具体性が生まれやすい。

Q. 転職後のキャリアパスはどのようなものが考えられますか?

一般的には、特定ドメイン(車載・医療・産機など)の専門家として深化するルートと、ソフトウェアアーキテクト・技術リードとして広く設計を担うルートが代表的である。近年はソフトウェアとクラウドの融合が進むIoT領域でのキャリアも広がりを見せており、組み込みの基礎を持ったうえでクラウド・通信プロトコルの知識を加えると市場価値が高まる傾向がある。

Q. 組み込み専業の転職エージェントと総合型エージェント、どちらが向いていますか?

組み込み・製造・電機系に特化したエージェントは、求人の精度と担当者の業界理解が高いことが多く、職種説明・スキル棚卸しの段階で実質的な支援を受けやすい。一方で総合型エージェントは求人の絶対数が多く、比較検討の幅が広がるメリットがある。自分の経験・志向によって求人の深さと幅のどちらが優先されるかを判断したうえで使い分けることが現実的な方法といえる。

まとめ

20代での組み込みエンジニア転職は、即戦力採用が主流の市場であるからこそ、ポテンシャル採用の論理を正確に理解し、評価される素地を明示することが重要になる。技術的な基礎知識の整備、実機経験の言語化、そして「なぜ組み込みか」という志向性の説明は、いずれも後回しにできない準備要素である。企業選定においても、採用背景・育成体制・プロジェクトのフェーズを確認することで、入社後のミスマッチを減らすことができる。組み込み領域は経験が積み上がるほど希少性が高まる分野であり、20代の早い段階での参入は中長期的な市場価値の形成に寄与しやすい。自分のスキルセットが組み込み転職においてどのような評価を受けるかを客観的に把握したい場合は、業界に精通したキャリアアドバイザーに相談することが一つの有効な選択肢となる。

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)