人事で年収600万円を超えるには|壁になる要素と突破法

職種:人事(HRBP) |更新日 2026/7/4

人事職において年収600万円は、一つの節目として多くのビジネスパーソンが意識するラインです。しかし「どうすれば越えられるか」を実務の構造から説明している情報は少なく、漠然とした努力論やスキルアップの掛け声にとどまる記事が大半です。この記事では、人事職の報酬構造と年収600万円前後で生じやすいキャリアの停滞要因を整理したうえで、具体的な突破の方向性を示します。

人事職の年収帯と職位の対応関係

まず、人事職全体の年収レンジを職位軸で整理します。以下はIT・SaaS・コンサル・大手事業会社を想定した目安です。企業の規模・業種・評価制度によって幅が生じるため、あくまで市場の傾向として参照してください。

職位の目安年収レンジ(目安)主な役割
担当者・スタッフ350〜500万円採用実務、給与・勤怠管理、入退社手続きなど
シニア担当・リーダー480〜650万円制度運用、採用PM、部分的なプロジェクト推進
HRBP・マネージャー600〜900万円事業部門との戦略連携、組織設計、タレントマネジメント
人事部長・HRディレクター900〜1,500万円以上人事戦略立案、経営レイヤーとの折衝、全社制度設計

この表で確認できるのは、600万円という水準が「シニア担当・リーダー」の上限付近から「HRBP・マネージャー」の入口付近に位置するという点です。つまり600万円の壁は、単なる評価の問題ではなく、職能の定義そのものが変わる境界線にあたります。

600万円前後で停滞しやすい構造的な理由

人事職に固有の「見えにくい貢献」問題

人事の業務は、売上や利益と直接紐づく数値を出しにくい性質があります。採用充足率・離職率・研修受講率といった指標を追うことはできますが、それが経営成果にどう連動しているかを説明できる人事担当者は多くありません。

担当者レベルでは業務の完遂度が評価軸になりやすいのに対し、600万円超の水準では「事業への影響」を言語化し、経営や事業部門に伝える力が求められます。ここで多くの人事担当者がつまずく傾向があります。

ロールの定義が曖昧な企業に留まるリスク

中小・中堅規模の企業では、人事部門がHRBPと労務と採用を兼務する構造になっていることが少なくありません。幅広い業務をこなせること自体は経験として価値がありますが、評価される職位が設計されていなければ、能力が年収に反映されにくくなります。

600万円を越えるためには、自分の職能が市場でどのカテゴリに位置するかを把握し、その職位を正式に設けている企業と向き合うことが重要です。

「人事経験」の抽象度が高い問題

転職市場では「人事として8年」という経歴より、「SaaS系スタートアップで採用体制をゼロから構築し、2年間で正社員数を30名から120名に拡大した」という記述のほうが市場価値の評価を得やすい傾向があります。

年数だけが積み上がる状態では、報酬交渉の際に根拠となる実績が乏しくなります。これは職能の問題ではなく、実績の記述と言語化の問題であるケースも多くあります。

600万円の壁を突破するための方向性

方向性①:HRBPへの職能シフト

HRBPは、特定の事業部門に伴走し、採用・育成・組織設計・離職防止を一体として担う役割です。労務・給与といった定型業務から距離を置き、事業の言語(売上・組織課題・ピープルリスク)で話せることが求められます。

事業部門のビジネスモデルや戦略を理解し、人材上のボトルネックを特定して解決策を提案した経験があれば、HRBPとしての市場価値を高めやすい傾向があります。現職でその役割を正式に担えない場合は、副業・プロボノ・社内のプロジェクト参画などで実績を積む選択肢もあります。

方向性②:採用領域の深度を上げる

採用は、人事の中でも報酬レンジが広くなりやすい領域です。特にIT・SaaSの領域では、エンジニアやデータサイエンティストを採用できる人材は希少性が高く、採用成果と処遇が連動しやすい傾向があります。

ただし、採用担当として「応募数を集める・日程調整をする」の水準では600万円超は難しい場合が多いです。採用戦略の立案・ブランド設計・エージェントマネジメント・クロージング交渉まで一気通貫で担える職能が問われます。

方向性③:組織・制度設計の経験を積む

評価制度・等級制度・報酬設計・タレントマネジメントといった領域は、専門性が高く希少性がある分、処遇に反映されやすい傾向があります。HRテック(HRIS)の導入・運用経験も、近年では評価されやすい要素です。

一方で、制度設計の経験は現職の機会に依存する部分が大きいです。意識的にプロジェクトオーナーとして関与し、設計の意思決定に入ることが、外部市場での評価に直結します。

ケーススタディ:転職によって年収560万円→680万円に至った人事担当者の型

以下は、一般的なキャリアの構造として整理した型です。特定の個人の事例ではありませんが、転職支援の現場で見られやすいパターンに基づいています。

背景:総合職として入社後、人事部に異動。8年間、採用・研修・制度運用を幅広く担当。現年収は560万円(シニア担当)。転職を検討するも、自己PRに自信が持てずにいる。

課題の整理:職歴の記述が「担当業務の列挙」にとどまり、成果・影響・意思決定の記述がない。希望職種を「人事全般」と記載しており、市場での位置づけが曖昧。

打ち手:採用担当として関与した際の充足数・充足率・採用チャネルの多様化などを数値で整理。研修については参加率・受講後の行動変容の自己評価アンケート結果を添える。応募企業を「HRBPを正式に設置している成長フェーズのIT企業」に絞る。面接では採用戦略の立案経験と、事業部門の経営者との折衝経験を具体的に話せるよう準備。

結果の型:HRBP肩書きのポジションへの転職により、680万円での内定を獲得。


この型から読み取れるのは、実績そのものが乏しいのではなく、実績の整理と職位の定義がある企業を選ぶという「打ち手の設計」が年収に直結したという点です。

よくある質問

Q. 人事で年収600万円を超えるのに、資格は必要ですか?

資格が直接的に年収を決定する傾向は弱いです。社会保険労務士の資格は労務領域での専門性を示す文脈で評価されることがありますが、それ単独で600万円超が実現するわけではありません。資格よりも、担当した業務範囲の広さ・深さと成果の言語化が評価に影響しやすいです。

Q. 現職で年収600万円を越えるのと、転職で越えるのはどちらが現実的ですか?

現職が「HRBP・マネージャー職位」を正式に設けており、かつ次のポジションに空きがある場合は内部昇進が現実的です。一方で、ジョブグレードが固定されている大企業や、人事部門の役割定義が曖昧な企業では、転職のほうが年収改善の速度が上がりやすい傾向があります。自社の等級制度と市場の水準を比較することが判断の起点になります。

Q. SaaSスタートアップへの転職は年収600万円超に有効ですか?

成長フェーズのSaaS企業は、採用やHRBPの職能に高い報酬を出す傾向があります。ただし、シリーズ前後のフェーズや資金状況によって年収テーブルは大きく異なります。また、スタートアップでは業務範囲が広い分、「専門職として何が強みか」を明確にしていないと、汎用的な担当者と見なされるリスクもあります。

Q. 年収600万円超を目指す場合、転職のタイミングはいつが適切ですか?

特定の年次よりも、実績のまとまりと次のポジションに必要な経験の充足度で判断するほうが合理的です。「現職でのプロジェクトが一段落し、成果を数値で語れる状態」になっているタイミングが、転職活動の質を高めやすい傾向があります。逆に、実績が途中の段階で活動を始めると、成果の説明が薄くなりがちです。

まとめ

人事職における年収600万円は、担当者の上限からHRBP・マネージャー層の入口にあたる境界線に位置します。停滞の原因は能力不足よりも、職位設計が曖昧な環境・実績の言語化不足・ポジションの不一致にあるケースが多い傾向があります。突破の方向性はHRBPへの職能シフト・採用領域の深化・組織制度設計への関与の3軸に整理でき、いずれも「市場での位置づけを明確にする」ことが前提となります。転職か内部昇進かの判断は、自社の等級制度と市場水準の比較から始めるのが現実的です。現時点での自身の市場価値を客観的に把握したい場合、専門のキャリアアドバイザーへの相談が一つの選択肢となります。

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)