人事の働き方のリアル|激務度・残業・リモート事情
人事職の働き方は、担当領域や組織規模、そして近年急速に普及したHRBP(HRビジネスパートナー)という役割区分によって大きく異なります。「人事は定時で帰れる」「激務で有名」といった相反するイメージが混在するのは、人事という職種が内包する業務の幅広さと、配属ポジションによる繁閑差を反映しているためです。
本稿では、人事職の実務負荷・残業実態・リモートワーク環境を、業務区分・組織規模・キャリアステージという三つの軸から整理します。転職を検討するうえで「自分が担う業務はどの区分に近いか」を見極める視点を提供することを目的としています。
人事職は「一枚岩」ではない:業務区分別の繁閑構造
人事部門の業務は大きく四つに区分できます。それぞれ繁忙期・業務負荷・求められるスキルセットが異なるため、働き方の議論は区分を特定してから行う必要があります。
| 業務区分 | 主な職務内容 | 繁忙ピーク | 残業傾向 |
|---|---|---|---|
| 採用 | 新卒・中途の母集団形成〜内定承諾管理 | 新卒:秋〜春、中途:通年 | 高め(選考シーズンは顕著) |
| 労務・制度管理 | 給与計算、社会保険手続き、就業規則整備 | 月次クローズ時、年末調整、法改正対応時 | 周期的に高い |
| 人材開発・研修 | 研修設計・ファシリテーション、タレントマネジメント | 期初・期末(評価連動施策時) | 中程度・プロジェクト依存 |
| HRBP | 事業部門との経営課題連動、組織設計、人員計画 | 事業計画策定時(下期〜上期切り替え) | 担当事業の繁閑に連動 |
採用担当が選考シーズンに週60時間超の稼働になることがある一方、制度設計を専門とする人材開発担当が閑散期に比較的余裕を持つ、という光景は同じ人事部門内でも起こり得ます。転職時に「人事の働き方」を一括りに評価することは、構造的に難しいといえます。
組織規模別の負荷構造
スタートアップ・中小規模(〜300名程度)
少人数の人事チームが採用・労務・制度・HRBPに相当する機能を兼務するケースが大半です。「採用しながら給与計算もする」という状況は珍しくなく、特定業務の深掘りよりも広範な対応力が求められます。
繁閑の差が大きく、採用強化フェーズでは残業が常態化しやすい傾向があります。その代わり、意思決定が速く、制度設計から実行まで一貫して携わりやすいため、経験値の蓄積スピードは速くなりやすいです。リモートワーク対応は経営判断によってばらつきが大きく、出社比率が高い組織も多く残っています。
大企業・上場企業(1,000名超)
業務区分が明確に分かれており、担当領域の専門性が深まりやすい環境です。一方で、稟議・調整プロセスが複雑なため、施策の実行までに時間を要しやすい側面があります。
残業実態は区分によって異なりますが、採用担当はエージェント対応・面接調整・説明会運営が重なる時期に負荷が集中しやすく、労務担当は月次の締め作業と法改正対応が重なった際に急増する傾向があります。リモートワークは整備が進んでいる組織が多いものの、面接・オンボーディングの対面対応など、出社が不可欠な業務が残ります。
外資系企業・グローバル企業
HRBPの機能が日本法人にも浸透しているケースが多く、本国・地域HQとのやり取りが発生します。英語での業務対応に加え、時差を考慮したグローバルプロジェクトへの参加が残業時間を押し上げる要因になりやすいです。その反面、ジョブ型雇用の慣行が浸透しているため、自分の職責外の業務を抱え込みにくい構造でもあります。
HRBPに特有の働き方
HRBPは人事部門に籍を置きながら、担当事業部門の経営課題を人材・組織の観点から支援するポジションです。事業部長やCXO層とのコミュニケーションを日常的に行うため、働き方は担当事業の状況に強く連動します。
繁忙のトリガーは以下のような局面に集中しやすいです。
- 事業計画策定・中期経営計画の見直し時期
- 組織再編・M&A・大規模採用計画の立案時
- 業績不振に伴う組織縮小・配置転換の検討時
- 評価制度改訂・等級制度の設計プロジェクト
こうした局面では、経営層・事業責任者・人事部門三者の調整が同時に進むため、深夜・週末に資料作成や折衝が発生しやすくなります。逆に、組織が安定稼働している時期は比較的コントロールしやすい環境になる傾向があります。
リモートワークについては、HRBPは「事業部門との関係構築」が職務の核になるため、対面コミュニケーションを重視する組織では出社比率が高めに設定されやすいです。特に新任HRBPが担当事業部門との信頼関係を構築する段階では、オフィスでの偶発的な対話が重要な情報源になることも多く、「週3出社・週2リモート」程度のハイブリッド形態を採用している企業が多い印象です。
ケーススタディ:事業会社のHRBPとして転じた中途入社者の例
背景:大手SaaS企業の営業マネージャーとして5年間勤務後、同規模の事業会社でHRBPポジションに転職。30代前半。
入社後6ヶ月の繁閑:入社直後は担当事業部門(製品開発部門・約200名)のビジネス理解に時間を投下。会議への同席・1on1でのリレーションシップ構築が中心で、残業は月20〜30時間程度。
繁忙期のトリガー:中期経営計画の策定サイクルに入った入社7ヶ月目から様相が変化。事業部の人員計画・採用要件・組織構造の提案を同時並行で進める必要が生じ、月残業時間が50時間前後に上昇。
構造的な気づき:営業職時代との違いは「自身の業務量が事業の繁閑ではなく、経営イベントのタイミングで決まる」点。採用担当のように毎年同じサイクルで繁閑が訪れるわけではなく、M&A・組織再編といった非定型イベントが突発的に負荷を生む。プロジェクトベースで働ける自律性と、急な繁忙への耐性が求められるという認識を持つに至った。
リモートワーク・働き方改革の現在地
人事職全体としては、テレワーク可能な業務比率が高い職種の一つに位置づけられています。データの取り扱いにセキュリティ上の配慮が必要な労務業務でも、クラウド型人事システムの普及によってリモート対応の幅が広がっています。
ただし、以下の業務は対面が残りやすい傾向があります。
- 採用面接(カジュアル面談はオンライン化が進む一方、最終面接は対面を残す企業が多い)
- 新入社員のオンボーディング・研修
- 人事評価フィードバック・ピープルマネジメントの支援場面
- 労使交渉・従業員との機微な相談対応
フルリモートを実現している人事職は存在しますが、上記のような対面残存業務があるため、「週1〜2日程度の出社を前提としたハイブリッド」が現実的な着地点として多く採用されています。
よくある質問
Q1. 人事は残業が少ない職種というイメージがありますが、実態は?
業務区分・担当領域・組織フェーズによって大きく異なります。採用担当が新卒選考シーズンに繁忙を迎えること、労務担当が月次・年次の締め作業で急増することはよく知られた実態です。一方で、制度設計やタレントマネジメントを専任で担うポジションは、プロジェクトの波こそあれ、年間を通じた平均残業時間は抑えられやすい傾向があります。「人事だから楽」「人事だから激務」という単純化は実態と乖離しやすいです。
Q2. HRBPと従来型人事では、働き方にどのような違いがありますか?
従来型人事は業務プロセスの定型サイクル(採用・労務・研修)に沿った繁閑が生じやすいのに対し、HRBPは担当事業の経営イベント(組織再編・M&A・中計策定)に連動した非定型の負荷が特徴です。また、事業部門との関係構築が職務の中核を占めるため、対面コミュニケーションの比重が高く、フルリモートになりにくい傾向があります。
Q3. 人事への転職後、業務量・働き方が変わることで後悔するケースはありますか?
多いのは「想定より業務量が多かった」よりも「想定より成果の手応えを感じにくかった」という声です。人事の成果は数値化しにくく、施策の効果が顕在化するまでに時間を要します。特に営業職などから転じた場合、短期で達成感を得られる構造でないことへのギャップが生じやすい傾向があります。働き方そのものより、成果実感の得方が変わることを事前に理解しておくことが重要です。
Q4. 人事職でキャリアを積む場合、どの区分から入るのが一般的ですか?
中途採用では、採用担当または労務担当として特定領域の即戦力を求める求人が多く、入り口としてはこの二区分が多い傾向があります。HRBPは事業理解・人事全般の経験・経営層とのコミュニケーション能力を同時に求められるため、人事キャリアを数年積んだ後のステップとして設定している企業が多いです。ただし、事業会社出身者(営業・コンサル等)がHRBPとして直接採用されるケースも近年増加傾向にあります。
まとめ
人事職の働き方は、採用・労務・人材開発・HRBPという業務区分、および組織規模・事業フェーズによって異なる構造を持っています。「定時帰り」「激務」という二項対立では実態を捉えられず、担当領域と組織の状況を組み合わせた解像度で理解することが重要です。リモートワーク環境は整備が進んでいる一方、対面残存業務が完全になくなるわけではなく、ハイブリッド形態が現実的な着地点として定着しつつあります。HRBPという役割は働き方の自律性が高い反面、事業サイクルに連動した非定型な負荷に備える必要があります。人事職への転職・領域変更を検討する際は、自身のキャリアステージと希望する業務区分を明確にした上で、市場での自身の価値をキャリアの専門家と確認してみることを一つの選択肢として考えてみてください。