AI・機械学習スタートアップの年収相場|転職で押さえるべきポイント
AI・機械学習スタートアップの年収は、転職メディアでは高水準としてまとめられがちですが、算出根拠が示されないまま数字だけが並ぶことが多い領域です。この記事では、上場企業が有価証券報告書に記載した平均年間給与という、根拠の明示された数値だけを使って報酬の構造を整理します。2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。
上場3社の水準は、意外なほど近い
まず実額を並べます。いずれも各社が提出した有価証券報告書の記載で、提出会社単体の数値です。
| 会社 | 対象事業年度 | 従業員数 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|---|---|
| 株式会社ABEJA | 第13期(2025年8月期) | 133人(11) | 36.7歳 | 2.7年 | 9,527千円 |
| 株式会社PKSHA Technology | 2025年9月期 | 366名 | 36.1歳 | 1.5年 | 9,228千円 |
| 株式会社エクサウィザーズ | 2026年3月期 | 270人(55) | 34.9歳 | 3.0年 | 8,550千円 |
括弧内は臨時雇用者数の年間平均人員で、外数として記載されているものです。
注目したいのは、3社の水準がかなり近い点です。最も高いABEJAと最も低いエクサウィザーズの差は約98万円にとどまります。従業員規模は133人から366人まで開きがあり、事業構成も異なるにもかかわらず、給与水準は同じ帯に収まっています。
これは偶然ではなく、同じ人材を奪い合っている結果と読むのが自然です。この領域で採用したい人材の層が重なっているため、提示できる水準も近づきます。会社選びを給与だけで進めても差がつきにくい、ということでもあります。
官公庁統計との差を、年齢構成から読む
職種側の水準は、厚生労働省が運営する職業情報提供サイト job tag で確認できます。
| 項目 | AIエンジニア | システムエンジニア(Webサービス開発) |
|---|---|---|
| 平均年収 | 609.8万円 | 578.5万円 |
| 平均年齢 | 42.2歳 | 37.1歳 |
| 月間労働時間 | 160時間 | 159時間 |
| 時間給(一般労働者) | 2,954円 | 2,819円 |
| 就業者数 | 207,400人 | 389,760人 |
| 求人賃金(月額) | 32.3万円 | 35.2万円 |
| 有効求人倍率 | 2.25 | 2.57 |
平均年収・平均年齢・月間労働時間・時間給は令和7年賃金構造基本統計調査、就業者数は令和2年国勢調査、求人賃金と有効求人倍率は令和6年度ハローワーク求人統計にもとづく数値です。
AIエンジニアの平均年収609.8万円と、前掲3社の8,550千円から9,527千円という水準の間には、200万円から300万円ほどの差があります。しかも統計側の平均年齢は42.2歳で、3社の34.9歳から36.7歳より高くなっています。
年齢が高いほうが年収が低いという逆転が起きているわけです。理由は母集団の違いにあります。統計の対象には、大手メーカーや金融機関の情報システム部門でAI関連業務を担う層まで広く含まれます。専業のスタートアップとは、報酬設計も年齢構成も異なります。
したがって、統計の平均値をそのまま自分の想定額に置くと見込みがずれます。参照すべきは、応募先と同じ性質の企業の開示です。
勤続年数と給与の関係を注記まで読む
前掲の表で、平均勤続年数には1.5年から3.0年まで開きがあります。ここは注記まで読まないと解釈を誤ります。
PKSHA Technologyの有価証券報告書には、前事業年度末に比べ従業員数が246名増加した理由として子会社2社の吸収合併が挙げられ、平均勤続年数の算定において合併により増加した従業員は合併時点からの勤続年数を用いているため前事業年度に比べ短縮した旨が注記されています。平均年間給与についても、当該合併により増加した従業員を含めているため前事業年度に比べ減少したと記載されています。
つまり同社の1.5年という数値は、離職の多さではなく組織再編の結果です。
一方、エクサウィザーズは平均年間給与8,550千円について対前事業年度増減率5.3%と記載しています。こちらは増加方向です。同じ「AIスタートアップ」でも、数字が動く理由は会社ごとに異なります。
ABEJAは単一セグメント(デジタルプラットフォーム事業)であるとしてセグメント別の記載を省略しており、平均年間給与には賞与及び基準外賃金を含む旨が注記されています。
エージェントベストの見解
公開されている平均年収609.8万円は、平均年齢42.2歳の集団の平均値です。この数字を根拠に想定年収を組み立てると、実際の提示額と合いません。前掲のとおり、専業3社は35歳前後の年齢構成で850万円から950万円台の水準を開示しています。統計より若く、統計より高い。ここで見誤りやすいのは、この差が技術力の差ではないという点です。差を生んでいるのは、扱う工程の範囲です。面談で確認しているのは、データが整っていない状態から要件を定義した経験があるか、運用中のモデルの劣化に対処した経験があるかの2点です。この2つを持っている方は、統計値とは別の水準でレンジが動きます。
報酬を動かす要素
この領域で提示額が変わる要因は、いくつかに整理できます。
担う工程の範囲。 モデル開発だけを担うのか、データ整備から運用まで通しで担えるのか。この差が最も直接的に効きます。
顧客と話せるか。 受託・ソリューション側の事業では、顧客の業務要件を技術要件に翻訳する工程が価値の中心にあります。ここを担える人材は限られます。
業界知見。 製造、金融、医療など、特定領域の業務理解を持つ人材は母集団が小さくなります。データの意味を業務の文脈で解釈できることが、モデルの質に直結するためです。
組織の局面。 拡大局面にある会社では、採用の必要から提示水準が動くことがあります。前掲のように、従業員数の増減理由は有価証券報告書に記載されます。
入社時の職位。 等級制度が設けられている会社では、レンジは職位に紐づきます。入社後の昇給より、入社時の評価の影響が大きくなる傾向があります。
この5つのうち、転職の前後で最も動かしやすいのは業界知見の見せ方です。前職で扱っていた業務の理解は、すでに手元にあります。それをデータの文脈で説明できる形に整えるだけで、評価の入り口が変わります。逆に、手法の習得は時間がかかるうえ、前掲のとおり3社の水準が近接していることからも、手法の数で提示額が大きく動く構造にはなっていません。
労働時間あたりで見ておく
提示額を評価する際は、稼働時間の前提もあわせて見ておくと判断がしやすくなります。
前掲の職種統計では、AIエンジニアの月間労働時間が160時間、システムエンジニア(Webサービス開発)が159時間と示されています。時間給に換算すると2,954円と2,819円です。大きな差はありません。
ただしこれは当該分類全体の平均であり、案件の局面によって変動します。納期前や新規プロダクトの立ち上げ期には稼働が集中する傾向があります。
なお、株式会社エクサウィザーズの有価証券報告書には、対面コミュニケーションを通じたプロダクト・サービスの成長及びイノベーション促進を目的として、週3日程度の出社を基本としている旨が記載されています。この種の勤務方針は年度によって見直されることがあるため、応募時点の条件は募集要項で確認する必要があります。金額だけでなく、働き方の条件まで含めて比較することをおすすめします。
株式報酬をどう評価するか
この領域では、提示条件に株式報酬が含まれることがあります。評価の仕方を整理しておきます。
まず、付与時点の評価額と実際に価値が確定する時期は異なります。年収の一部として単純に足し合わせると、手取りの見込みがずれます。
次に、上場企業と未上場企業では性質が変わります。上場していれば市場価格が参照でき、権利行使後の売却も想定しやすくなります。未上場の場合、価値が確定する時期そのものが不確実です。
そのうえで、現金部分だけで生活が成立するかを先に確認します。株式報酬は上振れの可能性を持つ一方、確定した収入ではありません。この切り分けをしないまま条件を比較すると、判断を誤ります。
複数社から提示を受けている場合は、現金部分と株式部分を分けて並べ、そのうえで担当予定の工程を比較します。この領域は工程の範囲で報酬が動くため、初年度の金額が低いほうが数年後に上回るという逆転が起こり得ます。
エージェントベストの見解
書類の段階で想定レンジが変わるのは、扱ったデータの規模と、モデルの行き先を書けているかどうかです。この領域の職務経歴書で最も多いのは、使用フレームワークと手法名、精度指標が並んでいるものです。読み手は事業への貢献を判断できません。必要なのは、データの行数の桁、対象期間、そのモデルがどの業務のどの判断に組み込まれたのかという情報です。運用に乗らなかった案件でも、その理由を書けていれば評価されます。守秘に配慮が必要な場合でも、桁数や範囲での表記は可能です。技術要素は面接で確認されるので、書類では規模と行き先を優先することをおすすめします。
まとめ
AI・機械学習スタートアップの年収は、上場3社の開示で見ると8,550千円から9,527千円という近い帯に収まっています。従業員規模も事業構成も異なるにもかかわらず水準が接近しているのは、同じ人材層を奪い合っている結果と読めます。
官公庁統計のAIエンジニアの平均年収609.8万円とは200万円以上の差があり、しかも統計側の平均年齢42.2歳のほうが高くなっています。母集団の違いによる逆転であり、統計値を想定額の基準にすると見込みがずれます。
開示された勤続年数や給与の増減は、注記まで読む必要があります。組織再編によって数値が動いている例があるためです。株式報酬が含まれる場合は、現金部分と分けて評価することをおすすめします。
よくある質問
Q. AIスタートアップに移ると年収は上がりますか。
一律には言えません。前掲の上場3社では提出会社の平均年間給与が8,550千円から9,527千円の水準で開示されていますが、これは平均値であり、個別の提示額は担う工程と職位で決まります。現職の水準によって結果が変わります。
Q. 統計の平均年収より各社の開示が高いのはなぜですか。
母集団が異なるためです。職業情報提供サイト job tag のAIエンジニアは平均年齢42.2歳で、大手企業の情報システム部門などを広く含みます。専業のスタートアップは35歳前後の年齢構成で、報酬設計も異なります。
Q. 未上場のAI企業の年収はどう調べればよいですか。
有価証券報告書がないため、平均年間給与を一次情報で確認することは難しくなります。募集要項に記載されたレンジと、面談での確認が現実的な手段です。上場企業の開示は、同じ人材層を採用する企業の水準として参考になります。
- 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「AIエンジニア」(令和7年賃金構造基本統計調査ほか)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「システムエンジニア(Webサービス開発)」
- 株式会社ABEJA 有価証券報告書 第13期(2025年8月期)
- 株式会社PKSHA Technology 有価証券報告書(2025年9月期)
- 株式会社エクサウィザーズ 有価証券報告書(2026年3月期)
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。