ヘルステックの年収相場|転職で押さえるべきポイント

ヘルステック 年収相場 更新日 2026/8/11

ヘルステックの年収は、転職メディアでは「医療×ITで高水準」とまとめられがちですが、実際には会社によって倍近い差があります。この記事では、上場している事業会社の有価証券報告書に記載された平均年間給与という、算出根拠が明示された数値だけを使って報酬水準を整理し、その差がどこから生じているかを解説します。2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。

報酬は「医療のどの機能を担うか」で分かれる

前提として押さえたいのは、ヘルステックの報酬が「ヘルステックかどうか」ではなく、その事業が医療のどの機能を担うかで決まる点です。

ヘルステックには、いくつかのモデルがあります。医師向けのプラットフォームや医療データを扱う事業、オンライン診療や電子カルテを提供する事業、医療・介護の人材サービスを担う事業、医療機器や検査を扱う事業などです。扱う対象が、医師という専門職に近いほど、また、医療データという高い専門性を要する領域ほど、報酬原資の確保の仕方が変わります。一方、人材サービスは対人の職種を多く抱え、全社の平均は別の構造になります。

この違いは、後述するとおり有価証券報告書に記載された平均年間給与に表れます。求人票の提示レンジだけを並べても比較にならないのは、この構造があるためです。

上場5社の有価証券報告書に見る実額

上場企業は、有価証券報告書に提出会社の従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与を記載しています。以下はいずれも各社が提出した有価証券報告書の記載です。

会社対象事業年度従業員数平均年齢平均勤続年数平均年間給与
PHCホールディングス株式会社2026年3月期145名49.0歳17.5年9,834,195円
エムスリー株式会社2026年3月期750名34.8歳4.6年9,759千円
株式会社JMDC2026年3月期499名39.4歳4.5年8,227,757円
株式会社メドレー2025年12月期1,511名33.8歳3.6年5,629千円
株式会社エス・エム・エス2026年3月期3,214名32.8歳4.3年5,179千円

最も高いPHCホールディングスと最も低いエス・エム・エスの間には、約470万円の差があります。同じ「ヘルステック」の括りの中で、この幅が生じています。

この表は注意して読む必要があります。PHCホールディングスの提出会社145名は、持株会社の従業員数です。同社の有価証券報告書では、連結従業員数が8,647名と記載されており、事業の実体はこの連結側にあります。主要な事業会社であるPHC株式会社は従業員1,486名、平均年間給与7,275,153円と記載されています。持株会社の平均年間給与は、限られた母集団の数値であり、事業会社全体の水準とは離れます。この一社は、参照すべき数値の性質が異なります。

なぜ倍近い差が出るのか

差の背景を読み解く鍵は、事業モデルと職種構成にあります。

エムスリーとJMDCは、医師向けのプラットフォームや、医療データの利活用を中核とします。エムスリーの有価証券報告書には、メディカルプラットフォームやエビデンスソリューションなどのセグメントが、JMDCにはヘルスビッグデータや遠隔医療のセグメントが記載されています。これらは、医療とデータの高い専門性を要する職種が母集団に多く、平均年間給与も高くなる傾向があります。

一方、メドレーとエス・エム・エスは、医療・介護の人材サービスを主要な事業の一つとします。メドレーの有価証券報告書には人材プラットフォーム事業(ジョブメドレー等)と医療プラットフォーム事業が、エス・エム・エスには医療・介護向けのキャリアサービスが記載されています。人材サービスは、営業やキャリアアドバイザーといった対人の職種を多く抱えます。平均年間給与は、こうした職種構成を反映した全社の平均です。

つまり、平均年間給与の高低は、報酬制度の優劣ではなく、医療のどの機能を担うか、そしてどんな職種で構成されているかを反映しています。数値の順位だけを見て判断するのは適切ではありません。

医療系の職種統計が示す水準

会社側ではなく職種側から見た水準は、職業情報提供サイト job tag で確認できます。ヘルステックには複数の職種が関わるため、代表的な区分を並べます。

区分平均年収出典
システムエンジニア(Webサービス開発)578.5万円令和7年賃金構造基本統計調査
薬剤師566.8万円令和7年賃金構造基本統計調査
保健師551.4万円令和7年賃金構造基本統計調査

ヘルステックは、開発職に加えて、薬剤師や保健師といった医療の専門職、そして営業やアドバイザーなど、複数の職種が関わります。職種によって水準が異なる点は、前掲の会社別の平均が職種構成を反映していたのと同じ構造です。自分がどの職種で関わるかによって、参照すべき水準が変わります。

エージェントベストの見解

公開されている平均年間給与を会社の実力として読むと、判断を誤ります。前掲の5社で約470万円の差が出ていますが、これは報酬制度の優劣ではありません。医師向けプラットフォームや医療データを扱う会社は、専門性の高い職種を多く含み、人材サービスを主力とする会社は、対人の職種を多く含みます。さらにPHCホールディングスの145名は持株会社の数値で、事業の実体は連結8,647名の側にあります。転職者が知りたいのは全社平均ではなく、自分の職種と職位で提示される額です。同じヘルステックでも、医療データのエンジニアなのか、人材サービスの営業なのかで、参照すべき水準が変わります。面談では、開示されている平均値ではなく、直近で同じ職務要件の方にどのレンジが提示されたかを見ています。この二つは別の数字だと考えたほうが安全です。

年収を動かす要因

この領域で報酬が動く要因は、いくつかに整理できます。

第一に、担当する職種です。医療データのエンジニア、医療の専門職、営業・アドバイザーで、水準の付き方が変わります。前掲の会社別平均は、この職種構成を反映しています。

第二に、医療の専門性の要否です。医師や医療機関を相手にする事業では、医療の知識と、それを扱う責任が求められ、母集団が絞られます。専門性の高い職務ほど、水準が上がる傾向があります。

第三に、入社時の職位です。多くの会社で等級制度が設けられ、レンジは職位に紐づきます。入社後の昇給よりも、入社時にどの等級で評価されるかの影響が大きくなる傾向があります。

第四に、賞与や業績連動部分の比率です。有価証券報告書の平均年間給与は、一般に賞与及び基準外賃金を含みます。固定部分と変動部分の比率は会社や職種によって異なるため、提示額の内訳を確認しておく価値があります。

オファーで確認する内訳

オファーを受け取った段階で確認しておきたい点を挙げます。

固定給と賞与の内訳は、最初に確認したい項目です。年収の提示額に業績連動部分が含まれている場合、その部分の過去の支給実績を聞いておくと見通しが立ちます。

参照先が親会社か子会社かも確認したい点です。PHCホールディングスの例のように、持株会社と事業会社では平均年間給与が算出された母集団が異なります。転職先がどの法人かで、参照すべき数値が変わります。

株式報酬が含まれる場合、その扱いも整理が要ります。付与時点の評価額と、実際に価値が確定する時期は異なります。年収の一部として単純に足し合わせると、手取りの見込みがずれます。

業界全体の年収の考え方はヘルステック業界の年収相場でも整理しています。

エージェントベストの見解

書類の段階で提示レンジが変わるのは、扱った対象を数値で書けているかどうかです。ヘルステックの職務経歴書でよく見るのは、担当プロダクトと技術が並んでいるだけのものです。医療データに関わる職務であれば、扱ったデータの規模や種類、それをどんな判断につなげたかを書けるかどうかで読み手の評価が変わります。営業やアドバイザー職であれば、担当した医療機関や事業者の数、成約や継続への貢献です。開発職であれば、医療情報という機微なデータを扱ううえでの設計上の配慮です。これらは前職の守秘に配慮しつつ、桁数や比率で表現できます。医療という領域は、扱う情報の重みが評価に直結するため、その情報にどう向き合ったかを書けると、同じ経歴でも面接に進んだ時点の想定レンジが変わることがあります。

まとめ

ヘルステックの年収は、業界全体の相場としてひとつの数字で語れるものではありません。上場5社の有価証券報告書を見ると、提出会社の平均年間給与は5,179千円から9,834,195円まで開きがあります。

この差の背景には、医療のどの機能を担うか、そして職種構成の違いがあります。医師向けプラットフォームや医療データを扱う会社は専門性の高い職種を多く含み、人材サービスは対人の職種を多く含みます。PHCホールディングスのように、持株会社と事業会社で参照すべき数値が異なる場合もあります。

自分の場合いくらになるかは、担当する職種と、入社時の職位で決まる部分が大きくなります。開示された平均値は業界の構造を理解する材料として使い、個別の提示額は別途確認することをおすすめします。

よくある質問

Q. 持株会社と事業会社では、なぜ平均年間給与が違うのですか。

A. 平均年間給与が算出される母集団が異なるためです。純粋持株会社の従業員は管理部門などに限られることが多く、事業を担う従業員は事業会社側に配置されます。PHCホールディングスの提出会社145名と連結8,647名のように、参照する法人によって数値が変わります。転職先がどの法人かを確認する必要があります。

Q. ヘルステックに移ると年収は上がりますか。

一律には言えません。前掲の上場5社では提出会社の平均年間給与が5,179千円から9,834,195円まで分布しており、事業モデルと職種構成による差が大きい領域です。現職の水準と職種によって結果が変わるため、個別に確認する必要があります。

Q. 医療データの職種と、人材サービスの営業では、年収は違いますか。

職種によって水準の付き方が変わります。医療データや医師向けプラットフォームは専門性の高い職種を多く含み、人材サービスの営業は対人の職種になります。会社別の平均は、こうした職種構成を反映した数値です。

Q. 医療の資格がないと、年収は低くなりますか。

職務によります。開発やプロダクトの職種では、医療の資格そのものより、医療データや制度を理解して扱えるかが問われます。薬剤師や保健師などの専門職では、資格が職務の前提になります。自分の職種で何が問われるかを確認することをおすすめします。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)