CxO候補・経営幹部の年収相場|転職で押さえるべきポイント
提示された金額だけでは、受け取る額は決まらない
CxO候補・経営幹部のオファーは、現金の年収だけで比較できません。株式報酬が加わり、役員に就任すれば報酬の決め方そのものが変わるためです。
同じ「想定年収1,000万円」でも、その後の増え方は会社によって大きく違います。期の途中で上げられる会社と、年に一度しか動かせない会社があります。株式報酬が付く場合、それが現金になる時期は入社時点では決まりません。
この記事では、このポジションの報酬がどういう構造で決まるのかを分解し、提示条件を読むときに何を確認すべきかを整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。
報酬は3つの層に分かれる
経営幹部の報酬は、性質の違う3つの層で構成されます。層ごとに、決まり方も受け取れる時期も違います。
| 層 | 内容 | 受け取る時期 | 変動要因 |
|---|---|---|---|
| 固定 | 毎月の基本報酬 | 毎月 | 就任時の交渉、年に一度の改定 |
| 変動 | 賞与、業績連動部分 | 期末など | 会社の業績、個人の評価 |
| 株式 | ストックオプション、譲渡制限付株式など | 上場やM&Aなどの後 | 企業価値、在籍期間、行使条件 |
比較を難しくしているのは、この3層の比重が会社ごとに違うことです。固定を厚くして株式を薄くする会社と、固定を抑えて株式で報いる会社では、提示される年収の数字が同じでも中身は別物になります。
とくに設立から間もない会社では、固定部分が前職より下がる提示になることがあります。その差を株式で埋める設計です。この場合、株式部分の条件を読まずに判断すると、実質的な条件を見誤ります。
役員になると、報酬の決め方が変わる
従業員と役員では、報酬をめぐるルールが異なります。ここは転職前に知っておく価値があります。
国税庁の説明によれば、法人が役員に支給する給与のうち損金に算入されるのは、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに該当するものとされています。それぞれに要件があります。
定期同額給与 — 支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期における支給額が同額であるものとされています。改定は原則として、その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに行うこととされ、それ以降は職制上の地位の変更などの臨時改定事由や、業績悪化改定事由といった限られた場合に限られます。
事前確定届出給与 — 所定の時期に確定した額の金銭等を交付する定めに基づいて支給されるもので、原則として届出が求められます。届出の期限は、会計期間開始の日から4か月を経過する日と、株主総会等の決議日から1か月を経過する日のいずれか早い日とされています。
業績連動給与 — 業績を示す指標を基礎として算定されるもので、業務執行役員の全員に支給されることなどが要件とされています。
実務上の意味は次のとおりです。役員報酬は、期の途中で自由に上げられません。 従業員であれば会社の判断で昇給できますが、役員になると年に一度の改定が基本になります。就任のタイミングが改定時期の直後だった場合、条件の見直しは1年近く先になることがあります。
オファー面談で確認しておきたいのは、この一点です。役員就任の予定時期と、会社の決算期、報酬改定の時期がどう並ぶか。ここを聞いておくと、いつまで現在の条件が続くかが見えます。
エージェントベストの見解
提示された想定年収を、そのまま前職と比べて判断される方が多いのですが、この層では比較の前提が揃っていません。現金部分だけを見れば下がるオファーでも、株式部分を含めれば逆転する設計になっていることがあります。逆に、株式を厚く見せていても、行使条件や在籍要件が厳しく、実際に受け取れる可能性が低い場合もあります。確認していただきたいのは、株式の額面ではなく条件のほうです。何株なのか、行使価額はいくらか、いつから行使できるのか、退職した場合どうなるのか。この4点が書面で示されない状態で判断するのは避けたほうがよいと考えています。口頭で「相応に用意します」と言われた段階では、まだ何も決まっていないと見るのが実情に近くなります。
株式報酬をどう評価するか
株式報酬は、受け取り方によって課税の時期と所得の種類が変わります。ここを理解しておくと、提示条件の意味が読み取れます。
国税庁の説明では、いわゆる税制非適格のストックオプションについて、雇用契約等に基づいて付与された場合、権利行使時の経済的利益は給与所得として課税されるとされています。その後、取得した株式を譲渡した時点で、譲渡所得として課税されます。つまり、まだ現金化していない段階で課税が生じる形になります。
一方、租税特別措置法第29条の2第1項の要件を満たすストックオプションについては、権利行使による経済的利益に対する課税の特例が設けられています。この場合、株式を譲渡した時点で課税される扱いになります。
要件は法令で細かく定められており、税制改正によって変わることがあります。付与を受ける前に、その設計が特例の対象になるのかを会社側に確認し、あわせて国税庁の最新の情報を参照することをおすすめします。
株式報酬を読むときの確認事項
- 付与される数量と、発行済株式総数に対する割合
- 権利行使価額
- 行使できるようになる時期と条件(在籍期間、業績条件の有無)
- 退職した場合の取扱い
- 税制上の特例の対象となる設計かどうか
3つ目と4つ目は見落とされがちです。数年の在籍が条件になっている場合、その期間より早く辞めると受け取れません。株式報酬は、実質的に在籍を促す仕組みでもあります。
公的統計に、役員の報酬は出てきにくい
「相場を知りたい」という要望はよくいただきますが、この層は公開データが薄い領域です。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査は常用労働者を対象とする統計です。役員のうち、常時事業所に出勤して一定の業務に従事し、一般の労働者と同じ給与規則または同じ基準で毎月給与が算定されている者は常用労働者に含まれますが、そうでない役員は対象から外れます。したがって、この統計から役員層の報酬水準をそのまま読み取ることはできません。
上場企業であれば有価証券報告書で役員報酬の総額などが開示されますが、スタートアップの多くは非上場で、開示義務がありません。つまり、このポジションの報酬相場は、公開情報だけでは把握しにくい構造にあります。
出所の不明な相場情報が出回りやすいのはこのためです。数字を見たときは、どの範囲の会社を、どの時点で、どう集計したものかを確認する習慣を持っておくほうが安全です。
報酬が上がる要因、下がる要因
上がる要因
- 会社の段階が進み、資金調達や事業規模の拡大があった
- 担当領域が広がり、責任を負う範囲が増えた
- 役員に就任し、報酬体系そのものが変わった
- 外部への説明責任を担う立場になった
下がる、または動かない要因
- 改定時期を外して就任し、次の改定まで据え置かれた
- 会社の業績が悪化し、業績悪化改定事由による減額が行われた
- 株式報酬の比重が高い設計で、企業価値が想定どおり伸びなかった
3つ目は、この層に特有のリスクです。株式部分は、会社が成長した場合に大きくなる代わりに、そうならなければ価値が生じません。現金部分を下げてまで株式を厚くする判断をする場合、その前提が崩れたときにどうなるかを想定しておく必要があります。
会社の段階で、報酬設計の傾向が変わる
| 会社の段階 | 固定部分の傾向 | 株式部分の傾向 |
|---|---|---|
| シード期 | 抑えめ | 比重が大きい |
| シリーズA〜B | 徐々に整う | まだ大きい |
| シリーズC以降 | 事業会社に近づく | 比重は下がる |
| 上場準備期 | 制度として整備される | 設計が厳格になる |
段階が進むほど、現金部分は安定し、株式部分の比重は下がります。どの段階で参画するかは、報酬の受け取り方の選択でもあります。
なお、上場準備に入ると、報酬制度そのものが監査や審査の対象になります。それまで個別に決めていた条件が、規程として整理される過程で見直されることがあります。
この職種を採用している企業タイプ
プロダクト中心のスタートアップ — 技術側の報酬水準はCTO・VPoE候補の年収、CTO・VPoE候補が年収1000万円を目指すにはが参考になります。
事業会社出身者を求める会社 — 経営企画の年収、経営企画のキャリアパスをご覧ください。
管理部門の責任者を探している会社 — 財務・経理の年収、人事(HRBP)の年収が近い水準感の参考になります。
事業開発の延長で幹部を採る会社 — 事業開発(BizDev)の年収、事業企画の年収が該当します。
コンサル出身者を採る会社 — ポストコンサル(事業会社転身)の年収で、転身時の報酬の変化を整理しています。
このポジションの選考と進み方については、CxO候補・経営幹部の選考フロー・面接対策、CxO候補・経営幹部のキャリアパスもあわせてご確認ください。
エージェントベストの見解
報酬面で最も多い行き違いは、入社後1年経っても条件が変わらないというものです。原因の多くは能力評価ではなく、役員報酬の改定時期を知らずに就任したことにあります。会計期間の開始から3か月を過ぎると、通常の改定ができなくなります。ここを知らないまま「成果を出せば見直してもらえる」と考えて入社すると、成果が出ても次の改定まで待つことになります。防ぐ方法は単純で、オファーの段階で決算期と改定時期を聞き、就任予定日との関係を確認しておくことです。答えにくい質問ではありません。むしろ、この質問をすると制度を理解している方だと受け取られます。条件交渉というより、時期の確認だと考えていただくとよいと思います。
まとめ
CxO候補・経営幹部の年収相場について、押さえるべき点を整理します。
- 報酬は固定・変動・株式の3層で構成され、比重は会社ごとに大きく違う
- 役員に就任すると、報酬改定は原則として年に一度になる
- 株式報酬は、税制上の扱いによって課税の時期と所得の種類が変わる
- 株式は額面ではなく、数量・行使価額・行使条件・退職時の取扱いで評価する
- 役員層の報酬は公的統計から読み取りにくく、出所の不明な相場情報に注意する
- オファー時に、決算期と報酬改定の時期を確認しておく
本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。税制の要件は改正により変わることがありますので、最新の内容は国税庁の情報をご確認ください。個別の課税関係は事情により異なりますので、顧問税理士等にご相談ください。
よくある質問
Q. 現金の年収が下がるオファーは、受けないほうがよいですか。
A. 一概には言えません。株式部分を含めた設計になっている場合があるためです。判断するには、株式の数量、行使価額、行使できる時期、退職時の取扱いを書面で確認する必要があります。これらが示されない段階では比較ができません。
Q. ストックオプションは、いつ現金になりますか。
A. 権利を行使して取得した株式を売却したときです。非上場のうちは売却の機会が限られるため、上場やM&Aといった事象が前提になります。時期を約束できる性質のものではありません。
Q. 役員報酬は、業績が良ければ期の途中でも上がりますか。
A. 通常は難しくなります。国税庁の説明では、定期同額給与の改定は原則として会計期間開始の日から3か月を経過する日までとされており、それ以降は臨時改定事由や業績悪化改定事由などの限られた場合に限られます。増額を期待する場合は、改定時期を前提に計画を立てるほうが現実的です。
- 国税庁 タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 タックスアンサー No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合
- 国税庁 タックスアンサー No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について
- 厚生労働省 賃金構造基本統計調査で使用されている主な用語の説明
本記事は 2026/8/10 時点の公開情報にもとづいて作成しています。