法務の年収相場【2026年版】|20代・30代の年収レンジと上げ方

職種:法務 |更新日 2026/7/4

法務職の年収は、経験年数・専門領域・組織規模・業種という4つの軸が複合的に絡み合って決まる。「法務だから年収が低い」「年功序列で上がるもの」といった単純な理解では、自分の市場価値を正確に把握することは難しい。本稿では、20代・30代の法務担当者が現在地を確認し、次の打ち手を検討するための年収構造と実務的な観点を整理する。

法務職の年収レンジ:年代・経験別の目安

下表は、一般的な事業会社(インハウスロイヤル)の法務担当者を対象とした年収レンジの目安である。企業規模・業種・地域によって幅があるため、あくまで相場感の参考として捉えてほしい。

年代・経験フェーズ想定ポジション年収レンジ(目安)
20代前半(経験1〜3年)法務スタッフ・アシスタント350万〜500万円程度
20代後半(経験3〜6年)法務担当・シニアスタッフ500万〜700万円程度
30代前半(経験6〜10年)リーガルリード・主任クラス650万〜900万円程度
30代後半〜(経験10年以上)マネージャー・法務部長候補800万〜1,200万円程度
管理職・CLO候補法務部長・CLO1,000万〜1,500万円以上

この数値に加えて、以下の条件が上振れ・下振れの主な要因となる。


年収を左右する「専門領域」の構造

法務と一口に言っても、担当領域によって市場価値の評価軸が異なる。主要な専門領域ごとの特性を整理する。

M&A・コーポレートファイナンス法務

案件単価が大きく、スピードと専門性の両方が求められる領域。インハウスではM&Aチームや経営企画との連携経験が評価され、弁護士事務所経験者がインハウスに転じた場合でも高い年収が維持されやすい。

契約法務・コンプライアンス

法務職の中では最も間口が広く、20代前半からキャリアを積みやすい。一方で、汎用スキルとみなされやすく、差別化のためには「特定業種への深い理解」や「ひな形整備・体制構築の実績」が重要になる。

知的財産・特許

理工系バックグラウンドと法務知識の掛け合わせが必要なため、候補者が限られる。特許事務所・知財部出身者は転職市場でも引き合いが強い傾向がある。

データプライバシー・サイバーセキュリティ法務

個人情報保護法改正・GDPRへの対応経験を持つ専門家は、2020年代以降に需要が急増した領域の一つ。SaaS・Fintech・ヘルスケア企業での採用ニーズが高い。

渉外・国際法務

英語での契約交渉・海外子会社管理・クロスボーダーM&Aに対応できる人材は、日本国内での希少性が高い。外資系・グローバル展開企業での評価が特に高く、年収レンジも上位に位置しやすい。


転職・昇給によって年収が変わりやすい構造的な理由

法務職は他の職種と比較して、以下の構造的な理由から「在籍年数による自然増」より「転職・ポジション変更によるジャンプアップ」が生じやすい。

1. ポジション数の少なさ 事業会社の法務部は、営業・エンジニアと比べて人数規模が小さい。マネージャーポジションの空きが生じにくく、昇格機会が限られる組織では評価と処遇が連動しにくい構造になりやすい。

2. 専門性の可視化困難 法務の成果は「何を防いだか」「どんなリスクを回避したか」という形になるため、定量的な評価指標を設定しにくい。その結果、社内での評価が実力を正確に反映しないケースが起きやすい。

3. 外部市場との乖離 法務人材の需要は、特に2020年代以降、デジタル規制・ESG・データ保護といった新分野で高まっている。一方で、社内の給与テーブルがその変化に追いついていない企業も少なくない。


ケーススタディ:30代前半・法務担当者の年収改善の流れ

以下は、転職を活用した年収改善のよくある構造的な流れの一例である。個人の状況によって結果は異なるが、参考として示す。

プロフィール(仮)

課題の整理 現職では法務部が3名体制で、上長ポジションが空く見込みが薄い。年次昇給は3〜5万円程度で、キャリアの踊り場にあると感じていた。英語力はビジネスレベルではないが、GDPR対応のプロジェクトに参加した経験があった。

市場への打ち出し方の調整 ・「契約審査8年」という汎用的な訴求から、「GDPR・個人情報保護法改正対応の実務経験」に焦点を当てる ・社内規程整備・ポリシー策定の経験を「法務体制の構築経験」として再整理 ・SaaS・Fintechなど個人情報を取り扱う業種への応募に集中

転職後の状況 従業員700名規模のSaaS企業のリーガルリードポジション(年収720万円)に着地。ポジションの格上げと専門領域への注力が年収改善の主な要因であった。


年収を上げるための実務的なアプローチ

年収改善を考える場合、以下の観点を組み合わせて検討するのが現実的である。

専門領域の「希少性」を高める

汎用的なスキルセット(一般的な契約審査・社内相談対応)だけでは市場での差別化は難しい。「どの業種の、どの規制領域に詳しいか」という形で専門性を明確にしておくと、特定の採用ニーズに合致しやすくなる。

管理・体制構築の経験を積む

法務担当者として高い評価を受けるためには、個別案件の処理能力だけでなく「法務機能を組織として機能させる能力」が問われる。ひな形整備・外部弁護士の管理・後輩育成・経営層との連携といった経験は、マネージャー職以上のポジションへの移行時に重要な評価材料となる。

資格・英語力による選択肢の拡張

弁護士資格があればインハウス市場での評価は大幅に高まる。資格取得が現実的でない場合でも、英語での契約交渉・外部弁護士とのやり取りができるレベルまで英語力を高めることで、国際法務ポジションへのアクセスが広がる。

転職タイミングの考え方

法務職では、「プロジェクトの区切り」や「スキルが一段階上がったと感じたタイミング」が転職の適切な時期の目安となることが多い。在籍3〜5年で一定の専門性を獲得した後に転職すると、経験の具体性が高まり、面接でも訴求しやすい。


よくある質問

Q1. 法務の年収は弁護士資格がないと上がりにくいですか?

弁護士資格は年収レンジを一段引き上げる効果がある傾向ですが、資格なしでもマネージャー・部長クラスで800万〜1,000万円台に到達しているケースは存在します。資格の有無よりも、専門領域の深さ・マネジメント経験・業種親和性が評価に直結することも多いです。

Q2. 事業会社法務と法律事務所・弁護士法人では年収の構造が異なりますか?

構造は大きく異なります。法律事務所(特に大規模事務所)では、年次とパートナー昇格の有無によって年収の変動幅が非常に大きくなる傾向があります。一方、事業会社のインハウスは安定したレンジが多い代わりに、急激な年収増加は生じにくい構造です。どちらが優れているかではなく、キャリアの志向性によって適切な場が異なります。

Q3. 未経験・異職種から法務へのキャリアチェンジは年収面でどう影響しますか?

一般的に、法務未経験での入社は経験者採用と比べて年収レンジが低くなりやすい傾向があります。ただし、並行業務経験(コンプライアンス・リスク管理・行政対応など)がある場合は評価が変わることもあります。初期の年収を許容しつつ専門性を積み上げるという視点が現実的です。

Q4. 外資系企業の法務は年収が高いというイメージがありますが、実際はどうですか?

外資系でも役職・企業規模・業種によって差があります。ただし、APACや日本法人の法務責任者クラスでは総報酬が1,000万〜1,500万円以上になるケースは少なくありません。英語力と特定業種の深い知識がある場合に限り、外資系は高い処遇を得やすい選択肢の一つです。


まとめ

法務職の年収は、年代や経験年数だけでなく、専門領域・業種・組織規模・資格・英語力という複合的な要素によって決まる。汎用的な経験の積み上げよりも、特定の希少性を高めるかたちでキャリアを設計することが、年収改善の実効性につながりやすい。転職市場では「何を守ってきたか」ではなく「どの専門性でどの規模の組織に貢献できるか」という観点での自己整理が重要である。現在の年収が市場相場に照らして適切かどうかを定期的に確認することが、長期的なキャリア戦略の基点となる。自身の専門領域や経験を踏まえた市場価値の確認を検討している場合は、法務領域に精通したキャリアアドバイザーとの対話を選択肢の一つとして置いておきたい。

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)