M&Aアドバイザーは大手とスタートアップどちらを選ぶべきか

職種:M&Aアドバイザー |更新日 2026/7/4

M&Aアドバイザーとしてキャリアを歩む場合、所属先の選択は報酬・経験・成長速度のいずれにも大きく影響する。大手証券系・外資系投資銀行とM&A特化型スタートアップ(いわゆるM&AブティックやM&A仲介系新興企業)は、外形上は同じ職種でありながら、実態は業務の性質・組織文化・評価構造の面で異なる環境を提供している。

本稿では「どちらが良い」という単純な結論を出すのではなく、構造的な違いを整理したうえで、どのようなキャリア目標・志向性を持つ人がどちらに適合しやすいかを検討する。


大手とスタートアップ、そもそも何が違うのか

扱う案件・クライアント層の差異

大手(外資系投資銀行・大手証券M&A部門・総合系アドバイザリーファーム)が中心的に扱うのは、上場企業や大手企業を当事者とする大型案件が多い傾向にある。一件あたりの取引規模は数百億円から数千億円以上に及ぶことも珍しくなく、クロスボーダー取引や複雑なストラクチャリングを伴う案件が多い。

対してM&A特化型スタートアップや中堅ブティックは、中小・中堅企業の事業承継や成長戦略としてのM&Aを主戦場とするケースが多い。一件あたりの規模は数億円から数十億円の範囲が中心で、件数をこなすモデルが基本設計になっている。近年はSaaS・スタートアップ界隈でも独自のM&A仲介サービスが台頭しており、IT企業同士の小型M&Aや事業売却の支援を専業とする会社も増えている。

業務における役割の違い

大手では案件規模が大きい分、分業が進んでいる。モデリング担当、DD(デュー・ディリジェンス)調整担当、クライアントコミュニケーション担当などが役割として分かれており、ジュニア年次では特定の工程を深掘りする経験が中心になりやすい。

スタートアップや中堅ブティックでは、案件の上流から下流まで一貫して担当する機会が早期から与えられる傾向がある。財務分析・バリュエーション・交渉・契約調整までを一人が管轄するケースも珍しくなく、広い守備範囲の実務力が早い段階で問われる。


環境比較:主要項目の整理

比較項目大手(投資銀行・大手ファーム)M&A特化スタートアップ・中堅ブティック
案件規模大型〜超大型が中心中小〜中堅が中心
1人あたり担当案件数少数・深掘り型多数・広域対応型
業務の分業度高い(役割分担が明確)低い(上流〜下流を横断)
年収水準(目安)総合的に高い傾向。インセンティブ比率も高い基本給は抑えめなことが多いが、成果連動比率は高い場合も
キャリアパスの明示性比較的明確(職位・評価基準が整備されている)会社によって差が大きい
ブランド・市場評価転職市場での認知が高い個人の実績依存になりやすい
意思決定の速度遅め(承認フローが複数層)速め(経営層との距離が近い)
働き方の柔軟性厳格なケースが多い比較的柔軟なケースが多い

※上記はあくまで傾向・目安であり、個別の企業・部門によって大きく異なる。


年収・報酬構造の違い

年収の絶対水準だけを見れば、外資系投資銀行のM&A部門は国内のスタートアップを上回るケースが多い。ただし、その差を生み出している構造は単純ではない。

大手の報酬体系は基本給が高く、ボーナスが業績・職位・案件貢献度に基づいて大きく変動する設計が一般的だ。シニアになるにつれてボーナス比率が高まるため、若手のうちは固定部分が相対的に安定している。

一方、スタートアップや仲介特化型企業では、成約インセンティブの比率が高く設定されているケースが多い。件数をこなしやすい環境でもあるため、成果を出せる人材にとっては早期に高い報酬水準に到達しやすい面がある。ただし、案件が成約しなければインセンティブは発生しないという構造的なリスクも存在する。


ケーススタディ:異なるキャリア目標を持つ2人の選択

ケースA:将来的にPEファンドやCFOポジションを目指すAさん(27歳・経営コンサル出身)

Aさんは、将来的にプライベートエクイティ(PE)ファンドへの転身や、成長企業のCFOとしてM&Aを活用したインオーガニック成長を主導することを目標としている。

この場合、大手証券系・外資系投資銀行のM&A部門を選ぶことが合理的な選択肢として浮かびやすい。PE業界が重視するのは大型案件での財務モデリング経験、厳格なDDプロセスの理解、複雑なストラクチャリングの知識であり、これらは大型案件を扱う組織で習得しやすい。また、外資系投資銀行のブランドはPEファンドの採用プロセスで一定の評価を受けやすい傾向がある。

ケースB:早期に裁量を持ちたいBさん(25歳・地方銀行出身)

Bさんは、金融機関での融資・審査経験を持つが、より当事者意識を持ってキャリアを積みたいと考えている。大企業の歯車の一つになる働き方より、一件一件の案件に深く関わる実感を求めている。

この場合、M&A特化型のスタートアップや中堅ブティックが適合しやすい。入社初年度から案件全体を担当する機会が得やすく、顧客との関係構築・バリュエーション・交渉の一連の流れを早期に体験できる。成長速度が速い反面、体系的な教育は自己学習に依存する面もあるため、主体的に学習できる人材に向いている環境といえる。


判断軸の整理:自分に問うべき問い

どちらを選ぶべきかは、以下の問いに対する自分の答えを整理することで、より明確になる。


よくある質問

Q. M&Aアドバイザーとして未経験から入るなら大手とスタートアップどちらが入りやすいですか?

採用要件の面では、外資系投資銀行のM&A部門は高い競争倍率と選考の難度が伴う傾向がある。M&A特化型スタートアップや中堅ブティックは、異業種・金融隣接職種からの転職にも比較的開かれているケースが多い。ただし「入りやすさ」と「自分に合うかどうか」は別問題であるため、入社後の業務内容と自分のキャリア目標の整合性を優先して検討することが重要になる。

Q. スタートアップで積んだM&A経験は、大手への転職時に評価されますか?

評価されるかどうかは、具体的に何をどれだけやったかによって大きく変わる。案件数・規模・担当範囲・バリュエーション経験の詳細を定量・定性的に説明できる状態であれば、スタートアップ出身でも十分に評価される。一方で「在籍していたこと」だけではブランド力が弱いため、実績の言語化が通常以上に重要になる。

Q. 年収だけで比較するとどちらが有利ですか?

若手段階では大手のほうが年収水準が高い傾向がある。ただし成果連動比率の高いスタートアップでは、件数と単価が伴えば大手水準に近づく・場合によっては超えるケースも存在する。年収だけで判断するよりも、5〜10年単位のキャリア設計における報酬トレンドを含めて比較検討することが望ましい。

Q. M&Aスタートアップは会社ごとの差が大きいと聞きますが、どう見極めますか?

担当案件の規模・成約実績・インセンティブ制度の透明性・社員の平均在籍年数・経営陣のバックグラウンドを確認することが有効な手がかりになる。特に「インセンティブ計算の根拠が明示されているか」「マネジャー以上のキャリア例が具体的に説明されるか」は、組織としての成熟度を判断するうえで重要な観点となる。


まとめ

M&Aアドバイザーとしてのキャリアにおいて、大手とスタートアップは「優劣」ではなく「設計の違い」として捉えるべき問題である。大手は深い専門性・ブランド・体系的な育成環境を提供しやすく、スタートアップは裁量・スピード・広範な実務経験を早期から得やすい傾向がある。どちらが合うかは、いつどのような経験を積んで次のステップに進みたいかという個人のキャリア設計に依存する。重要なのは、入口の選択よりも「その環境で何を積み上げるか」であり、環境の特性を理解したうえで能動的に動ける人材が結果的に市場価値を高めやすい。現時点での自分の市場価値やキャリア選択肢を客観的に把握したい場合は、M&A領域に精通したキャリアアドバイザーに相談することが一つの有効な手段になる。

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)