Web3・ブロックチェーン業界の企業の選び方|見るべき指標と失敗しない判断軸

業界:Web3・ブロックチェーン |更新日 2026/7/5

Web3・ブロックチェーン業界への転職を検討する際、最初に直面する課題が「企業の質をどう見極めるか」という問題である。従来のIT・SaaS業界とは異なり、トークン価格や市場の熱量によって企業の財務状況が急変しやすく、また技術トレンドそのものが数年単位で大きく移り変わる。こうした構造的な特性を理解したうえで企業を評価しなければ、入社後に「思っていた環境と違った」という事態が生じやすい。

本記事では、Web3・ブロックチェーン企業を選ぶにあたって見るべき指標と、判断を誤りやすいポイントを整理する。業界全体の構造的な特性を踏まえたうえで、個々の企業評価に応用できる実務的な視点を提供することを目的としている。


Web3業界特有のリスク構造を先に把握する

一般的なスタートアップとWeb3企業では、財務的なリスクの構造が異なる点がある。通常のスタートアップはVCからの出資金やSaaS型の月次収益(MRR)を軸に財務を組み立てるが、Web3企業はそれに加えてトークンの時価総額や流通量、プロトコルの手数料収益(Protocol Revenue)といった独自の財務指標を持つ。

トークンを発行している企業やプロジェクトは、市場環境が悪化した際に財務基盤が急速に縮小するリスクがある。2021〜2022年の市場サイクルで多くの企業が人員を削減した背景には、トークン価格の下落に伴う財務縮小があった。これは構造的な特性であり、特定の企業を批判するものではないが、転職者として理解しておく必要がある前提である。

また、規制リスクも業界固有の要素である。各国の法制度はブロックチェーン関連事業に対して現在も整備が続いており、規制の解釈によって事業モデルの修正を余儀なくされるケースがある。日本国内でも金融商品取引法や資金決済法の解釈が事業範囲に直結するため、法務体制の整備状況は企業評価の一要素となる。


企業評価で見るべき6つの指標

1. 収益モデルの構造

トークンに依存していない収益源があるかどうかを確認する。具体的には、エンタープライズ向けのソリューション提供、APIや開発ツールのサブスクリプション収益、プロトコル手数料収益(DeFiプロジェクトの場合)などが該当する。これらの収益が存在する場合、市場サイクルの影響を受けにくい財務構造を持つ傾向がある。

2. 資金調達ラウンドと調達額・調達先

調達額の絶対値よりも、調達先の質と調達時期が重要な参考情報になる。既存の有力VCや機関投資家が参加しているかどうかは、事業の信頼性を間接的に示す指標の一つである。また、直近の調達から何年経過しているかによって、財務的なランウェイ(資金の持続期間の目安)を推測しやすい。

3. チームの構成とバックグラウンド

創業者・経営陣の職歴と専門性は、事業の実行力を評価する際の重要な材料になる。特にWeb3領域では技術的な深さとビジネス開発能力の両立が求められるため、CTOやプロダクト責任者のバックグラウンドは丁寧に確認したい。また、エンジニアがオープンソースコミュニティで認知されているかどうかも、技術力の客観的な指標の一つとなりやすい。

4. プロダクトの実用段階

「ホワイトペーパーのみ」から「本番稼働中」まで、プロダクトの開発フェーズは企業によって大きく異なる。入社後に担う役割の明確さや事業継続の蓋然性に直結するため、以下のような段階を確認するとよい。

フェーズ特徴転職者にとっての主なポイント
ホワイトペーパー・構想段階プロダクトが存在しないリスクは最も高いが、初期メンバーとして関与できる
テストネット・β版技術的な検証段階技術方向性は確認できるが、PMFは未検証
メインネット稼働中本番環境での稼働ユーザー数・取引量などのオンチェーンデータが確認可能
収益化フェーズ安定的な手数料・ライセンス収益財務安定性が相対的に高い傾向

5. オンチェーンデータの透明性

パブリックブロックチェーン上で稼働しているプロダクトの場合、トランザクション数、アクティブウォレット数、Total Value Locked(TVL)などのデータをブロックエクスプローラーや専門のデータプラットフォームから直接確認できる。これは従来のスタートアップ評価にはない、Web3固有の透明性であり、候補者として積極的に活用すべき情報源である。

6. コミュニティと開発者エコシステムの状況

Web3プロジェクトの価値の一部は、開発者コミュニティの活発さによって支えられる。GitHubのコミット頻度、Discord・Telegramの参加者の質と量(数よりも議論の密度)、外部開発者によるプロジェクトへの貢献(サードパーティdAppsの開発状況など)が参考になる。


判断を誤りやすいポイント

トークン報酬の見かけの魅力

報酬として提示されるトークンは、額面上の価値を現金換算で提示されることがある。しかしトークンにはロックアップ期間(行使制限期間)があることが多く、権利確定時に価格が大幅に変動している可能性を考慮する必要がある。キャッシュ報酬との比率と、トークン報酬の前提となる評価額の妥当性を確認することが重要である。

ブランド感と実態のズレ

メディア露出が多い企業や、有名人・著名投資家が関与しているプロジェクトは注目を集めやすいが、それ自体がプロダクトや財務の健全性を保証するものではない。ブランドイメージと実態を切り分けて評価する姿勢が、この業界では特に求められる。


ケーススタディ:企業評価の実践的な型

以下は、SaaS企業出身のエンジニア(5年経験)がWeb3企業への転職を検討する際に行った企業評価の型を模式的に示したものである。

対象企業の概要(仮想ケース)

評価ステップ

まず、提示されたホワイトペーパーとGitHubリポジトリを照合し、実装の進捗を確認した。ホワイトペーパーに記載されている機能のうち、実際にコミットされているものの割合を目安として把握することで、技術的な実行力を推測した。

次に、ブロックエクスプローラーを用いて過去90日間のアクティブウォレット数の推移を確認し、ユーザー数が増加傾向にあるかを確認した。

さらに、調達先VCの投資ポートフォリオを調べ、過去の投資先の中にWeb3領域での実績があるかどうかを参考情報として加えた。

最終的に、キャッシュ報酬の水準と報酬全体に占めるトークン比率を確認し、トークン価格が半減した場合でも許容できる年収水準になっているかを確認したうえで、オファーの受諾を検討した。

このような多角的な確認を経ることで、表面的な情報だけでは見えにくいリスクを事前に把握しやすくなる。


よくある質問

Q. 未上場・トークン未発行の企業とトークンを発行済みの企業、どちらが安定していますか?

一概にどちらが優れているとは言えない。トークン未発行の企業は市場の価格変動リスクを受けにくい一方、トークンによる資金調達ができないため、VCからの調達に依存する構造になりやすい。トークン発行済みの企業は財務の一部が市場に依存するが、プロトコル収益が安定していれば財務の健全性を維持しやすい傾向もある。重要なのはトークンの有無よりも、収益源の多様性と市場変動への耐性である。

Q. Web3企業の求人で「競争力ある報酬」とある場合、年収水準の目安はどの程度ですか?

ポジション・フェーズ・会社の規模によって大きく幅があるため、一般化は難しい。ただし、エンジニア職でキャッシュ換算した固定報酬を重視するのであれば、大手Web3企業や外資系企業が国内企業よりも高い水準を提示する傾向はある。いずれの場合も、キャッシュとトークンの比率、トークンのロックアップ条件を必ず確認することが重要である。

Q. Web3企業は「クリプトネイティブ」でないと採用されにくいですか?

採用基準は企業によって異なる。プロトコルのコアエンジニアやスマートコントラクト開発者には深い専門知識が求められる一方、ビジネス開発、マーケティング、プロダクトマネジメント、法務といった職種では、業界経験よりも従来の専門性を重視するケースも多い。「Web3の文化的な理解があるかどうか」を求める企業は多いため、ホワイトペーパーの読解やDeFiプロトコルの実際の使用経験は、準備として有効な傾向がある。

Q. 規制リスクの高い企業かどうかを、転職候補者として見極める方法はありますか?

完全な判断は難しいが、いくつかの確認ポイントがある。法務・コンプライアンス担当者が在籍しているか、金融当局への届出状況(暗号資産交換業登録など)はどうか、規制当局とどのような関係を構築しているかについて、面接で率直に確認することが有効である。また、海外拠点の有無や主な事業対象国によって、規制リスクのレベルが変わる場合がある。


まとめ

Web3・ブロックチェーン企業の選択においては、トークン価格や市場の熱量に引っ張られず、収益構造・資金調達の状況・プロダクトの実用段階・オンチェーンデータという複数の軸から企業を評価することが基本的な姿勢となる。報酬体系については、トークン報酬の時価換算額を額面通りに受け取らず、キャッシュ報酬との比率とロックアップ条件を必ず確認することが重要である。業界固有のリスク構造を理解したうえで企業を選べば、市場サイクルに左右されにくいキャリアの土台を構築しやすくなる。Web3領域でのキャリア形成に関心がある方は、業界の実態を把握したキャリアアドバイザーへの相談を選択肢の一つとして検討することで、自身の市場価値を客観的に整理するきっかけになるだろう。

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)