エンジニアリングマネージャーの転職市場動向【2026年】|求人数・採用ニーズの変化
エンジニアリングマネージャー(以下、EM)の採用市場は、2025年から2026年にかけて構造的な変化を迎えている。求人数の量的拡大だけでなく、求められるスキルセットや組織設計の変化が複合的に作用しており、転職を検討するEMにとっては自身の市場価値を正確に把握することが以前より難しい状況になっている。
本稿では、現在のEM採用市場の全体像を整理したうえで、求人の質的変化・企業規模別の採用ニーズ・年収レンジの傾向・転職時の留意点を順に解説する。
エンジニアリングマネージャーの採用市場:全体構造の変化
EMという職種が日本市場で認知され始めたのは2010年代後半以降であり、当初は外資系IT企業やメガベンチャーの一部が先行して採用していた。2020年代に入ると、国内SaaS企業のプロダクト組織拡大・DX推進を背景に大手事業会社でも採用が広がり、現在は業種を問わず求人が発生する段階に達している。
2025年以降の特徴として挙げられるのは、「採用が絞り込まれる領域」と「依然として需要が旺盛な領域」の二極化が明確になってきた点である。
グローバルな景気調整やコスト最適化の影響を受けた大手外資系IT企業では、採用ペースが鈍化・一時停止となるケースが目立つようになった。一方、国内のSaaS・フィンテック・HRTech・ヘルスケアテック領域では、プロダクトの複雑化と組織規模の拡大に伴いEMの需要は継続的に高い。事業会社のシステム内製化を推進する大手企業でも、社内エンジニア組織のマネジメント体制整備を目的としたEM採用が増加傾向にある。
企業規模・フェーズ別の採用ニーズ比較
企業のステージによって求めるEMの役割は大きく異なる。転職先を検討する際には、求人票の「エンジニアリングマネージャー」という職名だけでなく、その実態を精査することが重要である。
| 企業フェーズ | 主な採用目的 | 求められる経験の重点 | 年収レンジの目安 |
|---|---|---|---|
| シリーズA〜B(50名以下) | EM職の初設計・採用体制の構築 | 採用・育成経験、技術的判断力 | 800〜1,100万円前後 |
| シリーズC〜D(50〜300名) | 複数チームの横断管理、組織スケール | チーム分割・マトリクス組織経験 | 1,000〜1,400万円前後 |
| 上場済みスタートアップ | 組織成熟化・エンジニアの定着改善 | 評価制度設計、キャリアパス整備 | 1,100〜1,500万円前後 |
| 大手事業会社(内製化推進) | 社内エンジニア組織の立ち上げ | 社内調整・変革推進、IT部門との連携 | 900〜1,300万円前後 |
| 外資系IT・SaaS | プロダクト開発組織の効率化・品質向上 | グローバル組織との協働、英語での意思決定 | 1,200〜1,800万円前後 |
※上記はあくまで市場の相場観を示す目安であり、個別の経験・スキル・企業の事情によって大きく異なる。
求人の「質的変化」:求められるスキルの移行
テクノロジー理解の深さへの要求が高まっている
2023年頃まで、EM採用においては「チームマネジメント経験」と「ソフトスキル」が重視される傾向が強かった。しかし2025〜2026年の採用動向を見ると、生成AI活用・データドリブンな開発プロセス・プラットフォームエンジニアリングなど、技術的な変化に対して自ら判断を下せることへの期待値が上昇している。
これはEMがコードを書くべきという議論ではなく、技術選定や開発アーキテクチャの議論に対して、エンジニアと対等な水準で判断に関与できるかどうかが問われているという意味である。
採用・育成だけでなく「組織設計」への関与が期待される
かつてのEMは採用・評価・1on1を主務とする「人事機能の延長」として位置付けられるケースも多かった。しかし組織が成熟するにつれ、EMにはチーム構造そのものの設計(スクワッドモデル・プラットフォームチームの分離など)や、エンジニアリング組織の戦略的な方向付けまで担うことが期待される場面が増えている。
この変化は、CTO・VPoEとの役割の重複と分担を明確にしたいという企業側のニーズとも連動している。
EMとVPoEの境界線が揺らいでいる
求人票の職名として「EM」と「VPoE(Vice President of Engineering)」が明確に区別されていないケースも散見される。転職活動においては、報告ライン・マネジメントするチーム数・意思決定権限の範囲を確認することが実務的に重要である。
ケーススタディ:Series C SaaS企業へのEM転職
以下は典型的な転職パターンの概要である(特定の個人・企業を示すものではなく、類型として整理したものである)。
背景: エンジニア出身で、大手SI企業でプロジェクトマネージャーを経験後、スタートアップでシニアエンジニアとして4年勤務。30代前半。自身のチームの採用や評価を担当した経験はあるが、専任EMとしての職歴はない。
転職時の課題: 「EMとしての職歴がないため、書類選考を通過しにくい」という認識があった。しかし実態として企業側が求めていたのは、採用・評価・1on1の経験だけでなく、技術的な文脈でエンジニアの成長を支援できるかどうかの判断力であった。
結果として有効だった点: 技術選定への関与実績・採用面接への参加経験・チームの心理的安全性を意識した場の設計の事例を整理し、「職名ではなく職能での実績の提示」に切り替えたところ、書類通過率が改善された。
転職後の変化: Series C企業(エンジニア30名規模)でEM職として入社。半年以内にエンジニアの採用プロセス再設計・評価制度の刷新・スクラムへの移行支援を並走して実施。年収は転職前比で約200〜250万円の上昇(目安)となった。
転職活動における実務的な留意点
ポジションの実態を「業務レベル」で確認する
「EM」の職名でも、実際には採用・評価作業のみを担うオペレーション寄りのポジションと、組織設計・技術戦略まで担う戦略寄りのポジションでは、キャリアの積み重なり方が大きく異なる。面接段階でCTO・VPoEとの役割分担・意思決定権の範囲・Headcountの裁量の有無を確認しておくことを勧める。
採用される側の論理より「組織の課題」を起点に考える
優秀なEMが転職後に早期離職するパターンの一つに、「入社後に明らかになる組織課題」への対処リソースが不足しているケースがある。転職前に組織の技術的負債の状況・エンジニアの離職傾向・開発生産性の現状をある程度把握しておくことが、ミスマッチ防止につながる。
EM特有の「中途採用難易度」を理解する
EMは個人スキルの評価だけでなく、その人物が「自社の組織フェーズに合っているか」という文脈依存性が高い職種である。年収・職種名・会社規模のみで判断するのではなく、自分がその組織で何を実現できるかという視点での検討が、結果として転職満足度を高めやすい。
よくある質問
Q1. エンジニアリングマネージャーの求人は増えているのか、それとも減っているのか?
一概には言えず、業種・企業フェーズによって異なる。大手外資系IT企業ではコスト最適化の影響で採用が絞られる傾向がある一方、国内スタートアップ・SaaS企業・事業会社の内製組織ではEM採用の需要は継続的に高い状態が続いている。求人数全体の増減より、自分が目指すセグメントの動向を個別に把握することが実用的である。
Q2. 専任のEM経験がなくても転職できるか?
採用企業によって判断基準は異なるが、職名よりも実態としての経験(採用・評価・1on1・チームプロセス改善への関与)を丁寧に言語化できれば書類・面接を通過できるケースは少なくない。特にシリーズA〜B段階の企業では「初代EM」として採用するケースがあり、こうした企業では専任EM経験より事業理解・技術力・人を育てた実績が重視されやすい。
Q3. 年収はエンジニア個人職と比べてどうなるか?
企業・グレードによって異なるため断言はできないが、シニアエンジニアからEMに移行した場合、年収が上昇する企業と同水準に留まる企業の両方が存在する。年収単独ではなく、EMとしての職域の広がり・意思決定権限・長期的なキャリア形成の観点で比較検討することが合理的である。
Q4. 生成AI・AIツール活用の経験はEM採用で評価されるか?
評価基準として明示している企業はまだ多くないが、開発プロセスへのAIツール導入・エンジニアの生産性管理・技術選定判断への関与という文脈でAI活用の知見を持つ候補者を高く評価する企業は増えている傾向がある。特に2026年以降は、この観点が選考の重要な要素になってくると考えられる。
まとめ
エンジニアリングマネージャーの転職市場は、求人数の増減という単一の指標では測れないほど、企業フェーズ・業種・求める役割の幅が広がっている。2026年現在の特徴として、テクノロジー理解の深さと組織設計への関与が求められる傾向が強まっており、「人を管理する職種」という旧来のEM像と乖離しつつある。転職活動では職名ではなく実態の職能・権限範囲・組織の課題を起点に判断することが、ミスマッチを防ぐうえで重要である。自身の経験が市場でどのように評価されるかは、個別の文脈への当てはめが不可欠であり、現在の市場価値を客観的に確認したい場合はキャリアの専門家との対話を活用することも一つの選択肢になる。