エンジニアリングマネージャーの働き方のリアル|激務度・残業・リモート事情

職種:エンジニアリングマネージャー |更新日 2026/7/4

エンジニアリングマネージャー(以下EM)の働き方は、個別企業の文化や組織規模によって大きく異なります。しかし「激務なのか」「リモートは続けられるのか」「マネジメントと技術の両立はどこまで現実的か」という問いに対して、構造レベルで整理すると一定の共通パターンが見えてきます。本記事では、IT・SaaS・コンサル領域でEMへの転職・昇格を検討する方に向けて、働き方の実態を多角的に解説します。


エンジニアリングマネージャーの業務構造を理解する

EMの負荷を正確に把握するには、まず業務の構造を整理する必要があります。EMの役割は大きく以下の三層に分類できます。

個人貢献者(IC)としてのエンジニアと根本的に異なるのは、「自分が手を動かす時間」よりも「他者の生産性を高める時間」に価値の重心が置かれる点です。この転換に対応できるかどうかが、EMの働き方の充実度に直結します。


激務度・残業の実態

残業時間の目安と分布

EMの残業時間は、事業フェーズと組織の成熟度によって大きく異なります。以下は一般的な傾向を示した目安です。

組織フェーズ想定残業時間(月次目安)主な要因
スタートアップ(シード〜シリーズA)40〜80時間程度採用・プロダクト両輪の高速推進
スタートアップ(シリーズB〜C)20〜50時間程度組織拡大期の採用ピーク
メガベンチャー・大手IT10〜30時間程度役割分担が進み、専門職が整備される
SaaS(成長期)20〜45時間程度顧客要件とプロダクトロードマップの調整
コンサル系(エンジニアリング部門)30〜60時間程度クライアント対応の不規則性

上記はあくまで目安であり、個人の業務範囲の定義やチームの習熟度によって上下します。注目すべき点は、「マネジメント業務の密度は残業時間に現れにくい」という構造的な特性です。深夜まで働くというより、朝から夕方まで会議とSlack対応が連続し、集中業務の余白が取れないという形の消耗が多く報告されています。

EMが疲弊しやすい三つの構造的要因

①「責任の境界」が曖昧になりやすい

EMはチームのデリバリーに責任を持つ一方、個々の技術判断はエンジニアに委ねる場面が多くあります。この「権限と責任の非対称性」が長期的なストレス源になりやすい傾向があります。

②情報の集約点になりやすい

チームメンバー、プロダクトマネージャー、経営層など、複数のステークホルダーから情報が集まる構造上、EMは常に「状況を把握している人」であることを期待されます。非同期でのSlack・メール対応が積み重なると、断続的な割り込みによる集中力の消耗が生じやすくなります。

③技術から離れることへの不安

IC時代の「コードを書いている充実感」が薄れる一方で、マネジメントの成果は短期間では可視化されにくいです。この不一致が精神的な負荷につながるケースは少なくありません。


リモートワーク・働く場所の自由度

リモート対応の現状

IT・SaaS領域のEMはリモートワーク対応が進んでいる職種の一つです。ただし、以下のような条件が現実的な制約として存在します。

条件リモート適合度補足
フルリモートの会社・チーム採用・オンボーディングも非同期設計が必要
ハイブリッド(週2〜3出社)中〜高重要な1on1や評価面談は対面の方が効果的とされやすい
オフィス中心の組織低〜中EM自身がリモートでも、メンバーの出社状況に合わせる場面が増える

特に「採用」と「オンボーディング」は対面のほうが情報量が多く、信頼関係構築のコストが下がりやすい傾向があります。フルリモートを前提にする場合、テキストコミュニケーションの設計と、定期的なオフサイト(合宿・対面MTG)の仕組み化が実務上の鍵になります。

フレックスタイムとの相性

EMはメンバーやステークホルダーとのカレンダー調整が必要なため、コアタイムのないスーパーフレックスよりも、ある程度の重複時間帯が設定されているフレックス制との相性がよい傾向があります。完全非同期に近い組織では、意思決定の遅延やメンバーの心理的孤立感が生じやすく、EMのファシリテーション負荷が高まるケースもあります。


ケーススタディ:SaaS企業のEM・Aさんの一週間の型

以下は、SaaS企業でエンジニア8名のチームを管理するEMの典型的な一週間の業務分布のパターンです(実在の個人ではなく、複数の事例から構成した参考モデルです)。

このパターンでは、コーディング時間はほぼ存在せず、「読む・書く・話す・聞く」という情報処理が業務の大半を占めます。会議時間の合計は週20〜25時間程度になることも珍しくなく、それ以外の時間に非同期タスクをこなす構造になりやすいです。


テックリードとの分業:働き方への影響

組織によってはEMとテックリード(TL)を分離している場合があります。この設計の有無が働き方に大きく影響します。

転職先を検討する際に「EMにどこまでの技術的関与を期待するか」を具体的に確認することは、入社後のギャップを防ぐ上で重要です。


よくある質問

Q1. エンジニアリングマネージャーになるとコードを書く機会はなくなりますか?

組織によって異なりますが、専任のEMに転じた場合、日常的なコーディングは難しくなるケースが多い傾向があります。ただし、技術的なコンテキストを維持するために意図的にコードレビューや設計議論に参加するEMも多く、「コードを書かないが技術から離れない」という均衡点を設計することは可能です。

Q2. リモートワーク中心でもEMとして成果を出せますか?

環境設計次第で十分に可能です。鍵は、非同期コミュニケーションの仕組み(ドキュメント文化・決定ログの整備)と、定期的な対面機会の設計(四半期ごとのオフサイトなど)の組み合わせです。リモート環境下ではメンバーの心理的安全性を維持するための1on1の頻度と質が、対面環境以上に重要になります。

Q3. 働き方の観点でEM職に向いている人の特徴はありますか?

「他者の成長や成果を見て満足感を得られる」「曖昧な状況でも優先順位を整理できる」「コミュニケーションの頻度・量を苦にしない」という傾向を持つ方は、EM職の働き方になじみやすい傾向があります。逆に、深い技術課題に没頭することに強い充実感を持つ方は、テックリードやスタッフエンジニアのキャリアパスの方が整合しやすいケースもあります。

Q4. 残業を減らすために有効なアプローチはありますか?

業務量よりも「業務の構造化」が先決です。具体的には、繰り返しの判断業務をフレームワーク化する(評価基準の文書化、採用ルーブリックの整備など)、会議の参加基準を明確化する、委譲できる判断を意識的に移譲するといったアプローチが有効とされています。EMは「自分が頑張る」よりも「チームが回る仕組みを作る」ことが長期的な負荷軽減につながります。


まとめ

エンジニアリングマネージャーの働き方は、組織フェーズ・企業文化・TL設置の有無によって大きく変わるため、「EMは激務か否か」という問いに一律の答えはありません。ただし、業務の大半が人と情報の処理に移行する構造的な変化は共通しており、コーディングによる達成感とは異なる軸で充実感を見出せるかが適合の分岐点になります。リモートワークとの相性は比較的良好ですが、信頼関係の構築と意思決定の速度を維持するための仕組み設計が求められます。残業時間は事業フェーズに連動しやすく、スタートアップの組織拡大期には特に注意が必要です。EM職を真剣に検討する段階では、現在の市場における自分のポジショニングと、転職先が期待するEM像のズレを丁寧に確認することが、入社後の働き方の質に直結します。

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)