HRテックの年収相場|転職で押さえるべきポイント

HRテック 年収相場 更新日 2026/8/11

HRテックの年収は、転職メディアでは「SaaSで高水準」とまとめられがちですが、実際には会社によって大きく開きます。この記事では、上場している事業会社の有価証券報告書に記載された平均年間給与という、算出根拠が明示された数値だけを使って報酬水準を整理し、その差がどこから生じているかを解説します。2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。

報酬水準は「HRのどの事業か」で変わる

前提として押さえたいのは、HRテックの報酬が「HRテックかどうか」ではなく、その事業がどのモデルかで決まる点です。

HRテックには、いくつかのモデルがあります。求人メディアや人材紹介のように、採用の成立や掲載で収益を得る事業。タレントマネジメントや組織診断のように、企業に月額で使ってもらうSaaS事業。この違いで、収益の積み上がり方も、報酬の設計も変わります。人材紹介は成約に連動して収益が動き、SaaSは契約が積み上がるほど安定します。

この違いは、後述するとおり有価証券報告書に記載された平均年間給与と平均勤続年数の組み合わせに表れます。求人票の提示レンジだけを並べても比較にならないのは、この構造があるためです。

上場5社の有価証券報告書で見る実額

上場企業は、有価証券報告書に提出会社の従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与を記載しています。以下はいずれも各社が提出した有価証券報告書の記載です。

会社対象事業年度従業員数平均年齢平均勤続年数平均年間給与
ビジョナル株式会社2025年7月期116名38.6歳5.2年8,613千円
株式会社リンクアンドモチベーション2025年12月期558名32.5歳6.4年6,969,014円
株式会社カオナビ2025年3月期394名34.2歳2.6年6.9百万円
エン株式会社2026年3月期2,014名31.0歳4.9年5,401千円
株式会社エス・エム・エス2026年3月期3,214名32.8歳4.3年5,179千円

最も高いビジョナルと最も低いエス・エム・エスの間には、約340万円の差があります。同じ「HRテック」の括りの中で、この幅が生じています。

ただし、この表は注意して読む必要があります。ビジョナルの提出会社116名は、純粋持株会社の従業員数です。同社の有価証券報告書では、連結従業員数が2,175名(HR Tech事業1,802名、Incubation事業257名、全社共通116名)と記載されており、事業の実体はこの連結側にあります。持株会社の平均年間給与は、全社共通部門という限られた母集団の数値であり、事業会社全体の水準とは離れます。この一社だけ、参照すべき数値の性質が異なります。

水準が割れる理由を、事業モデルと勤続年数から読む

差の背景を読み解く鍵は、事業モデルと、平均勤続年数・平均年齢にあります。

エス・エム・エスとエンは、いずれも従業員数が2,000名を超え、人材紹介や求人メディアを主力とします。有価証券報告書では、エス・エム・エスは医療・介護分野向けのキャリアサービスなどを、エンは求人メディア「エン転職」を中核とする人材サービス事業を記載しています。これらは、営業やキャリアアドバイザーなど、SaaSの開発職とは異なる職種が母集団に多く含まれます。平均年間給与は、こうした職種構成を反映した全社の平均です。

一方、カオナビはタレントマネジメントのSaaSを単一事業とし、従業員394名、平均勤続年数2.6年です。勤続年数の短さは、組織が拡大局面にあり、採用で入った従業員が多いことを表します。採用によって新しく入った従業員が増えると、平均勤続年数は下がり、平均年間給与も入社時水準に引き寄せられます。

つまり、平均年間給与の高低は、報酬制度の優劣ではなく、事業モデルと職種構成、そして組織の成長速度を反映しています。数値の順位だけを見て「給与が高い会社・低い会社」と判断するのは適切ではありません。

官公庁統計が示す職種側の水準

会社側ではなく職種側から見た水準は、厚生労働省が運営する職業情報提供サイト job tag で確認できます。HRテックの開発職に近い区分として「システムエンジニア(Webサービス開発)」の数値を示します。

項目数値出典
平均年収578.5万円令和7年賃金構造基本統計調査
平均年齢37.1歳令和7年賃金構造基本統計調査
就業者数389,760人令和2年国勢調査
時間給(一般労働者)2,819円令和7年賃金構造基本統計調査
求人賃金(月額)35.2万円令和6年度ハローワーク求人統計
有効求人倍率2.57令和6年度ハローワーク求人統計

この数値は開発職に近い区分のもので、HRテックには営業やキャリアアドバイザー、カスタマーサクセスなど、別の職種も多く含まれます。職種によって水準が異なる点は、前掲の会社別の平均が職種構成を反映していたのと同じ構造です。

エージェントベストの見解

公開されている平均年間給与を会社の実力として読むと、判断を誤ります。前掲の5社で約340万円の差が出ていますが、これは報酬制度の優劣ではありません。人材紹介や求人メディアを主力とする会社は、営業やアドバイザー職を多く含むため、開発職中心のSaaSとは職種構成が違います。さらにビジョナルの116名は持株会社の数値で、事業の実体は連結2,175名の側にあります。転職者が知りたいのは全社平均ではなく、自分の職種と職位で提示される額です。同じHRテックでも、開発職なのか、営業・アドバイザー職なのかで、参照すべき水準が変わります。面談では、開示されている平均値ではなく、直近で同じ職務要件の方にどのレンジが提示されたかを見ています。この二つは別の数字だと考えたほうが安全です。

年収が上がる要因

この領域で報酬が動く要因は、いくつかに整理できます。

第一に、担当する職種です。開発、営業、キャリアアドバイザー、カスタマーサクセスで、水準の付き方が変わります。前掲の会社別平均は、この職種構成を反映しています。

第二に、事業モデルと収益段階です。安定した契約が積み上がるSaaSと、成約に連動する人材紹介では、報酬原資の確保の仕方が変わります。

第三に、入社時の職位です。多くの会社で等級制度が設けられ、レンジは職位に紐づきます。入社後の昇給よりも、入社時にどの等級で評価されるかの影響が大きくなる傾向があります。

第四に、賞与や業績連動部分の比率です。HRテックは、営業やアドバイザー職で成果連動の比率が高いことがあります。固定部分と変動部分の比率は会社や職種によって異なるため、提示額の内訳を確認しておく価値があります。

提示額を読むときの実務的な注意

オファーを受け取った段階で確認しておきたい点を挙げます。

固定給と賞与の内訳は、最初に確認したい項目です。年収の提示額に成果連動部分が含まれている場合、その部分の過去の支給実績を聞いておくと見通しが立ちます。とくに営業やアドバイザー職では、この確認が欠かせません。

ストックオプションなどの株式報酬が含まれる場合、その扱いも整理が要ります。付与時点の評価額と、実際に価値が確定する時期は異なります。年収の一部として単純に足し合わせると、手取りの見込みがずれます。

参照先が親会社か子会社かも確認したい点です。ビジョナルの例のように、持株会社と事業会社では平均年間給与が算出された母集団が異なります。転職先がどの法人かで、参照すべき数値が変わります。

業界全体の年収の考え方はHRテック業界の年収相場でも整理しています。

エージェントベストの見解

書類の段階で提示レンジが変わるのは、成果を数値で書けているかどうかです。HRテックの職務経歴書でよく見るのは、担当プロダクトや担当業務が並んでいるだけのものです。営業やアドバイザー職であれば、担当した企業数や決定数、単価帯を数値で書けるかどうかで読み手の評価が変わります。開発職であれば、扱ったデータの規模や、リリースした機能の利用状況です。HRテックは人事データという機微な情報を扱うため、その取扱いに関与した経験も評価の材料になります。これらは前職の守秘に配慮しつつ、桁数や比率で表現できます。同じ経歴でも、この一段の具体化があるだけで、面接に進んだ時点の想定レンジが変わることがあります。

まとめ

HRテックの年収は、業界全体の相場としてひとつの数字で語れるものではありません。上場5社の有価証券報告書を見ると、提出会社の平均年間給与は5,179千円から8,613千円まで開きがあります。

この差の背景には、事業モデルと職種構成、そして平均勤続年数の違いがあります。人材紹介や求人メディアは営業・アドバイザー職を多く含み、SaaSは開発職が中心です。ビジョナルのように、持株会社と事業会社で参照すべき数値が異なる場合もあります。

自分の場合いくらになるかは、担当する職種と、入社時の職位で決まる部分が大きくなります。開示された平均値は業界の構造を理解する材料として使い、個別の提示額は別途確認することをおすすめします。

よくある質問

Q. 求人票の年収レンジは、どこまで信じてよいですか。

A. 上限は多くの場合、経験を積んだ層や、成果を出した層の到達点です。その額に何年目で、どの職種・職位で届くのかを確認しないと、自分の見込みは立ちません。入口の水準と、上限に至る道筋を分けて確認することをおすすめします。とくに成果連動の比率が高い職種では、内訳の確認が欠かせません。

Q. 持株会社と事業会社では、なぜ平均年間給与が違うのですか。

A. 平均年間給与が算出される母集団が異なるためです。純粋持株会社の従業員は、全社共通の管理部門などに限られることが多く、事業を担う従業員は事業会社側に配置されます。ビジョナルの提出会社116名と連結2,175名のように、参照する法人によって数値が変わります。転職先がどの法人かを確認する必要があります。

Q. HRテックに移ると年収は上がりますか。

一律には言えません。前掲の上場5社では提出会社の平均年間給与が5,179千円から8,613千円まで分布しており、事業モデルと職種構成による差が大きい領域です。現職の水準と職種によって結果が変わるため、個別に確認する必要があります。

Q. SaaSの開発職と、人材紹介の営業職では、年収は違いますか。

職種によって水準の付き方が変わります。人材紹介の営業やアドバイザー職は成果連動の比率が高いことがあり、SaaSの開発職は固定部分が中心になりやすい傾向があります。会社別の平均は、こうした職種構成を反映した数値です。

Q. 平均年間給与にはどこまで含まれますか。

有価証券報告書の平均年間給与は、一般に賞与及び基準外賃金を含みます。固定給のみの数値ではないため、提示額と比較する際は内訳を揃えて見る必要があります。成果連動部分の比率が高い職種では、とくに内訳の確認が大切です。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)