シンクタンクの志望動機の書き方|転職で押さえるべきポイント
「研究がしたい」で止まる理由
シンクタンクの志望動機で最も多いのが、「腰を据えて研究に取り組みたい」「政策提言を通じて社会に貢献したい」という書き方です。
真摯な動機ですし、この業界を志望する方の実感でもあります。しかし、選考では材料になりにくくなっています。理由は2つあります。
理由1:収益の中心が研究ではない
多くのシンクタンクで、収益の柱は官公庁からの受託調査と民間向けのコンサルティングです。研究の看板は対外的な認知を作りますが、それ自体が大きな収益になるわけではありません。
理由2:研究側の席が極端に少ない
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の「エコノミスト」の区分では、就業者数が 5,900人(令和2年国勢調査)、有効求人倍率と求人賃金はいずれもデータなし とされています。統計に載るほどの求人が発生していない、と読めます。
読み手が知りたいこと
受託の実務ができるか。そして、一次資料に当たれるか。
この2つに触れていない志望動機は、業界の実態を調べていないと受け取られます。
この記事では、志望動機に何を入れれば噛み合うのかを整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。
志望動機に入れる3つの材料
| 材料 | 具体化する内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| 一次資料の経験 | どの原典から、どう数字を作ったか | 自分の実務 |
| 書いた文書 | 誰に向けて、何を判断させるために書いたか | 自分の実務 |
| 選んだ分野 | なぜその領域を、どのくらい追ってきたか | 自分の蓄積 |
1つ目が起点です。この業界で最も基本的な資質は、二次情報のまとめではなく原典から数字を作れることです。
2つ目は、成果物が文書であるこの業界で直接評価されます。社内資料か、外部への提案か、公表物か。読み手が誰かまで書きます。
3つ目は、蓄積が価値になる業界であることを踏まえた材料です。分野を移り続けた経歴より、一つを数年追った経歴が評価されます。
一次資料に当たった経験を、具体で書く
書き方の誤り
「各種統計を分析し、レポートを作成しました」は、何をしたか分かりません。
書き方の例
「経済センサスの事業所データを市区町村単位で再集計し、業種別の集積度を指数化しました。既存の公表値では都道府県単位までしか出ていないため、原票に近い集計表から自分で組み直しています」
なぜこれが効くのか
原典の名前、加工の内容、そしてなぜ自分でやる必要があったか。この3点が揃うと、一次資料に当たれる人だと伝わります。
必要スキルとの接続
job tagのエコノミストの区分では、必要な知識として 経済学・会計学2.5、ビジネスと経営2.4、日本語語彙・文法2.1、法律学・政治学1.8 が示されています。分析だけでなく、日本語と法律・政治の知識が並ぶ点が、この職種の性質を表しています。
言えなかったことも書く
データの制約により結論を出せなかった部分に触れられると、なお効きます。この業界では、言い切らない誠実さが信頼につながります。
受託の構造を、理解していることを示す
「なぜシンクタンクか」に厚みを持たせるには、仕事の入口を理解していることが効きます。
制度の枠組み
会計法第29条の3第1項は、契約担当官及び支出負担行為担当官が契約を締結する場合において、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない と定めています。
同条第5項は、契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合について、指名競争または随意契約によることができるとしています。予算決算及び会計令第99条は、調査研究の委託が該当する「その他の契約」について、予定価格が200万円を超えないもの を随意契約によることができる場合としています。
この意味
規模のある調査研究の委託は、原則として競争を経ます。つまり、提案書を書き、選ばれなければ仕事が始まりません。
志望動機への入れ方
「案件が競争で決まる以上、限られた紙面で選ばれる文章を書く技術が要ると理解しています。前職では予算獲得のための企画書を年間12件作成し、うち8件が採択されました」
避けたい書き方
制度の説明を長々と書くと、知識の披露に見えます。一文から二文に留め、自分の経験に接続させます。
前職の経験を、どう接続するか
コンサルティングファームから
論点設定と資料の構成力を前に出します。接続の要点は、一次資料への当たり方です。二次情報のまとめでは評価されないことを理解していると示します。
官公庁・独立行政法人から
発注する側の視点と、制度への理解を書きます。接続の要点は、受ける側に回る理由です。
金融機関の調査部門から
分析と発信の経験を書きます。接続の要点は、読み手が変わることです。市場向けと官公庁向けでは、求められる書き方が違います。
事業会社の企画・調査部門から
業界知識を前に出します。接続の要点は、社内向けと外部向けの書き分けです。
大学・研究機関から
分析の深さと学位を書きます。接続の要点は、期限と分量の制約です。学術の作法との違いを理解していると示します。job tagの区分では博士課程卒が25.0%を占めており、学位を持つ方が一定数いる環境です。
SIer・ITベンダーから
総合系シンクタンクのシステム部門に接続します。接続の要点は、調査部門との距離を理解していることです。
弱い志望動機と、その直し方
「腰を据えて研究に取り組みたい」
収益の中心が研究ではありません。直すには、受託の実務ができることを先に示します。
「政策提言を通じて社会に貢献したい」
多くの応募者が書きます。直すには、自分が扱える分野を具体化します。
「中立的な立場で分析したい」
抽象的です。直すには、実際に一次資料から数字を作った経験を書きます。
「知的好奇心を活かしたい」
意欲の表明です。直すには、追ってきた分野と年数を示します。
「幅広いテーマに関わりたい」
蓄積が価値になる業界です。直すには、深く見た分野を1つ前に出します。
現職への不満が透けている
短期の成果を求められることへの不満は、書き方に注意が要ります。この業界にも納期はあります。
エージェントベストの見解
書類で通過率が変わるのは、分野が定まっているかどうかです。この業界は蓄積が価値になります。特定領域を10年見てきた人は、その分野で代替が効きません。逆に、テーマを移り続けた経歴は、何の専門家か分からないと読まれます。書き方としてお勧めしたいのは、冒頭で名乗ることです。「地域経済と産業集積を専門としてきました。前職では8年間、製造業の立地動向を追っています」。この2文があるだけで、読み手は専門家として扱います。多くの応募者は、担当した案件を時系列で並べます。それでは幅広く見えても、深さが伝わりません。job tagのエコノミストの区分が就業者数5,900人という小さな市場であることを踏まえると、名乗れる分野があるかどうかが、この業界での位置を決めます。
職務経歴書に書くこと
職務経歴書 は事実を並べる書類です。この業界では、次を添えると読み手が判断しやすくなります。
- 専門分野(冒頭に明示)
- 使った一次資料の名称(統計名、法令名、資料名)
- 自分で行った加工の内容(再集計、指数化、時系列の接続)
- 作成した文書の種類と、読み手(報告書、提案書、公表物)
- 署名入りの成果物があれば、その一覧
- 提案の件数と、採択の件数
5つ目が、この業界で強い材料になります。受託調査の報告書は発注者のものであるため、外に見えません。名前が出ているものがあれば、それを前に出します。
書かないこと — 受託案件の未公表の内容は書きません。公表されている範囲か、テーマの水準に留めます。
転職理由 は、次に何を積みたいかという整理にします。
応募先ごとに、どこを変えるか
金融機関系 — 母体との関係が強く、市場分析や経済見通しに力があります。市場に近い経験を前に出します。
総合系(システム開発を持つ) — 収益の柱がシステム開発であることがあります。調査部門を志望する場合、その旨を明確にします。
官公庁の受託中心 — 政策の調査研究が主戦場です。制度への理解と提案の経験を軸にします。
民間コンサルティング寄り — 企業向けの案件が中心です。事業への提案力を示します。
独立系・専門特化 — 特定分野に絞っています。その分野の蓄積を前に出します。
調べ方 — 決算資料や事業報告でセグメント別の売上を見ると、収益の構成が読めます。上場している会社や、母体が上場している会社であれば公開されています。
近い領域の書き方はシンクタンクの志望動機、シンクタンクの職務経歴書もあわせてご覧ください。
エージェントベストの見解
面接の終盤で問われるのが、提案書を書く仕事をどう捉えるかという点です。研究をしたくて志望する方にとって、提案は本業ではないと感じられます。しかし、会計法第29条の3が競争を原則としている以上、提案なしに案件は始まりません。ここで「研究に集中したい」と答えると、実務が続かないと判断されます。準備としては、提案を研究の一部として捉え直しておくことです。何を明らかにすべきかを定義し、どういう方法で迫るかを設計する。これは研究計画そのものです。提案書は、その計画を発注者に伝える文書にすぎません。この理解を示せると、研究と実務を分けて考えていないと伝わります。実際、提案の巧い人は、調査設計も巧いことが多くあります。
まとめ
シンクタンクの志望動機について、押さえるべき点を整理します。
- 「研究がしたい」だけでは通らない。収益の中心は受託調査とコンサルティング
- エコノミストの区分は就業者数5,900人、求人倍率も求人賃金もデータなし
- 入れる材料は、一次資料の経験、書いた文書、選んだ分野の3つ
- 原典の名称、加工の内容、なぜ自分でやったかの3点を揃えて書く
- 会計法第29条の3は競争を原則とし、調査研究の委託は200万円超で原則競争
- 冒頭で専門分野を名乗ると、読み手は専門家として扱う
本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。選考で重視される点は会社によって異なりますので、詳細は各社公式サイトでご確認ください。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. 一次資料に当たった経験がない場合、どうしますか。
A. 在職中でも作れます。関心のある分野について、官庁統計から自分で図表を作り、短い分析を書く。この成果物があれば、応募時に示せます。原典の名称と、加工の内容まで説明できるようにしておきます。
Q. 「研究がしたい」とは、まったく書けませんか。
A. 書いて構いませんが、それだけで終わらせないことです。受託の実務ができることを先に示したうえで、その先に研究がある、という順序にすると噛み合います。
Q. 分野が定まっていない場合、どうすればよいですか。
A. これまでで最も長く関わったテーマを選び、それを軸にします。年数が短くても、深さがあれば材料になります。幅広さを訴えるより、1つに絞るほうがこの業界では効きます。
Q. 署名入りの成果物がない場合、不利ですか。
A. 不利にはなりますが、決定的ではありません。社内向けの分析でも、一次資料から自分で作ったものであれば材料になります。あわせて、これから外部に出していく意思を示すと、姿勢が伝わります。
- e-Gov法令検索 会計法 第29条の3(契約の方法)
- e-Gov法令検索 予算決算及び会計令 第99条(随意契約によることができる場合)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/エコノミスト
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。