フィールドセールス(SaaS)の年収相場|転職で押さえるべきポイント
同じ提示額でも、内訳が違えば別物になる
営業職のオファーは、金額だけを並べても比較できません。固定給とインセンティブの比率が会社ごとに違うためです。
「想定年収700万円」と書かれていても、固定600万円+インセンティブ100万円の会社と、固定400万円+インセンティブ300万円の会社では、実際に受け取る額の振れ幅がまったく違います。前者は目標未達でも大きくは落ちませんが、後者は状況によって差が出ます。
この記事では、公開されている統計の読み方と、インセンティブ設計を確認するときの観点を整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。
公開されている数字は2種類ある
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)には、IT分野のコンサルティング営業について2種類の数値が掲載されています。
| 数値 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 年収659.4万円 | 在職者の実績。年間の額 | 令和7年賃金構造基本統計調査 |
| 求人賃金 月額29.8万円 | 募集時に提示された月額 | 令和6年度 |
このほか、平均年齢42.2歳、月間労働時間162時間、時間当たり賃金3,140円(一般労働者)といった数値も掲載されています。
前者は在職者の実績で、経験を積んだ層が平均を押し上げます。後者は募集時点の提示額で、経験の浅い層向けの求人も含まれます。月額を12倍しても年収の水準には届きませんが、これは誤りではなく、測っているものが違うためです。
また、この区分にはSaaS以外のIT営業も含まれます。スタートアップのフィールドセールスだけを取り出した数字ではない点にご注意ください。
インセンティブ設計には、法律上の枠がある
成果に応じて支払われる部分については、労働基準法上の定めがあります。求人票からは読み取れませんが、確認しておく価値があります。
厚生労働省の説明によれば、歩合給制は「売上高や契約成立件数等の一定の成果に対して、定められた金額を支払う賃金制度」で、出来高払制や請負給制とも呼ばれます。
保障給の定め — 労働基準法第27条では、出来高払制で使用する労働者に対し、実際に労働した時間に応じて一定の賃金を保障しなければならないとされています。厚生労働省の説明では、固定給が賃金総額のおおむね6割程度以上を占める者は適用対象から除外されるとされ、保障給の水準については、通常の実収賃金とあまり隔たらない程度の収入が保障されるよう定めるべきで、少なくとも平均賃金の6割程度を保障することが妥当とされています。保障給を定めていない場合も法違反にあたるとされています。
最低賃金との関係 — 歩合給制にも最低賃金法が適用され、1時間あたりに換算した賃金額が最低賃金を下回らないようにする必要があるとされています。
つまり、インセンティブの比重が高い設計であっても、成果が出なかった月に収入が青天井に下がる仕組みは想定されていません。提示された条件が固定部分の薄い設計だった場合、保障の有無を確認しておくとよいでしょう。
エージェントベストの見解
公開されている平均年収659.4万円は、平均年齢42.2歳の層を含む数字です。20代後半から30代前半の方がこの額を基準に交渉すると、話が噛み合わないことがあります。より実務的なのは、提示された想定年収の内訳を聞くことです。この職種で確認しておきたいのは3つあります。固定とインセンティブの比率、インセンティブが支払われる条件、そして直近の在籍者が実際に受け取った水準です。3つ目は答えにくい質問に見えますが、達成者の割合という形でなら答えてもらえることが多くあります。目標を達成した人が半数なのか、2割なのかで、提示された年収の現実味が変わります。想定年収の上限は、多くの場合、目標を大きく超えた場合の額です。中央値がどのあたりかを聞かないまま入社すると、1年目で見込みが崩れます。
残業代の扱いは、確認しておく
営業職では、労働時間の扱いが会社によって違います。ここも実収に影響します。
歩合給がある場合の割増賃金 — 厚生労働省の説明では、歩合給の割増単価は、算定期間内に支払われた歩合給の総額を同期間の総労働時間で除して算出するとされています(労働基準法第37条第1項、労働基準法施行規則第19条第1項第6号)。原則として割増分のみの支払いで足りるとされています。固定給部分とは計算方法が違う点に注意が必要です。
事業場外みなし労働時間制 — 外勤の営業職で採用されることがある制度です。ただし、厚生労働省の説明では、適用できない場合として、労働時間を管理する者がいるグループでの事業場外労働、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合、事業場で訪問先や帰社時刻等の具体的指示を受けた後に指示どおり業務に従事する場合が挙げられています。営業社員に携帯電話を持たせ随時連絡がとれる体制がある場合は、労働時間の算定が困難とは言えず、適用できないとされています。
固定残業代 — 月額に一定時間分の残業代が含まれている場合、同じ提示額でも実質的な水準が変わります。何時間分が含まれているかを確認します。
会社の段階で、報酬の付き方が変わる
| 会社の段階 | 固定部分 | インセンティブ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 創業初期 | 抑えめ | 設計が固まっていない | 株式報酬が加わることがある |
| 成長期 | 市場水準に近づく | 比重が大きい | 目標設定が毎期変わりやすい |
| 上場後・大手 | 等級で安定 | 制度として整備 | 個別の交渉幅は小さい |
創業初期の会社では、インセンティブの設計自体がこれから作られる段階のことがあります。入社時の口頭の説明が、翌期には変わっている場合もあります。書面で確認しておくほうが安全です。
成長期の会社では、目標が毎期引き上げられることがあります。前期と同じ成果でも、翌期は未達になる設計かどうかを聞いておく価値があります。
年収が伸びる要因
- 担当する商材の単価が上がる。同じ受注数でも金額が変わる
- 大型案件や、意思決定者が多い顧客を任される
- 新規獲得だけでなく、既存顧客の拡張まで担当する
- チームを持ち、組織の数字に責任を負う
- 売った後の継続率が高く、それが評価に反映される
4つ目に進む場合、報酬の構造そのものが変わります。個人のインセンティブから、組織の達成に連動する形になり、振れ幅は小さくなる傾向があります。
5つ目は、SaaS特有の観点です。継続して使われて初めて採算が合う構造のため、解約が多い受注は評価されないことがあります。受注時点の数字だけでなく、その後の状態まで見られる設計になっているかを確認しておくとよいでしょう。
提示条件を確認するときの観点
- 固定とインセンティブの比率 — 想定年収の内訳
- インセンティブの支払条件 — 受注時点か、入金後か、継続期間の条件があるか
- 目標の設定方法 — 誰がどう決めるか。期中に変わるか
- 達成者の割合 — 直近で目標を達成した人がどの程度いるか
- 固定残業代の有無と時間数
- 保障給の定め — インセンティブ比率が高い設計の場合
2つ目は見落とされがちです。受注時点で支払われるのか、顧客からの入金後なのか、一定期間の継続が条件なのかで、受け取る時期と確実性が変わります。
隣接職種との比較
- SaaS営業(フィールドセールス)の年収、SaaS営業で年収1000万円を目指すには
- エンタープライズセールスの年収 — 大型案件側の水準
- インサイドセールスの年収 — 前工程の水準
- カスタマーサクセスの年収 — 後工程の水準
- セールスエンジニア/プリセールスの年収、パートナーセールス/アライアンスの年収
キャリアの進み方と選考は、フィールドセールス(SaaS)のキャリアパス、フィールドセールス(SaaS)の選考フロー・面接対策をご確認ください。
エージェントベストの見解
報酬で行き違いが起きやすいのは、インセンティブの支払条件を確認しないまま入社したケースです。受注した月に支払われると思っていたら、顧客の入金後だった。あるいは、一定期間の継続利用が条件で、途中解約されると戻し計算があった。こうした設計は珍しくありませんが、求人票には書かれていないことが多くあります。もう一つ多いのが、入社初年度の扱いです。立ち上がりの期間は目標が低く設定される代わりに、インセンティブの単価も抑えられている場合があります。年収の見込みを立てるときは、1年目と2年目以降を分けて確認しておくと、想定とのずれが小さくなります。金額の交渉より先に、どういう条件で支払われるかを揃えておくほうが、結果的に納得感が残ります。
まとめ
フィールドセールス(SaaS)の年収相場について、押さえるべき点を整理します。
- 公開統計の年収659.4万円は平均年齢42.2歳の区分全体の数字。求人賃金は月額29.8万円
- 同じ想定年収でも、固定とインセンティブの比率で振れ幅が変わる
- 歩合給には労働基準法第27条の保障給の定めがあり、水準の目安も示されている
- 歩合給の割増賃金は、固定給とは計算方法が違う
- 事業場外みなし労働時間制は、随時指示を受ける状態では適用できないとされている
- インセンティブの支払条件と、1年目の扱いを分けて確認する
本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。統計の数値は調査区分全体のものです。労働条件の適法性や個別の取扱いについては、事情により判断が変わりますので、労働基準監督署や専門家にご相談ください。
よくある質問
Q. インセンティブの比率が高い会社は避けたほうがよいですか。
A. 一概には言えません。成果が安定して出せる状態なら、比率が高いほうが総額は伸びます。確認すべきは比率そのものより、支払条件と、達成者がどの程度いるかです。
Q. 求人票の想定年収の上限は、どのくらいの人が届きますか。
A. 会社によります。上限は目標を大きく超えた場合の額であることが多いため、達成者の割合を聞くほうが実態に近づきます。中央値の目安を確認しておくことをおすすめします。
Q. 営業職に残業代は出ますか。
A. 労働時間の扱いによります。事業場外みなし労働時間制を採用していても、厚生労働省の説明では、随時指示を受けながら事業場外で労働している場合などは適用できないとされています。実際の運用がどうなっているかを確認する必要があります。
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/コンサルティング営業(IT)
- 厚生労働省 スタートアップ労働条件/歩合給制とはどのような制度ですか
- 厚生労働省 スタートアップ労働条件/営業職の事業場外みなし労働時間制
本記事は 2026/8/10 時点の公開情報にもとづいて作成しています。