SIerのPMがITコンサルへ移るとき、資格と経験のどちらを足すか
移る前に、何が引き算されるかを知っておく
SIerでPMを務めてきた方がITコンサルティング領域へ移るとき、経歴の大半はそのまま活きます。体制を組む力、進捗と品質を管理する力、ベンダーを束ねる力。どれもコンサルティングファームの案件で使われます。
問題は、そのまま活きない部分がどこかです。ここを把握しないまま応募すると、書類は通っても面接で止まります。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の区分では、「ITコンサルタント」の平均年収は889万円、平均年齢は38.3歳、労働時間は月173時間とされています。「経営コンサルタント」の区分は平均年収1,134.6万円、平均年齢39.4歳、労働時間は月162時間です。年収差は245.6万円あります。
この差の手前にあるのが、提案フェーズに関わった経験があるかどうかです。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社の公式サイトでご確認ください。
評価が変わる4つの論点
SIerのPM経験がどう読まれるかは、次の4点で分かれます。
| 論点 | SIerのPM | ITコンサル側で問われること |
|---|---|---|
| 契約の型 | 請負が中心のことが多い | 準委任での価値の出し方を説明できるか |
| 関わる時期 | 要件が固まったあとから | 課題設定の段階から入れるか |
| 相手の役職 | 情報システム部門の担当・課長 | 部門長や役員に説明した経験があるか |
| 成果の定義 | 納期・コスト・品質 | 顧客の業務や事業指標がどう動いたか |
最も差が出るのは2つ目です。要件定義書が出てきてから走る仕事と、何を作るかを決める前から入る仕事では、必要な準備が違います。
面接では、この点がほぼ例外なく確認されます。「上流」という言葉の指す範囲が両者で違うため、自分の言う上流がどこからかを具体的に説明できる状態にしておく必要があります。要件定義から参加していたのか、企画や構想の段階から関わっていたのか。この差が評価に直結します。
資格を足すべきか、経験を足すべきか
「資格と経験のどちらを足すか」という問いには、応募先で答えが変わります。判断の目安は次のとおりです。
資格を足す価値があるのは、資格が商売に直結する応募先です。 提案書に有資格者の人数を書く慣習がある領域、公共調達で技術者の要件として資格区分が扱われる領域では、資格が採用側の売上に関係します。この場合、資格の1行が加点として機能します。
経験を足すべきなのは、それ以外のほぼすべての場合です。 ファームが確認するのは、顧客の課題を定義し、選択肢を並べ、決めてもらった経験があるかどうかです。ここは資格の学習では作れません。
判断が難しいときは、志望先の求人を5〜10件開いて、応募要件と歓迎条件を読んでください。資格名が並んでいるなら前者、「上流工程の経験」「顧客折衝」「提案経験」といった言葉が並んでいるなら後者です。求人票は、その会社が何を換算するかの一覧表として使えます。
PMPとプロジェクトマネージャ試験のどちらが効くかは応募先で変わります。整理は「PMPは意味ない」と言われる理由にまとめています。
エージェントベストの見解
SIerのPMからファームへ移る方の相談で、最も多い失敗の型があります。管理の実績を厚く書きすぎることです。20名体制、予算3億円、無事故で納期内リリース。SIerの評価軸ではこれが最高の成果ですが、ファーム側の読み手は「決めたのは誰か」を探しながら読みます。同じ案件でも、体制と予算の話を3行に圧縮して、範囲を削った判断や、顧客の部門間で割れた要望をどう裁いたかに紙幅を割くと、通過率が変わります。書き換えるのは事実ではなく、どこを詳しく書くかです。手元の職務経歴書で、管理の記述と判断の記述の行数を数えてみてください。前者が多いなら、そこが止まっている原因である可能性があります。
準委任での価値の出し方を説明できるか
請負と準委任の違いは、契約の形式にとどまりません。成果の定義そのものが変わります。
請負では、決めた仕様のものを納めることが成果です。範囲外の要望は変更管理の対象になり、追加の合意を経て扱われます。
準委任では、稼働に対して対価が支払われます。何をもって価値が出たとするかは、顧客との合意で決まります。「言われたことをやりました」では続きません。顧客が気づいていない論点を持ち込めるかどうかが、契約更新の分かれ目になります。
SIer出身の方が最初に戸惑うのは、この点です。仕様が決まっていない状態に置かれたときの動き方が、経験として問われます。
面接で使える材料は、意外と手元にあります。
- 顧客の要望が矛盾していたとき、どう整理して提示したか
- 仕様が固まらないまま着手せざるを得ないとき、何を先に決めたか
- 顧客社内で意見が割れたとき、誰を巻き込んで合意を作ったか
これらは請負案件のなかでも起きています。契約の型ではなく、場面で思い出すと材料が出てきます。
職務経歴書は、同じ案件のまま書き換えられる
経験を足す前に試せるのが、手元の案件の書き方を変えることです。事実は変えず、詳しく書く箇所を移します。
書き換え前の例
- 基幹システム刷新プロジェクトにおいて、20名体制のPMを担当
- 予算3億円、期間14か月。進捗管理・品質管理・課題管理を実施
- 協力会社4社を統括し、納期内でのリリースを達成
管理の実績としては十分ですが、決めた事柄が1つも書かれていません。同じ案件を、判断中心に書き換えます。
書き換え後の例
- 基幹システム刷新(予算3億円・14か月・20名体制/協力会社4社)でPMを担当
- 稼働2か月前に要件追加が42件発生。業務影響と契約範囲で分類し、初期リリース対象を11件に絞る案を作成、顧客の部門長会議で承認を取得
- 除外した31件は次期対応として合意し、優先順位の判断基準を顧客側の運用ルールに反映
- 結果として当初納期を維持。稼働後3か月の重大障害は0件
行数はほぼ同じですが、**読み手が探している「誰が何を決めたか」が入っています。**書き換えのコツは3つです。
- 体制・予算・期間は1行に圧縮する
- 発生した問題は、件数や金額など数量で書く
- 顧客側の誰に、何を説明して合意したかを書く
**この作業に費用はかかりません。**資格の検討より先に試す価値があるのは、そのためです。
年収は上がるとは限らない
移った直後に年収が下がることは珍しくありません。等級の付け直しが起きるためです。
job tagの区分では、ITコンサルタントの時間当たり賃金は4,026円、経営コンサルタントは5,497円とされています。労働時間はITコンサルタントが月173時間、経営コンサルタントが月162時間です。年収の額面だけでなく、想定される稼働時間で割って比べると判断がぶれません。
確認しておきたいのは3点です。
- みなし残業代の時間数と、それを超えた分の扱い
- 昇格の判断が年1回か半期か。入社時の等級はどこか
- 賞与の比重と、業績連動の割合
ITコンサルタントの有効求人倍率は0.89とされており、1を下回っています。募集より求職者が多い環境では、条件交渉の材料は経歴側に置くことになります。年収レンジの構造はITコンサルタントの年収相場で詳しく扱っています。
資格を取るなら、この順番で考える
そのうえで資格を検討するなら、順序を整理しておきます。
1. 現職で提案フェーズに関わる機会を探す。 既存顧客への追加提案、次期構想の検討支援など、社内で取りに行ける場面があります。1件でも経験があると、面接での説明が変わります。
2. 職務経歴書を判断中心に書き換える。 手元の材料の見せ方を変えるだけで結果が動くことがあります。ここは費用も期間もかかりません。
3. それでも要件で弾かれるなら、資格を検討する。 PMIの案内では、PMPの受験には学歴に応じた期間のプロジェクト指揮経験と35時間のトレーニング受講が求められます。SIerでPMを務めてきた方は要件を満たしていることが多く、着手の障壁は低いはずです。プロジェクトマネージャ試験は受験資格の要件がありませんが、年1回の実施のため時期の確認が要ります。
1と2を飛ばして3から始める方が多いのですが、費用と期間の面では逆です。資格は数か月から1年、経歴書の書き換えは1週間で試せます。
エージェントベストの見解
面接の終盤で聞かれるのは、「なぜ作る側から、決める側に回りたいのか」です。ここで「上流に行きたい」とだけ答えると、動機が薄く受け取られます。通りやすいのは、具体的な不全感から始める答え方です。「決まった要件どおりに作ったが、稼働後に使われない機能が残った。決める段階に関わっていれば違ったと考えている」といった説明であれば、志望動機と経験が一致します。ファーム側が警戒しているのは、管理業務から逃げたい動機で移ってくる方です。実際、コンサル側でも進行管理の仕事はなくなりません。逃避ではなく、担当範囲を前に伸ばしたいという説明になっているかを、面接の前に確認してみてください。
まとめ
- SIerのPM経験は大半が活きる。活きないのは提案・課題設定フェーズの部分
- 資格を足す価値があるのは、資格が応募先の商売に直結する領域に限られる
- 求人票の応募要件と歓迎条件が、その会社が何を換算するかの一覧表になる
- 準委任での価値の出し方は、請負案件のなかの場面から材料を掘り出せる
- 資格の前に、提案フェーズの経験と職務経歴書の書き換えを試す
よくある質問
Q. PMPを持っていれば、コンサルティングファームの選考で有利になりますか。 A. 応募先によります。提案書に有資格者を記載する慣習がある領域や、公共調達を扱う領域では加点として機能することがあります。一方、課題設定の経験を重視するファームでは、資格の有無より提案フェーズでの実績が見られます。志望先の求人票に資格名が出てくるかを先に確認してください。
Q. SIerのPM経験は、何年あれば足りますか。 A. 年数より、担当した案件の性質で判断されることが多くなります。同じ3年でも、決められた要件を納めた3年と、顧客と要件を作った3年では読まれ方が違います。年数が短くても、企画段階から関わった案件が1件あれば、そこを軸に説明が組み立てられます。
Q. 年収が下がる提示を受けたら、断るべきですか。 A. 短期の額面だけで判断しないほうがよい場面です。等級と昇格の頻度、賞与の比重、稼働時間を確認したうえで、2〜3年後のレンジを聞いてください。job tagの区分ではITコンサルタントの労働時間は月173時間とされていますが、ファームや案件によって幅があります。時間当たりで比べると判断が変わることがあります。
Q. PMOのポジションから入るのは選択肢になりますか。 A. 入り口としては現実的です。ただし進行管理の役割のまま年数が過ぎると、課題設定の経験が積み上がりにくくなります。入社時点で、提案や構想の案件にどの程度アサインされる見込みがあるかを確認しておくと、その後の展開が変わります。
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/ITコンサルタント(平均年収・平均年齢・労働時間・有効求人倍率)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/経営コンサルタント(平均年収・平均年齢・労働時間)
- PMI「Project Management Professional (PMP)® Certification/How to Apply」(受験資格・実務経験の要件)
- IPA「プロジェクトマネージャ試験」試験区分(対象者像・試験時間区分・出題形式)
本記事は 2026/8/15 時点の公開情報にもとづいて作成しています。