採用担当は大手とスタートアップどちらを選ぶべきか

職種:採用担当(リクルーター) |更新日 2026/7/4

採用担当(リクルーター)のキャリアを考えるとき、「大手企業」か「スタートアップ」かという選択は、単なる職場環境の好みの問題ではありません。身に付くスキルの種類、市場価値の伸び方、将来の選択肢の広がり方——これらはそれぞれの環境で構造的に異なります。本記事では、採用担当という職種に絞り、両者の実態を多角的に整理します。


採用担当の職務範囲はなぜ「環境によって別職種レベルに変わる」のか

採用担当という肩書きは同じでも、実際に担う業務の幅と深さは組織規模によって大きく異なります。

大手企業では、採用プロセスが高度に分業化されている傾向があります。母集団形成を担うソーシング担当、面接調整を担うオペレーション担当、オファー交渉を担うクロージング担当が分離されているケースも多く、一人の採用担当者が担当するのはプロセスの一部分に限られることがあります。その分、各フェーズを深く掘り下げるスペシャリストとしての専門性は高まりやすいと言えます。

一方、スタートアップでは採用担当が求人要件の策定から母集団形成、面接設計、候補者との関係構築、オファー交渉、入社後のオンボーディング支援まで、一気通貫で担当するケースが大半です。採用だけでなく、組織設計や人事制度の基盤づくりに関わることも珍しくありません。

この構造的な違いが、数年後のスキルセットに直接影響します。


スキル・経験の比較

以下の表は、大手企業とスタートアップそれぞれで採用担当として得やすい経験・スキルを整理したものです。

観点大手企業スタートアップ
業務範囲プロセスの一部を深く担当採用全工程を一気通貫で担当
採用手法の多様性既存チャネル(ナビ・エージェント)が中心になりやすいSNSダイレクトリクルーティング・リファラルなど多様な手法を試しやすい
採用ターゲットの幅新卒・中途それぞれに専任チームが存在することが多い全職種・全グレードを少人数で対応することが多い
採用人数・スピード感年間採用計画が固定され、予測可能性が高い採用計画が流動的で、優先度が頻繁に変わる
採用企画・戦略部門や上位職のリードに沿って実行することが多い採用戦略の立案から実行まで担当者レベルで関与しやすい
人事制度・組織設計への関与原則として他部門が担当採用担当が兼務・連携して関わることがある
ブランド訴求力社名自体が候補者へのメッセージになりやすい採用担当者自身がビジョンや文化を言語化し伝える力が問われる
育成・ノウハウ継承OJTやマニュアルが整備されやすい仕組みを自ら構築する経験が得やすい

年収・処遇の実態

年収水準は企業ごとの差が大きいため、あくまで傾向として捉えてください。

大手企業では、採用担当の給与が人事職全体の給与テーブルに沿って決まることが一般的です。急激な上昇は期待しにくい半面、等級に応じた安定した昇給が見込みやすく、賞与も業績連動の幅が比較的小さいケースが多い傾向があります。

スタートアップでは、ベースは大手より低めに設定されることがあります。一方で、ストックオプションの付与対象になるケースも多く、上場フェーズによっては総報酬として大手を上回る可能性もあります。ただし、これはあくまで上場・成長シナリオが実現した場合の話であり、不確実性を十分に理解した上で判断する必要があります。

採用担当に限らず、スタートアップの処遇は「現在の固定給」と「将来の潜在的リターン」をセットで考えることが合理的です。


市場価値の伸び方:どちらが転職市場で評価されやすいか

採用担当としての市場価値を高める上で、「何ができるか」を証明できる経験の種類が重要です。

大手企業での採用経験は、「プロセス管理力」「大量採用のオペレーション設計力」「ステークホルダーマネジメント力」として評価されます。特に新卒採用を大規模に経験していると、構造化された採用設計の知識として他社でも通用します。

スタートアップでの採用経験は、「採用戦略の立案・実行力」「ダイレクトリクルーティングの実績」「採用ブランディング構築の経験」として評価されやすい傾向があります。採用人数や採用充足率を定量的に示せることが多く、成果を可視化しやすいという特徴もあります。

転職市場においては、スタートアップフェーズ(シリーズAからC程度)の採用担当経験は、同規模・同フェーズのスタートアップから特に需要を集めやすい傾向があります。他方、大手経験者は「採用基盤の整備」「未整備組織での仕組みづくり」を期待されてスタートアップに招かれるケースも見受けられます。


ケーススタディ:同じ3年でも積み上がるものが変わる

以下は実際の転職相談に見られる典型的な経験の型を整理したものです。

ケースA:大手人材会社出身、27歳 エージェント事業部での法人営業・求人開拓を3年経験した後、社内異動で新卒採用担当へ。年間100名規模の採用オペレーションを経験し、説明会設計・面接調整・内定者フォローを担当。体系的なプロセス管理の知識は高評価を受ける一方、「ダイレクトリクルーティングや採用戦略の立案経験が少ない」として、スタートアップからの採用では追加スキル習得を期待されるケースが多い。

ケースB:シリーズB SaaS企業、28歳 採用担当1人目として入社し、技術職・ビジネス職・管理職を含む年間30〜50名の採用を3年で担当。採用媒体の選定から採用広報コンテンツの企画立案、エージェントとの関係構築、Wantedly・Linkedinを活用したダイレクトリクルーティングまで一貫して担当。採用基盤の整備や戦略立案の経験が転職市場で高く評価される傾向。次のキャリアとして採用責任者(RP)ポジションや、HRBPへの転換を検討しやすい立ち位置にある。

この2つのケースを比較したとき、どちらが「優れたキャリア」かは一概に言えません。志向するキャリアパスと、次の転職先に求めるポジションによって評価は変わります。


選択の判断軸:どちらを選ぶべきか

「どちらが正解か」ではなく、「自分の状況と目指すキャリアの方向性に何が合っているか」を以下の観点で整理してください。

スタートアップが合いやすい傾向のある方

大手企業が合いやすい傾向のある方


よくある質問

Q1. 未経験から採用担当を目指す場合、大手とスタートアップどちらが入りやすいですか?

一般的には、スタートアップのほうが採用担当未経験者を受け入れやすいケースがあります。大手では人事職のポジションが人気かつ競争率が高く、関連職種(人材業界での法人営業など)の経験が求められることが多い傾向があります。スタートアップでは、他職種からの社内異動や、採用への熱意・事業理解を重視して選考するケースも見られます。ただし、スタートアップは少人数での対応が前提となるため、即戦力性を重視する企業も少なくありません。

Q2. 将来、採用コンサルタントや人事コンサルとして独立・転職したい場合、どちらの経験が有利ですか?

採用コンサルタント・人事コンサルとして活躍するには、「課題設定→施策立案→実行→検証」の一連を経験していることが求められます。この観点では、採用の全工程に関わりやすいスタートアップ経験が評価されやすい傾向があります。一方、大手での大規模採用オペレーションや多様なステークホルダーとの折衝経験は、大企業向けのコンサルティングにおいて独自の強みになり得ます。どちらが有利かは専門とするターゲット領域によって異なります。

Q3. スタートアップを選ぶ際に「フェーズ」は重要ですか?

採用担当としてのキャリアを考える上で、企業のフェーズは非常に重要な観点です。シードからアーリーステージでは、採用担当が存在せず経営者が兼務しているケースも多く、採用担当1人目として入社すると仕組みづくりから携われます。一方、シリーズB以降では採用体制がある程度整備され始めるため、先輩採用担当者から学びながら実務を積める環境にある場合もあります。成長機会の種類が変わるため、自分が重視するものに照らして選ぶことが合理的です。

Q4. 大手企業で採用担当を数年経験した後、スタートアップへ転職することはできますか?

可能性は十分にあります。大手での採用経験者がスタートアップに採用されるケースは実際に見受けられます。ただし、スタートアップ側が期待するのは「大手での実績をそのまま再現すること」ではなく、「整備された仕組みがない中でも自ら動ける意志とスキル」です。面接では、担当した業務の中で自ら設計・改善した経験を具体的に示せるかどうかが評価の分かれ目になりやすい傾向があります。


まとめ

採用担当のキャリアにおいて、大手企業とスタートアップはスキルの蓄積の構造から処遇、市場価値の伸び方まで明確に異なる選択肢です。どちらが優れているかという問いに普遍的な答えはなく、自分が目指すキャリアの方向性——スペシャリストかジェネラリストか、安定かリターンか、整備された環境か白地からの設計か——によって判断の軸が変わります。採用担当という職種は、現在の人材市場においてHRBPや採用責任者へのキャリアパスとして注目度が高まっており、次のポジションを意識した経験の積み方が重要です。現在の自分の市場価値や、次のステップとして合う環境を客観的に把握したい場合は、専門性の高いキャリアエージェントへの相談が有効な手段の一つになり得ます。

監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)