採用担当の転職でエージェントを使うべき理由と選び方
採用担当(リクルーター)の転職は、一般職種の転職と比べて市場構造が少し特殊です。採用担当者は自社の採用業務を通じて転職エージェントと日常的に接点を持つため、「エージェントの使い方」を熟知しているように見えて、実際には自分自身の転職活動においてその活用を誤るケースが少なくありません。
本記事では、採用担当者がエージェントを活用すべき構造的な理由を整理したうえで、職種特性を踏まえた選び方・活かし方を実務的な観点から解説します。
採用担当者がエージェントを使うべき構造的な理由
「採用側」の知識はそのまま転職活動に活かせない
採用担当者は、求職者の書類選考・面接評価・内定調整を日常業務として行います。そのため、「採用の論理」については高い解像度を持っています。
一方で、自分自身が転職活動をする際には立場が逆転します。採用担当者としての知識が豊富であっても、以下の点については構造的に情報格差が生じやすくなります。
- 業界横断の求人情報:自社に来る求人や、自社が使うエージェントの守備範囲は限定的です。市場全体の求人ボリュームや各社のポジション詳細を個人で把握することは難しい
- 競合他社の評価軸・組織文化:採用担当者は自社の評価基準には詳しくても、移籍先候補の組織の実態を内側から知る機会は少ない
- 採用担当ポジション自体の相場観:自社の採用担当ポジションの報酬水準は把握していても、市場全体の賃金レンジとのずれを正確に評価しにくい
エージェントは、複数社の採用情報を横断的に持ち、企業の内側の情報を蓄積しています。採用担当者こそ、この「情報の非対称性を埋める機能」を積極的に使うべきでしょう。
採用担当ポジションは非公開求人の比率が高い傾向がある
採用担当・HR領域のポジションは、他職種と比べて非公開求人の割合が高い傾向があります。その背景には以下のような要因があります。
- 採用担当のポジションを公開募集すると、現在の担当者が退職予定であることが社内外に伝わるリスクがある
- HRBPや採用マネジャー層は競合他社とのポジション競合が起きやすく、あえて公開しない企業が多い
- スタートアップ・成長期の企業では、人脈経由やエージェント限定での採用が主流になることがある
非公開求人にアクセスするには、実績あるエージェントとの関係構築が前提となります。求人サイトへの直接応募だけでは、母集団の一部しか見られないまま意思決定することになりかねません。
採用担当者は「エージェントの評価方法」を知っているからこそ注意が必要
採用担当者は、転職エージェントがどのようなインセンティブ構造で動いているかを理解しています。そのため「エージェントに乗せられることはない」と過信しやすい面があります。
しかし、自分自身の転職においては感情的な関与が高まり、客観的な判断が難しくなることがあります。複数エージェントを比較する手間を省いて一社に絞る、年収交渉を遠慮して自分でやらない、といった行動は採用担当者でも起きやすいものです。
自分の専門知識は「エージェントとの対話の質を上げる」ために使い、最終判断は複数視点を持って行う姿勢が重要です。
採用担当転職においてエージェントで確認すべき主な軸
| 確認軸 | 詳細 |
|---|---|
| HR・採用担当領域の支援実績 | その職種を専門的に扱っているか、過去支援数の目安を確認する |
| 非公開求人の保有数 | IT・SaaS・コンサルなど自分が志望する業界の非公開求人を持っているか |
| 企業文化・組織情報の深さ | HR部門の規模・採用体制・ミッション範囲まで情報提供できるか |
| 年収交渉の実績と方針 | 単に内定を取るだけでなく、条件交渉を積極的に行うスタンスか |
| 担当者のHR/採用領域への理解度 | 採用担当者の職務経歴の読み解き方・評価ポイントを理解しているか |
| 複数社並行支援への対応 | 1〜3社程度に絞らせようとしていないか、適切な選択肢を提示しているか |
採用担当者のスキルセット別・エージェント活用の方向性
採用オペレーション経験が中心の場合
スカウト配信管理・ATSの運用・エージェントコーディネートなど、採用実務を幅広くこなしてきた場合、経験の「幅」は強みである一方、ポジションによっては「深さ」を問われます。エージェントに対しては、自分の経験が評価されやすい求人の業界・フェーズを絞って提案してもらうよう依頼すると有効です。スタートアップの採用立ち上げ経験がある場合は、同じフェーズの企業への訴求力が高まりやすい傾向があります。
HRBPや採用戦略に関与してきた場合
採用計画の策定・採用ブランディング・経営層との連携といった上流の経験を持つ場合、転職先としてはHR Manager以上のポジションや、PeopleチームのリードなどSaaS系スタートアップの求人が候補になりやすくなります。エージェントには求人票の「ミッション」「レポートライン」「組織規模」の詳細を早い段階で引き出してもらうことが重要です。
ケーススタディ:採用担当者がエージェント活用で条件を整理した例
プロフィールの型
- 経験:事業会社で採用担当として4年。ITサービス業界。採用計画立案からエージェントマネジメントまでを担当
- 転職の背景:採用機能の縮小に伴い、より採用戦略に関与できる環境を求めて転職活動を開始
- 活動当初の状況:求人サイトで直接応募していたが、採用担当ポジションが少なく、応募できる求人が限られていると感じていた
エージェント活用後の変化
- 非公開求人への接触:エージェント経由で、Series BからCフェーズのSaaS企業がHRをゼロから立ち上げる求人を複数紹介された。求人サイトには掲載されていなかったポジション
- 企業比較の軸の整理:面接の準備段階で、担当エージェントから各社のHR部門の現状・課題・採用予算の規模感について情報提供を受け、面接での質問の質が上がった
- 年収交渉の委任:オファー提示後、自分で交渉する際に遠慮が生じやすいと認識していたため、エージェントに交渉を委任。結果として内定時の年収を当初提示から1割前後引き上げることができた(個人差あり)
このケースが示すのは、採用担当者が「転職エージェントの使い方を知っている」と感じていても、自分事として活用する視点を持てていなかったという点です。エージェントの機能を自分のために使うことを改めて意識することで、活動の質と選択肢が変わりやすくなります。
よくある質問
Q1. 採用担当として転職エージェントのアカウントを持っているが、転職活動でも同じエージェントを使えるか?
法人取引として利用しているエージェント会社に、転職者として登録することは制度上は可能な場合が多いです。ただし、自社の情報を知られているエージェントに個人として登録することへの心理的なハードルや、守秘義務との関係を整理しておく必要があります。転職活動の際は、業務上接点のないエージェントをメインにし、複数社を並行して活用するほうが自然なケースが多いでしょう。
Q2. 採用担当として転職エージェントと交渉するのが得意だが、転職活動でも自分で交渉すべきか?
採用担当者としての交渉経験は、自分自身の転職交渉に必ずしも直結しません。採用側として条件を下げる交渉と、求職者として条件を上げる交渉は、感情的な関与の度合いが異なります。エージェントに年収交渉を委任することで、感情的なバイアスを排除した交渉が行われやすくなります。自分でできると思っていても、エージェントに委任することを検討する価値があります。
Q3. 採用担当者としての経験は、どのような職種・ポジションへの転職に活かせるか?
HR全般(HRBPや労務・組織開発)への異動を伴う転職はキャリアパスとして自然な流れです。また、採用担当の経験を持つ人材が事業会社のHRマネジャーに転向するケースも多く見られます。加えて、採用担当者として培ったエージェントマネジメント・採用ブランディングの経験を活かし、RPO(採用代行)会社や人材系企業へ移るルートも存在します。自分の経験がどのポジションで評価されやすいかは、エージェントとの対話を通じて整理するのが有効です。
Q4. 複数のエージェントを使う場合、何社程度が適切か?
一概には言えませんが、2〜4社程度を並行して活用するのが管理しやすいとされています。多すぎると情報整理や日程調整の負荷が増し、少なすぎると求人の偏りが生じます。各エージェントに得意領域が異なるため、IT・SaaS系に強いエージェントと、コンサル・HRテック系に強いエージェントを意識的に組み合わせることで、選択肢の幅が広がりやすくなります。
まとめ
採用担当者の転職活動は、採用業務の知識があるがゆえに「自分でできる」という過信が生じやすく、非公開求人へのアクセスや年収交渉において機会損失が起きやすい構造があります。エージェントを活用する目的は、情報の非対称性を解消し、選択肢を広げ、条件交渉を適切に行うことにあります。エージェントを選ぶ際はHR・採用領域の実績と、担当者の職種理解の深さを確認することが重要です。自分の経験・スキルセットと市場における評価軸がどのように対応しているかを把握するためにも、まずは自身の市場価値を専門家との対話を通じて確認してみることをお勧めします。