フィンテックの年収相場|転職で押さえるべきポイント
フィンテックの年収は、転職メディアでは「高水準」とまとめられがちですが、実際には会社によって大きく開きます。この記事では、上場している事業会社の有価証券報告書に記載された平均年間給与という、算出根拠が明示された数値だけを使って報酬水準を整理し、その差がどこから生じているかを解説します。2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。
報酬水準は事業の収益段階で決まる
前提として押さえたいのは、この領域の報酬が「フィンテックかどうか」ではなく、その事業がどの段階にあるかで決まる点です。
同じフィンテックでも、決済インフラのように取引量に応じて安定的に収益が積み上がる事業と、シェア拡大のために投資を優先している事業では、報酬の設計が変わります。前者は既存事業の利益から報酬原資を確保でき、後者は成長投資と人件費の配分が問われます。
この違いは、後述するとおり有価証券報告書に記載された平均年間給与と平均勤続年数の組み合わせに表れます。求人票の提示レンジだけを横に並べても比較にならないのは、この構造があるためです。
上場3社の有価証券報告書で見る実額
上場企業は、有価証券報告書に提出会社の従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与を記載しています。以下はいずれも各社が提出した有価証券報告書の記載です。
| 会社 | 対象事業年度 | 従業員数 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|---|---|
| GMOペイメントゲートウェイ株式会社 | 2025年9月期 | 594名(11) | 37.5歳 | 6.3年 | 10,973,370円 |
| 株式会社マネーフォワード | 2025年11月期 | 1,707名(246) | 34.3歳 | 2.9年 | 7,233,561円 |
| freee株式会社 | 2025年6月期 | 1,851名(156) | 33.1歳 | 2.2年 | 6,884千円 |
括弧内は臨時雇用者数の年間平均人員で、外数として記載されているものです。いずれの会社も、平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含む旨を注記しています。
3社を並べると、最も高いGMOペイメントゲートウェイと最も低いfreeeの間には400万円を超える差があります。同じ「フィンテック」という括りの中で、この幅が生じています。
読むときに注意したいのが、この表の数値がいずれも提出会社単体、つまり親会社の数値である点です。有価証券報告書には連結会社の従業員数も別途記載されており、マネーフォワードは連結2,839名に対し提出会社1,707名、freeeは連結1,901名に対し提出会社1,851名、GMOペイメントゲートウェイは連結882名に対し提出会社594名です。グループ全体の人員規模と、平均年間給与が算出された母集団は一致していません。子会社に人員が多く配置されている会社では、提出会社の数値がグループ全体の実態から離れる可能性があります。転職先が親会社なのか子会社なのかによっても、参照すべき数値が変わります。
水準が割れる理由を勤続年数から読む
差の背景を読み解く鍵は、平均勤続年数と平均年齢にあります。
GMOペイメントゲートウェイは平均勤続年数6.3年、平均年齢37.5歳です。他の2社が2〜3年台、33〜34歳台であるのに対し、明確に長く、高くなっています。勤続年数が長いということは、社内での昇給機会を重ねた従業員の比率が高いことを意味します。平均年間給与はその積み上がりを含んだ数値です。
一方、マネーフォワードとfreeeは組織が拡大局面にあります。freeeの有価証券報告書には、連結の従業員数について前事業年度末に比べ179名増加した旨と、その主な理由が持続的な事業成長を見据えた採用増加である旨が記載されています。採用によって新しく入った従業員が増えると、平均勤続年数は下がり、平均年間給与も入社時水準に引き寄せられます。
つまり、平均年間給与の低さがそのまま「給与水準が低い会社」を意味するとは限りません。組織の成長速度が数値に反映されている可能性があります。
事業構成の違いも影響します。GMOペイメントゲートウェイのセグメント別従業員数は、連結で決済代行事業564名、金融関連事業132名、決済活性化事業56名、全社(共通)130名です。決済インフラを中核に据えた構成であることが読み取れます。
官公庁統計が示す職種側の水準
会社側ではなく職種側から見た水準は、厚生労働省が運営する職業情報提供サイト job tag で確認できます。フィンテックの開発職に近い区分として「システムエンジニア(Webサービス開発)」の数値を示します。
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 平均年収 | 578.5万円 | 令和7年賃金構造基本統計調査 |
| 平均年齢 | 37.1歳 | 令和7年賃金構造基本統計調査 |
| 月間労働時間 | 159時間 | 令和7年賃金構造基本統計調査 |
| 時間給(一般労働者) | 2,819円 | 令和7年賃金構造基本統計調査 |
| 就業者数 | 389,760人 | 令和2年国勢調査 |
| 求人賃金(月額) | 35.2万円 | 令和6年度ハローワーク求人統計 |
| 有効求人倍率 | 2.57 | 令和6年度ハローワーク求人統計 |
ここで一点、統計の性質として知っておきたいことがあります。同じサイトの「プログラマー」の項目を見ると、平均年収578.5万円、平均年齢37.1歳、月間労働時間159時間、就業者数389,760人という数値が、システムエンジニア(Webサービス開発)と完全に一致します。賃金構造基本統計調査における職業分類が同一区分にまとめられているためです。
一方で、ハローワーク求人統計にもとづく数値は分かれます。求人賃金はプログラマーが32.9万円、システムエンジニア(Webサービス開発)が35.2万円、有効求人倍率はそれぞれ0.94と2.57です。
この差は、統計の母集団が異なることに由来します。職種名で数値を比較する際は、どの調査に由来する数字かを確認する必要があります。
エージェントベストの見解
公開されている平均年間給与を会社の実力として読むと、判断を誤ります。前掲の3社で400万円以上の差が出ていますが、これは報酬制度の優劣ではなく、組織の年齢構成と勤続年数の差が大きく効いています。勤続6.3年の会社の平均には昇給を重ねた層が含まれ、勤続2.2年の会社の平均は入社時水準に近くなります。転職者が知りたいのは平均ではなく、自分の職位で提示される額です。面談では、開示されている平均値ではなく、直近で同じ職務要件の方にどのレンジが提示されたかを見ています。この二つは別の数字だと考えたほうが安全です。
年収が上がる要因
この領域で報酬が動く要因は、いくつかに整理できます。
第一に、担当する事業の収益段階です。前掲のとおり、収益が安定している事業を中核に持つ会社では、報酬原資が確保しやすくなります。
第二に、職務の希少性です。規制対応と開発の両方を理解している人材、あるいは金融機関側の実務と事業会社側の開発の両方を経験している人材は、母集団が小さくなります。有効求人倍率2.57という水準は、募集側が人を探している状態を示しています。
第三に、入社時の職位です。多くの会社で等級制度が設けられており、レンジは職位に紐づきます。入社後の昇給よりも、入社時にどの等級で評価されるかの影響が大きくなる傾向があります。
第四に、賞与や業績連動部分の比率です。前掲3社はいずれも、平均年間給与に賞与及び基準外賃金を含む旨を注記しています。固定部分と変動部分の比率は会社によって異なるため、提示額の内訳を確認しておく価値があります。
提示額を読むときの実務的な注意
オファーを受け取った段階で確認しておきたい点を挙げます。
固定給と賞与の内訳は、最初に確認したい項目です。年収の提示額に業績連動部分が含まれている場合、その部分の過去の支給実績を聞いておくと見通しが立ちます。
ストックオプションなどの株式報酬が含まれる場合、その扱いも整理が要ります。付与時点の評価額と、実際に価値が確定する時期は異なります。年収の一部として単純に足し合わせると、手取りの見込みがずれます。
昇給の頻度と等級の運用も確認したい点です。等級ごとのレンジ幅と、次の等級に上がる要件が明文化されているかどうかで、数年後の見通しが変わります。
業界全体の年収の考え方はフィンテック業界の年収相場でも整理しています。職種側から見た水準はAIエンジニアの年収なども参考になります。
エージェントベストの見解
書類の段階で提示レンジが変わるのは、扱った金額規模を書けているかどうかです。この業界の職務経歴書でよく見るのは、担当プロダクトと使用技術が並んでいるだけのものです。決済や送金に関わる職務であれば、扱った取引の規模、障害発生時の影響範囲、規制対応で関与した工程を数値で書けるかどうかで読み手の評価が変わります。営業やカスタマーサクセスであれば、担当した顧客の業種構成と単価帯です。これらは前職の守秘に配慮しつつ、桁数や比率で表現できます。同じ経歴でも、この一段の具体化があるだけで、面接に進んだ時点の想定レンジが変わることがあります。
まとめ
フィンテックの年収は、業界全体の相場としてひとつの数字で語れるものではありません。上場3社の有価証券報告書を見ると、提出会社の平均年間給与は6,884千円から10,973,370円まで開きがあります。
この差の背景には、平均勤続年数と平均年齢の違いがあります。勤続年数が長い会社の平均には昇給を重ねた層が含まれ、拡大局面にある会社の平均は入社時水準に近づきます。採用による従業員増が平均値を押し下げる構造があるため、平均年間給与の低さを給与水準の低さと直結させるのは適切ではありません。
自分の場合いくらになるかは、入社時の職位と担当する事業の収益段階で決まる部分が大きくなります。開示された平均値は業界の構造を理解する材料として使い、個別の提示額は別途確認することをおすすめします。
よくある質問
Q. フィンテックに移ると年収は上がりますか。
一律には言えません。前掲の上場3社では提出会社の平均年間給与が6,884千円から10,973,370円まで分布しており、会社による差が大きい領域です。現職の水準と職位によって結果が変わるため、個別に確認する必要があります。
Q. 非上場のフィンテック企業の年収はどう調べればよいですか。
有価証券報告書がないため、平均年間給与を一次情報で確認することは難しくなります。募集要項に記載されたレンジと、面談での確認が現実的な手段です。なお金融庁の登録業者一覧では、登録業種と登録年月日は非上場企業についても確認できます。
Q. 平均年間給与にはどこまで含まれますか。
前掲3社はいずれも、有価証券報告書において平均年間給与に賞与及び基準外賃金を含む旨を注記しています。固定給のみの数値ではないため、提示額と比較する際は内訳を揃えて見る必要があります。
- 株式会社マネーフォワード 有価証券報告書(2025年11月期)
- freee株式会社 有価証券報告書(2025年6月期)
- GMOペイメントゲートウェイ株式会社 有価証券報告書(2025年9月期)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「システムエンジニア(Webサービス開発)」(令和7年賃金構造基本統計調査ほか)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「プログラマー」
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。