SaaSスタートアップの年収相場|転職で押さえるべきポイント

SaaS・SaaSスタートアップ 年収相場 更新日 2026/8/11

現金と株式を、分けて見積もる

SaaSスタートアップの年収は、現金部分だけで判断できません。株式による報酬が組み込まれることが一般的だからです。

そして、この2つは性質がまったく違います。現金は確定していて、株式は確定していません。

まず現金部分の目安として、関連する区分を並べます。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の数値です。

区分平均年収求人賃金(月額)時間当たり賃金有効求人倍率
ITコンサルタント889万円35.4万円4,026円0.89
コンサルティング営業(IT)659.4万円29.8万円3,140円4.02
プログラマー578.5万円32.9万円2,819円0.94

注目したいのは営業の数字

有効求人倍率4.02という圧倒的な需給の逼迫がありながら、平均年収は659.4万円。ITコンサルタントの889万円を大きく下回ります。

需要が高いのに単価が上がらない理由

営業職は成果が見えやすく、代替も効きやすい構造があります。就業者数581,280人という規模も、単価が上がりにくい要因になります。

SaaSスタートアップでの意味

この現金水準の上に、株式部分が乗ります。現金では大手に勝てないため、株式で埋めるという設計です。

この記事では、その株式部分をどう見積もるかを整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。制度の要件や税務上の取扱いは改正されることがあり、個別の判断は事情により変わりますので、国税庁の公表資料や税理士等の専門家にご確認ください。

税制適格ストックオプションの要件を、条文で確認する

株式部分を見積もるには、制度の枠組みを知る必要があります。

租税特別措置法第29条の2は、一定の要件を満たす新株予約権の行使による経済的利益について、非課税の扱いを定めています。

権利行使の期間

同条は、新株予約権の行使について、付与決議の日後2年を経過した日から、当該付与決議の日後10年を経過する日まで と定めています。さらに、当該株式会社がその設立の日以後の期間が5年未満である場合には、付与決議の日後15年を経過する日まで に延長されます。

年間の権利行使価額

その年における権利行使価額と、その年に既にした特定新株予約権の行使に係る権利行使価額との合計額が 1,200万円 を超えることとなる場合について、規定が置かれています。

株式の管理

金融商品取引業者等の振替口座簿への記載・記録、営業所等への保管の委託・管理等信託のほか、株式会社が帳簿を備え、権利者の別に、当該株式の取得その他の異動状況に関する事項を記載し、又は記録することによって当該株式を管理する方法 も定められています。

見積もりへの影響

権利行使が付与決議から2年後以降ということは、入社から最低2年は現金部分だけで生活することを意味します。株式部分を織り込んだ総額で判断すると、最初の2年が苦しくなります。

職種によって、現金部分の設計が違う

職種固定給の傾向変動部分補足
セールス中程度インセンティブの比重が大きい個人の数字に連動
カスタマーサクセス中程度中〜小解約率や拡大額に連動する設計も
エンジニア中〜高小さい市場相場を意識した提示になりやすい
プロダクトマネージャー高め中程度人数が少なく、代替が効きにくい
コーポレート中程度小さい会社の等級に沿います

セールスの注意点

インセンティブの比重が大きい設計では、提示された想定年収と実際の受取額が乖離します。目標を達成した場合の金額が提示されていることが一般的です。直近1年で目標を達成した人の割合を聞く価値があります。

エンジニアの注意点

現金部分は市場相場を意識した提示になりやすい一方、株式部分が薄いことがあります。セールスと逆の設計です。

確認すべき点 — 固定給、変動部分、株式部分の3つを分けて聞きます。合算した「想定年収」だけでは判断できません。

会社の段階で、現金と株式の比率が変わる

シード〜アーリー

現金部分は抑えられ、株式部分の比率が高くなります。設立5年未満であれば、権利行使の終期が15年まで延びる区分に該当し得ます。

ミドル

現金部分が改善します。株式部分は、既に発行済みの割合が増えているため、1人あたりの付与は薄くなる傾向があります。

レイター〜上場前

現金部分は大手に近づきます。株式部分は、価値が見えやすくなる代わりに、上振れの幅は小さくなります。

上場後

現金部分が中心になります。株式報酬は譲渡制限付株式など、上場企業の形に移ります。

判断のしかた

早い段階ほど、株式の上振れが大きく、現金は低い。遅い段階ほど、現金は安定し、株式の上振れは小さい。どちらのリスクを取るかという選択です。

近い領域の水準はSaaS業界の年収メガベンチャーの年収相場もあわせてご覧ください。

エージェントベストの見解

ストックオプションの提示を受けたとき、株数だけを聞いて判断される方が数多くいます。株数は、発行済株式総数が分からなければ意味を持ちません。1万株と聞いて多いと感じても、発行済株式総数が1,000万株なら0.1%です。確認していただきたいのは4つです。ひとつ、発行済株式総数に対する割合。ふたつ、権利行使価額。みっつ、税制適格の要件を満たす設計か。租税特別措置法第29条の2は権利行使を付与決議の日後2年を経過した日からとしており、それより早い行使はできません。よっつ、退職した場合の扱い。この4つを聞いて答えが揃わない会社は、制度設計が固まっていない可能性があります。現金部分を下げてまで受ける判断は、この4つが分かってからにしてください。

現金部分だけで、生活が成り立つかを先に見る

提示を評価するときの順序があります。

手順1:現金部分だけを取り出す

固定給と、堅く見込める変動部分。ここだけで生活が成り立つかを確認します。

手順2:最低2年で考える

租税特別措置法第29条の2の要件では、権利行使は付与決議の日後2年を経過した日からです。この2年間は、現金部分だけの生活になります。

手順3:株式部分は上振れとして扱う

株式の価値は、事業の成否と市場環境に左右されます。生活の前提には置きません。

手順4:転職した場合を想定する

ストックオプションは退職により失効する設計が一般的です。2年以内に別の会社に移る可能性を考えると、株式部分は計算に入れにくくなります。

逆に言えば

2年以上続ける前提が持てる会社であれば、株式部分に意味が出ます。事業への確信が持てるかどうかが、この判断の実質です。

資金調達の状況が、現金部分の上限を決める

SaaSスタートアップの現金部分は、その会社が持っている資金に規定されます。ここを見ずに提示額だけで判断すると、入社後に想定が変わることがあります。

なぜ影響するか

SaaSの事業は、顧客を獲得してから収益が積み上がるまでに時間がかかります。その間の人件費は、調達した資金でまかなわれます。つまり、現金部分の原資は売上ではなく資金である局面があります。

確認すべき点

なぜ聞いてよいのか

資金調達はプレスリリースで公表されることが多く、隠す情報ではありません。従業員数の増加と調達の規模を並べると、採用にどれだけ配分しているかが読めます。

答え方に注目する

黒字化の見通しについて、具体的な指標で答えられる会社と、そうでない会社があります。前者は事業の設計が固まっており、後者はまだ探索の段階です。どちらが良いという話ではなく、自分がどちらの局面に向くかの判断材料になります。

現金部分への含意

調達直後は採用に積極的で、条件も出やすくなります。逆に、次の調達までの期間が長くなると、昇給が抑えられることがあります。入社時の提示だけでなく、その後の見通しを聞いておく価値があります。

オファーで確認すること

2つ目が、セールス職では実際の受取額を最も左右します。想定年収は目標達成を前提にした金額であることが一般的です。

3つ目と4つ目は、聞きにくいと感じる方が多い項目ですが、この業界では通常の質問です。答えられない会社のほうが問題があります。

エージェントベストの見解

セールス職で転職される方に、有効求人倍率4.02という数字の意味をお伝えしています。この需給であれば、条件交渉は有利に進みます。実際、複数社から提示を受ける方が数多くいます。ただし、そこで見落とされやすいのが、単価の天井です。job tagの区分では、コンサルティング営業(IT)の平均年収は659.4万円、時間当たり賃金は3,140円。ITコンサルタントの889万円・4,026円を下回ります。つまり、4.02という需給に支えられて転職を繰り返しても、この水準の枠内に留まります。天井を上げるには、価格を決めた、対象顧客を絞った、解約の原因を製品仕様に返した、といった判断の経験が要ります。数字を達成した話だけで転職を重ねる方と、判断の経験を積む方では、5年後の水準が変わります。

まとめ

SaaSスタートアップの年収相場について、押さえるべき点を整理します。

本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。統計の数値は調査区分全体のものであり、特定の企業の実態を示すものではありません。制度の要件や税務上の取扱いは改正されることがあり、個別の判断は事情により変わりますので、国税庁の公表資料や税理士等の専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. ストックオプションは、年収に含めて考えてよいですか。

A. 生活の前提には置かないほうが安全です。租税特別措置法第29条の2の要件では権利行使は付与決議の日後2年を経過した日からであり、それまでは現金部分だけの生活になります。株式部分は上振れとして扱うのが実務的です。

Q. 株数だけ提示された場合、どう判断しますか。

A. 発行済株式総数に対する割合を聞いてください。株数だけでは母数が分からず、判断できません。あわせて権利行使価額と、退職した場合の扱いも確認します。

Q. セールス職の想定年収は、そのまま受け取ってよいですか。

A. 目標達成を前提にした金額であることが一般的です。直近1年で目標を達成した人の割合を聞くと、実態が分かります。固定給だけで生活が成り立つかを先に確認してください。

Q. 会社の段階によって、どちらが有利ですか。

A. 早い段階ほど株式の上振れが大きく現金は低い、遅い段階ほど現金は安定し上振れは小さい、という関係です。どちらのリスクを取るかという選択であり、有利不利の問題ではありません。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)