SaaSスタートアップの志望動機の書き方|転職で押さえるべきポイント
「裁量を持ちたい」が、逆に働く理由
SaaSスタートアップの志望動機で最も多いのが、「裁量を持って働きたい」「成長環境に身を置きたい」という書き方です。
意欲としては自然ですが、この業界では逆に働くことがあります。理由は3つあります。
理由1:全員が書く
応募者のほぼ全員が同じ主旨を書きます。区別がつきません。
理由2:受け身に読まれる
裁量も成長環境も、会社から与えられるものとして書かれています。スタートアップで求められるのは、与えられる人ではなく取りにいく人です。
理由3:役割の不明確さへの覚悟が見えない
裁量があるということは、職務の範囲が決まっていないということでもあります。「これは私の仕事ではない」が通じにくい環境です。憧れだけで書くと、その覚悟がないと見られます。
読み手が知りたいこと
どの職種で、何の数字を持つのか。そして、継続の設計ができるか。
SaaSの収益は積み上げで成り立ちます。売って終わりではありません。この構造を理解しているかが、他の業界からの応募者との差になります。
この記事では、志望動機に何を入れれば噛み合うのかを整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。
志望動機に入れる3つの材料
| 材料 | 具体化する内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| 負った数字 | 目標を持ち、未達のときにどう説明したか | 自分の実務 |
| 継続の設計 | 一度きりでなく、続く関係を作った経験 | 自分の実務 |
| 触った製品 | 応募先の製品を使って感じたこと | 自分で試す |
1つ目は「関わった」ではなく「負っていた」かが問われます。
2つ目が、この業界で最も差がつく材料です。獲得の話は誰でも書けます。続けさせた話を書ける人は多くありません。
3つ目は、実行している応募者がほとんどいません。無料プランやトライアルがあれば試せます。触ったうえでの記述は、面接での会話を一段深くします。
継続の設計を、数字で語る
SaaSの収益構造を理解していることは、志望動機で示せます。
書き方の誤り
「ストック型のビジネスモデルに魅力を感じました」は、モデルの説明であって自分の経験ではありません。
書き方の例
「前職では導入後3か月の利用率が伸びない顧客に対し、月次の利用状況レポートを送る運用を作りました。解約率を12%から7%に下げています。獲得より、続けていただくことのほうが難しいと考えています」
なぜこれが効くのか
獲得の数字は市場環境に左右されますが、解約を止める技術には再現性があります。 読み手はそちらを見ています。
SaaS未経験の場合
継続の設計は、他の業界にもあります。保守契約の更新、定期購買の維持、会員の退会防止。形式は問いません。一度きりでなく続く関係を作った経験があれば、それを書きます。
職種を明示して書く
この業界では、職種によって難易度も求められる経験もまったく違います。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の数値を見ると、その差が分かります。コンサルティング営業(IT)の有効求人倍率は 4.02、プログラマーは 0.94(いずれも令和6年度)。1人の求職者に対する求人の数が4倍以上違います。
志望動機への反映
冒頭で職種を明示します。「カスタマーサクセスを志望します」と書き出すだけで、読み手の読み方が変わります。
職種別の書くべき材料
- セールス — 無形商材の法人営業、目標を負った経験、決裁者との商談
- カスタマーサクセス — 解約を止めた経験、拡大提案、利用状況の分析
- エンジニア — 自社製品の開発、技術選定、リリース後の改善
- プロダクトマネージャー — 何を作るかを決めた経験、数字への責任
- コーポレート — 少人数で幅広く担った経験、仕組みを作った実績
必要スキルとの接続
job tagのコンサルティング営業(IT)の区分では、他者とのかかわり4.7、傾聴力3.9、達成感3.7、交渉3.5、説明力3.5 が示されています。最上位が「他者とのかかわり」である点は、この職種が単独で完結しないことを表しています。
会社の段階を踏まえて書く
同じSaaSスタートアップでも、段階によって求められるものが違います。
シード〜アーリー(〜20人程度)
何もない状態から作れるかが問われます。「仕組みがない環境で、自分で型を作った経験があります」という書き方が接続します。
ミドル(20〜100人程度)
個人の成果を仕組みに変える段階です。「属人的だった業務を標準化し、他のメンバーが同じ結果を出せるようにしました」という記述が効きます。
レイター(100人〜)
専門性が問われます。特定領域を深めた経験を前に出します。
書き方の要点
応募先がどの段階かを調べたうえで、自分の経験がその段階に接続することを示します。段階を無視した志望動機は、調べていないと受け取られます。
弱い志望動機と、その直し方
「裁量を持って働きたい」
与えられるものとして書かれています。直すには、権限がない状態で動いた経験を書きます。
「成長環境に身を置きたい」
全員が書きます。直すには、自分が出せる成果を先に置きます。
「ストック型のビジネスモデルに魅力を感じた」
モデルの説明です。直すには、継続の設計をした経験を書きます。
「プロダクトに共感しました」
利用者としての感想です。直すには、触ったうえでの具体的な観察を書きます。
「若い組織でスピード感を持って働きたい」
環境への憧れです。直すには、遅い環境で速く動いた経験を書きます。
ストックオプションへの言及が前に出る
報酬目当てと受け取られます。条件の話は条件面談の場で足ります。
エージェントベストの見解
書類で通過率が変わるのは、製品に触れたうえで書いているかどうかです。SaaSの多くは無料プランやトライアルを用意しています。実際に登録して使ってみるだけで、書ける内容が変わります。「管理画面から権限設定を試したところ、部署ごとの閲覧範囲を分ける操作に3画面を要しました。導入企業の情報システム部門が最初につまずく箇所ではないかと考えています」。こう書けば、利用者としての視点と、導入を支援する側の視点の両方があると伝わります。多くの応募者は、サービスサイトの記述を要約して書きます。それは調べたのではなく読んだだけです。触った人の記述は、文章の質感が違うため、読み手にはすぐ分かります。準備に必要なのは30分です。
職務経歴書に書くこと
職務経歴書 は事実を並べる書類です。この業界では、次を添えると読み手が判断しやすくなります。
- 志望する職種(冒頭に明示)
- 負っていた数字(目標と実績、期間)
- 継続に関わる指標(更新率、解約率、拡大額)
- 顧客の規模と、商談の相手の役職
- 型を作った経験と、それを使った人数
- 製品や事業の知識をどう身につけたか
3つ目が、この業界に固有の項目です。獲得の数字だけでなく、続いたかどうかを示せると強くなります。
転職理由 は、次に何を積みたいかという整理にします。前職の遅さや硬直への不満を中心に置くと、この業界でも別の不満を持つと読まれます。
報酬の条件は、順序を守って聞く
ストックオプションの条件は、確認すべき事項です。ただし、志望動機に書くものではありません。
制度の基本
租税特別措置法第29条の2は、一定の要件を満たす新株予約権の行使による経済的利益について非課税の扱いを定めており、権利行使を 付与決議の日後2年を経過した日から、当該付与決議の日後10年を経過する日まで(設立の日以後の期間が5年未満である株式会社の場合は15年を経過する日まで)としています。
この理解が示すもの
最低2年は在籍しないと権利を行使できません。短期での転職を前提にしている人には、意味を持たない報酬です。
面接での触れ方
志望動機で触れる必要はありません。ただし、「2年以上腰を据えるつもりです」という文脈で、制度を理解していることが伝わると、長期の適性があると読まれます。
制度の要件や税務上の取扱いは改正されることがあり、個別の判断は事情により変わりますので、国税庁の公表資料や税理士等の専門家にご確認ください。
近い領域の書き方はSaaS業界のガイド、メガベンチャーの志望動機の書き方もあわせてご覧ください。
エージェントベストの見解
面接の終盤で問われるのが、役割が決まっていない状態をどう受け止めるかという点です。スタートアップでは、職務の範囲が明確でないことがあります。営業として入ったのに、導入の支援も、資料の整備も、採用の面接も回ってくる。ここで「本来の業務に集中したい」と答えると、この業界では難しくなります。準備としては、前職で職務の範囲外のことをやった場面を1つ用意しておくことです。なぜ自分がやったのか、その結果どうなったのかまで話せると、範囲を超えて動ける人だと伝わります。job tagのコンサルティング営業(IT)の区分で「他者とのかかわり4.7」が最上位に来ているのは、この職種が単独で完結しないことを示しています。範囲の外に手を出せるかが、この業界の適性を分けます。
まとめ
SaaSスタートアップの志望動機について、押さえるべき点を整理します。
- 「裁量を持ちたい」は全員が書き、受け身にも読まれる
- 入れる材料は、負った数字、継続の設計、触った製品の3つ
- 獲得の話は誰でも書ける。続けさせた話を書ける人は少ない
- IT営業の有効求人倍率4.02とプログラマー0.94。職種を冒頭で明示する
- 会社の段階を調べ、自分の経験がその段階に接続することを示す
- ストックオプションは志望動機に書かない。条件面談の場で確認する
本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。選考で重視される点は会社によって異なりますので、詳細は各社公式サイトでご確認ください。制度の要件や税務上の取扱いは改正されることがありますので、国税庁の公表資料や税理士等の専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. SaaS未経験でも、継続の設計を書けますか。
A. 書けます。保守契約の更新、定期購買の維持、会員の退会防止。一度きりでなく続く関係を作った経験があれば、形式は問いません。数字で示せると、なお効きます。
Q. 製品に触るのは、どこまでやればよいですか。
A. 無料プランやトライアルに登録し、主要な機能を一通り操作するだけで足ります。30分程度で、書ける内容が変わります。触ったうえでの観察は、サービスサイトの要約とは文章の質感が違います。
Q. 「プロダクトに共感しました」は書いてよいですか。
A. 書いて構いませんが、それだけで終わらせないことです。共感の理由を、触ったうえでの具体的な観察に置き換えると、利用者の感想から事業の視点に変わります。
Q. ストックオプションについて、志望動機で触れるべきですか。
A. 触れる必要はありません。ただし「2年以上腰を据えるつもりです」という文脈で長期の適性を示せると、制度を理解していることが間接的に伝わります。条件そのものは条件面談の場で確認します。
- e-Gov法令検索 租税特別措置法 第29条の2(特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/コンサルティング営業(IT)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/プログラマー
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。