SaaSベンダーの年収相場|転職で押さえるべきポイント

SaaS・SaaSスタートアップ 年収相場 更新日 2026/8/11

SaaSベンダーの年収は、上場企業の開示を並べると意外なほど近い帯に収まります。差が出るのは水準そのものより、勤続年数と年齢構成です。この記事では、算出根拠が明示された有価証券報告書と官公庁統計の数値だけを使い、報酬の構造を整理します。2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。

上場3社の開示は700万円前後に収まる

まず実額を並べます。いずれも各社が提出した有価証券報告書の記載で、提出会社単体の数値です。

会社対象事業年度従業員数平均年齢平均勤続年数平均年間給与
株式会社マネーフォワード2025年11月期1,707名(246)34.3歳2.9年7,233,561円
サイボウズ株式会社第29期(2025年12月期)1,080人(107)36.4歳6.7年7,188,078円
freee株式会社2025年6月期1,851名(156)33.1歳2.2年6,884千円

括弧内は臨時雇用者数の年間平均人員で、外数として記載されているものです。

3社の平均年間給与は688万円から723万円の範囲に収まり、最大でも35万円ほどの差にとどまります。従業員規模も1,000名台で近く、同じ人材層を採用している結果と読めます。

ここで比較の際に注意したい点があります。サイボウズの有価証券報告書では、平均年間給与に賞与、基準外賃金及び持株会奨励金を含む旨が注記されています。他の2社は賞与及び基準外賃金を含むという記載です。含まれる範囲が異なるため、厳密に横に並べる際はこの違いを踏まえる必要があります。

勤続年数の差が、組織の成熟度を示す

水準が近い一方で、明確に分かれているのが平均勤続年数です。サイボウズが6.7年、マネーフォワードが2.9年、freeeが2.2年で、倍以上の開きがあります。

この差は、離職の多寡だけでは説明できません。組織が採用によって拡大している局面では、新しく入った従業員の比率が高くなり、平均勤続年数は下がります。freeeの有価証券報告書には、連結の従業員数が前事業年度末に比べ179名増加した理由として、持続的な事業成長を見据えた採用増加が挙げられています。

平均年齢にも同じ傾向が表れます。33.1歳から36.4歳の範囲で、勤続年数が長い会社ほど高くなっています。

ここから読めるのは、勤続年数の短さが必ずしも待遇の問題ではないということです。むしろ拡大の速度を示す指標として読むほうが実態に近くなります。転職先を選ぶ際、この数値は「入りやすさ」と「制度の整い方」を推し量る材料になります。

官公庁統計との関係

職種側の水準は、厚生労働省が運営する職業情報提供サイト job tag で確認できます。

項目システムエンジニア(Webサービス開発)
平均年収578.5万円
平均年齢37.1歳
月間労働時間159時間
時間給(一般労働者)2,819円
就業者数389,760人
求人賃金(月額)35.2万円
有効求人倍率2.57

平均年収・平均年齢・月間労働時間・時間給は令和7年賃金構造基本統計調査、就業者数は令和2年国勢調査、求人賃金と有効求人倍率は令和6年度ハローワーク求人統計にもとづく数値です。

統計値578.5万円に対し、前掲3社の開示は688万円から723万円です。100万円から145万円ほど上回っています。統計の平均年齢37.1歳は3社より高く、年齢構成では説明のつかない差です。

統計の対象には受託開発会社や社内システム部門が広く含まれます。自社プロダクトを持つ企業とは収益構造が違うため、報酬の水準も分かれます。この差を職種の能力差として読むと判断を誤ります。事業モデルの違いが、そのまま報酬原資の差になっているだけです。

エージェントベストの見解

3社の水準が688万円から723万円という狭い範囲に収まっている事実は、会社選びの示唆になります。給与だけで比べても差がつきにくいということです。ここで見誤りやすいのは、平均勤続2.2年の会社と6.7年の会社を同列に扱ってしまうことです。前者は拡大局面で役割が短期間に広がり、後者は制度が整っている代わりに役割の空きが緩やかです。面談で確認しているのは提示額そのものより、その会社の等級制度がどこまで整備されているか、次の等級に上がる要件が明文化されているかの2点です。整っていない組織では、成果と報酬の対応が属人的になりやすくなります。

報酬が動く場面

この領域で提示額が変わる要因は、いくつかに整理できます。

担当する事業の位置づけ。 主力プロダクトか新規事業かで、求められる働き方も評価の指標も変わります。マネーフォワードの開示では、連結の従業員数2,839名(424)のうちBusinessが1,754名(196)、Homeが74名(20)と、事業ごとの人員規模に大きな差があります。

職種。 開発、プロダクトマネジメント、営業、カスタマーサクセスで報酬設計が異なります。営業職では業績連動の比重が高くなる例が見られます。有価証券報告書の平均年間給与は全職種を含んだ数値なので、職種別の水準は別途確認が要ります。

組織の局面。 拡大局面にある会社では、採用の必要から提示水準が動くことがあります。従業員数の増減理由は有価証券報告書に記載されます。

入社時の等級。 等級制度が敷かれている会社では、レンジは職位に紐づきます。入社後の昇給より、入社時の評価の影響が大きくなる傾向があります。

株式報酬の有無。 上場企業でも、株式報酬制度を持つ会社があります。前述のとおり、平均年間給与に持株会奨励金を含めて記載している例もあります。制度の有無と付与の条件は、オファーの段階で確認しておく必要があります。

提示条件を見るときの軸

オファーの段階で整理しておきたい点を挙げます。

固定給と業績連動の内訳。職種によって比重が変わります。営業やカスタマーサクセスでは変動部分の割合が大きくなる場合があり、過去の支給実績を確認しておくと見通しが立ちます。

株式報酬の扱い。付与時点の評価額と、実際に価値が確定する時期は異なります。年収の一部として単純に足すと手取りの見込みがずれます。現金部分だけで生活が成立するかを先に確認します。

等級と昇格の要件。前述のとおり、拡大局面の組織では制度が追いついていない場合があります。次の等級に上がる要件が明文化されているかを聞いておくと、数年後の見通しが立ちます。

稼働時間の前提。前掲の職種統計では月間労働時間が159時間と示されていますが、これは当該分類全体の平均です。リリース前や決算期には稼働が集中する傾向があります。

エージェントベストの見解

書類の段階で想定レンジが変わるのは、扱った規模と見ていた指標を書けているかどうかです。この領域の職務経歴書で最も多いのは、担当機能や担当社数だけが並んでいるものです。読み手は影響の大きさを判断できません。必要なのは、利用者数の桁、対象契約社数、そして自分が追っていた指標です。開発職なら稼働率や障害件数、営業職なら受注後の継続率まで書けると、事業の視点を持っている人だと伝わります。SaaSは数値で管理する文化が強い領域です。指標を語れる人と語れない人では、面接に進んだ時点の評価が変わります。

現職との比較で見落としやすい点

転職の判断では、提示額と現職の年収を並べるだけでは足りません。この領域特有の見落としがあります。

働き方に関する制度です。開示資料には、報酬以外の情報も記載されています。たとえばサイボウズ株式会社の第29期の有価証券報告書では、管理職に占める女性労働者の割合が28.7%、男性労働者の育児休業取得率が83.3%、労働者の男女の賃金の差異が全労働者で79.5%と記載されています。これらは女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の規定に基づき算出されたものです。金額だけでは見えない働き方の実態が、こうした指標から推し量れます。

昇給の速度も見ておきたい項目です。拡大局面の組織では評価制度が整備の途上にある場合があり、成果と報酬の対応が読みにくいことがあります。次の等級に上がる要件が明文化されているかを確認しておくと、数年後の見通しが立ちます。

そして株式報酬の扱いです。現金部分だけで生活が成立するかを先に確認したうえで、株式部分は上振れの可能性として別枠で評価するほうが判断を誤りません。

まとめ

SaaSベンダーの年収は、上場3社の開示で688万円から723万円という近い帯に収まっています。従業員規模も1,000名台で近く、同じ人材層を採用している結果と読めます。給与だけで会社を比べても差がつきにくい領域です。

明確に分かれるのは平均勤続年数で、2.2年から6.7年まで開きがあります。これは離職の多寡というより、組織が拡大している速度を示す指標として読むほうが実態に近くなります。

官公庁統計の578.5万円との差は100万円以上ありますが、統計の対象には受託開発会社などが広く含まれます。収益構造の違いによる差であり、能力差ではありません。

よくある質問

Q. SaaSベンダーに移ると年収は上がりますか。

一律には言えません。前掲の上場3社では提出会社の平均年間給与が688万円から723万円の水準で開示されていますが、これは平均値であり、個別の提示額は職種と入社時の等級で決まります。

Q. 勤続年数が短い会社は避けたほうがよいですか。

一概には言えません。拡大局面にある組織では新しく入った従業員の比率が高くなり、平均勤続年数は下がります。役割が短期間で広がる環境を求めるなら、むしろ適した選択になる場合があります。制度の整い方とあわせて判断することをおすすめします。

Q. 職種によって年収は変わりますか。

変わります。開発、プロダクトマネジメント、営業、カスタマーサクセスで報酬設計が異なり、営業職では業績連動の比重が高くなる例が見られます。有価証券報告書に記載される平均年間給与は全職種を含んだ数値であるため、職種別の水準は個別に確認する必要があります。

Q. 上場前の企業と比べてどうですか。

上場企業は開示があるため水準を確認できますが、未上場の企業は有価証券報告書がなく、平均年間給与を一次情報で把握することが困難です。募集要項のレンジと面談での確認が現実的な手段になります。株式報酬の性質も、上場の有無で大きく変わります。

Q. 平均年間給与にはどこまで含まれますか。

企業によって記載が異なります。賞与及び基準外賃金を含むとする例が一般的ですが、持株会奨励金まで含めて記載している企業もあります。複数社を比較する際は、注記の文言まで確認する必要があります。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)