ユーザー系SIerの年収相場|転職で押さえるべきポイント

SIer(システムインテグレーター) 年収相場 更新日 2026/8/11

ユーザー系SIerの年収は、公的統計の職種平均を大きく上回る水準が開示されています。ただしその差は個人の能力差ではなく、組織の構造から生まれています。この記事では、算出根拠が明示された官公庁統計と有価証券報告書の数値だけを使い、報酬がどう決まっているのかを整理します。2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。

統計より350万円以上高い水準が開示されている

先に実額を示します。上場しているユーザー系SIerの有価証券報告書の記載です。

項目内容
会社日鉄ソリューションズ株式会社
対象事業年度第46期(2026年3月期)
提出会社の従業員数4,102名
平均年齢39.8歳
平均勤続年数12.6年
平均年間給与9,357,000円
平均年間給与の対前事業年度増減率3.3%

同社は情報サービスの単一事業のためセグメント別の記載を省略しており、平均年間給与には賞与及び基準外賃金が含まれる旨が注記されています。臨時従業員はその総数が従業員数の100分の10未満であるため記載を省略しているとされています。

一方、職種側の統計は以下のとおりです。

職種平均年収平均年齢有効求人倍率
システムエンジニア(受託開発)578.5万円37.1歳2.57
プロジェクトマネージャ(IT)889万円38.3歳2.1

平均年収と平均年齢は令和7年賃金構造基本統計調査、有効求人倍率は令和6年度ハローワーク求人統計にもとづく数値です。

システムエンジニア(受託開発)の578.5万円と比べると、開示された935.7万円は357万円ほど上回ります。平均年齢は39.8歳と37.1歳で大きくは違いません。年齢構成では説明のつかない差です。

勤続12.6年という数字が差を説明する

差の主因は、平均勤続年数にあります。

12.6年という数値は、これまで本メディアで扱ってきた企業と比べて際立って長いものです。参考として、SaaS領域の企業では2.2年から6.7年、AI領域では1.5年から3.0年という水準が開示されています。

勤続年数が長いということは、定期昇給と昇格を重ねた層が組織内に厚く存在するということです。平均年間給与は、その積み上がりを含んだ数値になります。採用によって新しく入った従業員の比率が高い組織では、平均は入社時水準に引き寄せられます。ユーザー系SIerはその逆の構造にあります。

なお同報告書には、平均勤続年数の計算にあたり親会社からの移籍社員は移籍前の勤続期間を通算している旨の注記があります。分社化の経緯を持つこの領域では、この算定方法が数値を押し上げる方向に働きます。

したがって、開示された平均年間給与を「入社直後に得られる水準」と読むのは適切ではありません。転職者が最初に提示される額は、平均より下に位置することが一般的です。

処遇改定の実額が開示されている

この領域の特徴として、人的資本に関する記載が充実している点があります。日鉄ソリューションズの有価証券報告書には、直近3年間の取り組みと結果が具体的に記載されています。

項目記載内容
全社員の平均年間給与直近3年間で65.8万円の増加
一般者の2026年度年収水準2025年度比で平均5.1%程度の増額見込み
同(定期昇給・昇格込み)8.7%程度の増額見込み
初任給直近3年間で修士・学士ともに6万円の引き上げ

一般者とは、基幹職(課長級以上)および上級専門職(係長級)に該当しない非管理職層を指すと同報告書に定義されています。

処遇の決定方針についても、基幹職には役割給制度をベースに役割における成果を重視した評価を行い、労働市場での価値も踏まえて処遇に反映する旨、上級専門職以下には成果行動および成果を評価軸とし複数の評価者による多面的な評価を通じて処遇に反映する旨が記載されています。中期経営計画に掲げる業界トップレベルの報酬水準の早期実現の観点でも継続的に処遇の見直しを行っているとされています。

ここまで具体的な改定率が開示される例は多くありません。転職を検討する際、現時点の水準だけでなく、今後の上がり方を判断する材料になります。

エージェントベストの見解

開示されている平均年間給与935.7万円を、転職時の提示額の目安にすると実態と合いません。この数値は平均勤続12.6年の集団の平均であり、定期昇給と昇格を重ねた層を含みます。中途で入る方が最初に提示されるのは、これより下の水準です。ここで見誤りやすいのは、その差を「評価されていない」と受け取ってしまうことです。この領域の報酬は在籍年数とともに上がる設計になっており、入り口の額より、等級ごとのレンジと昇格の要件を見たほうが実態に近づきます。面談で確認しているのも、提示額そのものではなく、その等級から次に上がるまでの標準年数です。

報酬が動く場面

この領域で提示額が変わる要因は、いくつかに整理できます。

入社時の等級。 役割給制度や資格等級が敷かれているため、レンジは職位に紐づきます。入社後の昇給幅より、入社時にどの等級で評価されるかの影響が大きくなります。

担当するシステムの重要度。 基幹システムのように停止の影響が大きい領域を担う人材は、代替が利きにくくなります。

マネジメントの範囲。 職種統計でもプロジェクトマネージャ(IT)は889万円と、システムエンジニア(受託開発)の578.5万円を上回ります。管理の範囲が広がるほど水準が上がる構造は、この領域でも同様です。

業務知識。 親会社の事業を理解している人材は、要件定義の段階から価値を出せます。異業種から入る場合、この部分は入社後に積むことになります。

外販への関与。 グループ外への販売を強化している会社では、その領域を担える人材の評価が変わる場合があります。競争環境で受注してきた経験は、グループ内案件のみを担当してきた層に対する差別化材料になります。

提示条件を見るときの軸

オファーの段階で整理しておきたい点を挙げます。

等級と、次の等級までの標準年数。前述のとおり、この領域では在籍とともに上がる設計です。入り口の額だけを見ると判断を誤ります。

昇給の実績。開示資料に改定率が記載されている会社であれば、そこから今後の見通しが立ちます。記載がない場合は面談で確認します。

固定給と賞与の内訳。開示される平均年間給与には賞与及び基準外賃金が含まれます。提示額と比較する際は、内訳を揃えて見る必要があります。

なお、企業によって平均年間給与に含まれる範囲の記載は異なります。たとえばサイボウズ株式会社の第29期(2025年12月期)の有価証券報告書では、平均年間給与に賞与、基準外賃金に加えて持株会奨励金を含む旨が注記されています。複数社を横に並べる際は、この注記まで確認する必要があります。

エージェントベストの見解

書類の段階で想定レンジが変わるのは、扱ったシステムの規模と停止時の影響を書けているかどうかです。この領域の職務経歴書で最も多いのは、使用技術と担当工程だけが並んでいるものです。読み手は責任の重さを判断できません。必要なのは、対象システムの利用者数、拠点数、稼働年数、そして止まったときに何が起きるかです。基幹系を扱ってきた方ほど、この情報を書かずに損をしています。守秘に配慮が必要な場合でも、桁数や範囲での表記は可能です。責任の水準が伝わると、提示される等級が変わります。

現職との比較で見落としやすい点

転職の判断では、提示額と現職の年収を並べるだけでは足りません。この領域特有の見落としがあります。

退職金と企業年金の扱いです。長期在籍を前提とする組織では、これらの制度が整備されている場合があります。年収の比較だけでは見えない部分なので、制度の有無と算定方法を確認しておく価値があります。

残業の扱いも確認したい項目です。前掲の職種統計では、システムエンジニア(受託開発)の月間労働時間が159時間、プロジェクトマネージャ(IT)が173時間と示されています。いずれも令和7年賃金構造基本統計調査にもとづく数値で、当該分類全体の平均です。実際の稼働はプロジェクトの局面によって変動します。

そして昇給の速度です。開示資料に改定率が記載されている会社であれば、数年後の水準をある程度見通せます。初年度の提示額が現職と同水準でも、上がり方が違えば数年後には差がつきます。長く在籍する前提の領域では、この差が積み重なります。

まとめ

ユーザー系SIerの年収は、公的統計の職種平均を大きく上回る水準が開示されています。上場企業の例では平均年間給与9,357,000円、平均年齢39.8歳です。システムエンジニア(受託開発)の統計値578.5万円との差は357万円ほどあり、年齢構成では説明がつきません。

差を生んでいるのは平均勤続年数12.6年という構造です。定期昇給と昇格を重ねた層が厚く、平均値がその積み上がりを含みます。中途入社時の提示額は、この平均より下に位置することが一般的です。

この領域は人的資本の開示が充実しており、直近3年間で平均年間給与が65.8万円増加したこと、2026年度に一般者で平均5.1%の増額見込みであることまで記載されている例があります。入り口の額より、等級のレンジと昇格の要件を見ることをおすすめします。

よくある質問

Q. 転職初年度から900万円台を期待できますか。

一般的には難しいと考えたほうが実態に近くなります。開示された平均年間給与は平均勤続12.6年の集団の平均であり、定期昇給と昇格を重ねた層を含みます。提示額は入社時の等級で決まるため、個別に確認する必要があります。

Q. 独立系SIerと比べて年収は高いですか。

会社によって差が大きく、一律には言えません。ただしユーザー系は勤続年数が長い傾向があり、在籍を重ねた層の水準は高くなりやすい構造があります。比較する場合は、平均年齢と平均勤続年数をセットで見ることをおすすめします。

Q. 昇給はどのくらい期待できますか。

会社によります。開示資料に改定率を記載している企業であれば、そこから見通しが立ちます。前掲の例では、直近3年間で全社員の平均年間給与が65.8万円増加し、2026年度は一般者で平均5.1%程度、定期昇給・昇格込みでは8.7%程度の増額見込みと記載されています。ただしこれは同社の開示であり、業界全体の水準を示すものではありません。

Q. 平均年間給与にはどこまで含まれますか。

企業によって記載が異なります。賞与及び基準外賃金を含むとする例が一般的ですが、持株会奨励金まで含めて記載している企業もあります。複数社を比較する際は、注記の文言まで確認する必要があります。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)