SIer(システムインテグレーター)の志望動機の書き方|転職で押さえるべきポイント
「上流工程に携わりたい」が、なぜ材料にならないのか
SIerの志望動機で圧倒的に多いのが、「上流工程に携わりたい」「要件定義から関わりたい」という書き方です。
同業からの転職では、ほぼ全員が書きます。区別がつきません。
さらに、この業界には固有の問題があります。上流と下流を分けているのは、工程の順序ではないという点です。
分けているのは契約
民法第632条は、請負を次のように定めています。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
完成を約束するのは、顧客と直接契約する立場です。二次請け以下は、元請けとの間で同じ構造が繰り返されます。
準委任については、民法第656条が「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」と定めています。
読み手が知りたいこと
契約上のどの位置で、何を決めてきたか。これに答えていない志望動機は、願望として処理されます。
この記事では、志望動機に何を入れれば噛み合うのかを整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。
志望動機に入れる3つの材料
| 材料 | 具体化する内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| 立っていた位置 | 元請けか、二次請け以下か、派遣か | 自分の実務 |
| 決めた場面 | 誰と、何を、どう決めたか | 自分の実務 |
| 制約下の工夫 | 位置による制約のなかで、何をしたか | 自分の実務 |
1つ目を明示することが、この業界では効きます。隠すより、明示したうえで何をしたかを書くほうが伝わります。
2つ目は「関わった」ではなく「決めた」場面です。
3つ目が、実は最も差がつきます。次の節で扱います。
制約のなかでの工夫を、書く
多くの応募者が書かないこと
二次請け以下の立場では、顧客と直接話せません。仕様の背景が分からないまま実装する場面があります。これを制約として受け入れるか、工夫するかで差が出ます。
書き方の例
「二次請けの立場で開発を担当していました。元請け経由でしか顧客と接点がなく、仕様の背景が分からないまま実装する場面がありました。そこで、疑問点を週次でまとめて元請けに照会する運用を作り、手戻りを減らしています」
なぜこれが効くのか
3つのことが同時に伝わります。自分の位置を正確に理解していること、制約を認識していること、そのなかで動いたこと。
位置を隠さない
「大手企業の基幹システム刷新に参画」とだけ書くと、元請けと誤解される可能性があります。後で分かると、印象が悪くなります。 最初から明示するほうが安全です。
派遣の場合
労働者派遣法第40条の2第2項により、派遣可能期間は三年 とされています。3年ごとに客先が変わる経歴は、この制度によるものだと述べれば、自分の意思による離職ではないことが伝わります。
「決めた場面」を、具体で書く
この業界で最も差がつく材料です。
書き方の誤り
「要件定義に参画しました」では、何を決めたか分かりません。
書き方の例
「顧客の営業部門と経理部門で、締め処理のタイミングの要望が対立していました。両者の業務量を実測したうえで、経理側の締めを2営業日前倒しする案を提示し、営業側には入力の代行体制を用意することで合意しています」
なぜこれが効くのか
job tagの「ITコンサルタント」の区分では、必要スキルの最上位が 要件分析5.1 とされています。集める技術ではなく、分析して絞る技術です。
決めた経験がない場合
要件が曖昧なまま実装に入って苦労した経験を書きます。「なぜ固める工程が重要か」を実感として語れると、願望ではなく必然として読まれます。
完成の定義に触れられると強い
民法第632条の請負では、仕事の完成が報酬の前提です。検収の基準をどう決めたかに関わった経験があれば、それを書きます。書ける応募者はほとんどいません。
前職の経験を、どう接続するか
二次請け以下のSIerから
実装と設計の技術を前に出します。接続の要点は、制約下での工夫です。位置を明示したうえで、そのなかで何をしたかを書きます。
元請けSIerから
要件定義とプロジェクト管理を書きます。接続の要点は、技術の裏づけです。管理だけの経歴だと、判断の根拠が弱いと見られます。
派遣・SESから
複数の現場を経験している点を書きます。接続の要点は、業種や業務の違いから何を学んだかです。同じ作業を繰り返しただけだと、幅として評価されません。
ユーザー系SIerから
業務の深い理解を書きます。接続の要点は、多様な顧客への適応です。
事業会社の情報システムから
発注する側の視点を書きます。接続の要点は、作る側の体制と速度への理解です。
Web・SaaS業界から
開発の技術を書きます。接続の要点は、請負という契約への理解です。完成を約束する前提が、自社サービスとは違います。詳しくはITコンサルティングファームの志望動機の書き方もご覧ください。
弱い志望動機と、その直し方
「上流工程に携わりたい」
全員が書きます。直すには、いまの位置で何ができないかを述べます。
「要件定義から関わりたい」
同じく多く見られます。直すには、要件を絞った経験を先に置きます。
「多重下請け構造から抜け出したい」
現状への不満に読まれます。直すには、構造の理解も添えます。
「技術力を高めたい」
学ぶ側の視点です。直すには、既に持っている技術を示します。
「大規模プロジェクトに関わりたい」
規模への憧れです。直すには、規模がもたらす難しさをどう扱うかを書きます。
「安定した企業で働きたい」
環境への期待です。直すには、自分が出せる成果を先に置きます。
エージェントベストの見解
書類で通過率が変わるのは、契約上の位置を明示しているかどうかです。多くの応募者は、「大手企業の基幹システム刷新に参画」とだけ書きます。読み手には、元請けなのか三次請けなのかが分かりません。そして面接で位置が判明したとき、隠していたように受け取られることがあります。最初から「二次請けの立場で」と書いたうえで、その位置での工夫を語るほうが、はるかに印象がよくなります。「元請け経由でしか顧客と接点がなかったため、疑問点を週次でまとめて照会する運用を作った」。この記述は、位置を明示しているからこそ意味を持ちます。位置は変えられませんが、そのなかで何をしたかは自分次第です。読み手が見ているのは、後者です。
職務経歴書に書くこと
職務経歴書 は事実を並べる書類です。この業界では、次を添えると読み手が判断しやすくなります。
- 契約上の位置(元請け、二次請け、派遣)
- 案件の契約の型(請負、準委任、派遣)
- プロジェクトの規模(期間、体制人数、対象の業務範囲)
- 自分が関わった工程と、決めた事項
- 顧客との接点(直接か、間に人が入るか)
- 稼働後の状況(使われているか、問題が出たか)
1つ目と2つ目を書ける応募者は、ほとんどいません。書くだけで区別されます。
書かないこと — 顧客が特定できる記述は避けます。業種と規模の帯までに留めます。
転職理由 は、次に何を積みたいかという整理にします。多重下請けへの不満を中心に置くと、次の職場でも別の不満を持つと読まれます。
応募先ごとに、どこを変えるか
大手元請けSIer — 顧客との折衝と、完成の責任を負う姿勢を前に出します。
ユーザー系SIer — 業務の理解と、長期で関わる姿勢を軸にします。
独立系の中堅SIer — 幅広く担える適性を示します。
特定領域の専門会社 — その領域の深さを前に出します。
SES・派遣中心の会社 — 複数の現場への適応力を書きます。
調べ方 — 公表されている実績に顧客名が出ているかが手がかりになります。元請けであれば、了解を得て実績として公表できることが多くなります。
近い領域は金融ITの志望動機の書き方もあわせてご覧ください。
エージェントベストの見解
面接の終盤で問われるのが、実装に近い作業も発生することへの姿勢です。上流に進みたいという志望で応募しても、入社直後から要件定義だけを担当できるとは限りません。job tagのプログラマーの区分が就業者数389,760人、ITコンサルタントが656,770人という規模であることからも、幅広い職務が含まれることが分かります。ここで「上流だけをやりたい」と答えると、採用は難しくなります。準備としては、実装に近い作業をどう位置づけるかを言語化しておくことです。「稼働の状況を自分で見ないと、次の要件定義の精度が上がらない」という捉え方であれば、避ける対象ではなく必要な工程として語れます。実際、稼働後を見ている人とそうでない人では、要件の見立ての質が変わります。
まとめ
SIerの志望動機について、押さえるべき点を整理します。
- 「上流工程に携わりたい」は全員が書き、契約上の位置も見えない
- 上流と下流を分けているのは工程の順序ではなく、契約上の位置
- 入れる材料は、立っていた位置、決めた場面、制約下の工夫の3つ
- 位置は隠すより明示する。後で分かると印象が悪くなる
- 派遣で3年ごとに客先が変わった経歴は、制度によるものだと説明する
- 完成の定義に関わった経験を書ける応募者は、ほとんどいない
本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。選考で重視される点は会社によって異なりますので、詳細は各社公式サイトでご確認ください。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. 二次請けであることを、書くべきですか。
A. 書くべきです。隠しても面接で判明します。最初から明示したうえで、その位置での工夫を語るほうが印象がよくなります。位置は変えられませんが、そのなかで何をしたかは自分次第です。
Q. 派遣の経歴は、どう書けばよいですか。
A. 労働者派遣法第40条の2により派遣可能期間が三年とされていることに触れ、制度によるものだと述べます。そのうえで、複数の業種や業務から何を学んだかを書くと、幅として評価されます。
Q. 「多重下請け構造から抜け出したい」は書けませんか。
A. そのままだと現状への不満に読まれます。構造がなぜ存在するかの理解も添えたうえで、自分が担いたい役割を書くと、批判ではなく選択として伝わります。
Q. 決めた経験がない場合、どうしますか。
A. 要件が曖昧なまま実装に入って苦労した経験を書きます。「なぜ固める工程が重要か」を実感として語れると、願望ではなく必然として読まれます。
- e-Gov法令検索 民法 第632条(請負)・第656条(準委任)
- e-Gov法令検索 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第40条の2(派遣可能期間の制限)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/プログラマー
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/ITコンサルタント
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。