M&A仲介営業の年収相場|転職で押さえるべきポイント
平均1,134.6万円と、月額28.3万円が同居している
M&A仲介営業の年収について調べると、まず目に入るのは高い金額です。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の「M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント・M&Aアドバイザー」の区分では、平均年収は 1,134.6万円(令和7年賃金構造基本統計調査)とされています。
同じページには、別の数字も載っています。求人賃金(月額)は 28.3万円(令和6年度)です。12倍しても339.6万円で、平均年収との差は約795万円になります。
この差が、この職種の報酬構造をそのまま表しています。募集の時点で提示されるのは固定給、平均年収に含まれているのは成約後の報酬だからです。同じページの他の数値も添えておきます。平均年齢39.4歳、労働時間は月162時間、就業者数は82,920人(令和2年国勢調査)。
この記事では、この差がどう埋まるのか、そして自分の場合にどこまで届きうるのかを見積もる材料を整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の条件は各社公式サイトをご確認ください。
固定給と成功報酬の組み合わせ方
| 型 | 固定給 | 成功報酬 | 向いている状況 |
|---|---|---|---|
| 固定給が厚い型 | 高め | 比率は低い | 成約までの期間を安定して過ごしたい |
| 折衷型 | 中程度 | 中程度 | 未経験から入り、数年で切り替えたい |
| 成功報酬が厚い型 | 低め | 比率は高い | 案件獲得に自信があり、上限を取りにいく |
| 完全歩合に近い型 | 最低限 | 大半 | 既に紹介ルートを持っている |
上に行くほど収入の振れ幅が小さく、下に行くほど大きくなります。未経験から入る場合、上の2つで始めて、実績が積み上がってから下に移る流れが現実的です。
確認しておくこと — 固定給の額、成功報酬の料率、支給のタイミング、そして料率が案件ごとにどう変わるか。この4つを揃えて聞くと、年収の見通しが立ちます。
会社が受け取る手数料の決まり方が、成績の土台になる
見落とされやすいのが、そもそも会社に入る手数料がどう計算されるかという部分です。営業個人の成功報酬は、多くの場合ここから逆算されます。
中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)は、仲介者・FAが契約締結前に説明すべき手数料の項目として、次を挙げています。
成功報酬において採用される報酬率、報酬基準額(譲渡額/純資産/移動総資産等)、最低手数料の額、報酬の発生タイミング(着手金/月額報酬/中間金/成功報酬)等
ここで重要なのが 報酬基準額 です。同じ料率でも、何に掛けるかで金額が変わります。
譲渡額を基準にする場合 — 実際に売買された株式の対価に料率を掛けます。当事者が受け取る金額と連動するため、依頼者から見て分かりやすい形です。
純資産を基準にする場合 — 会社の純資産額に料率を掛けます。譲渡額とは別の数字になります。
移動総資産を基準にする場合 — 譲渡額に負債を加えた金額に料率を掛けます。負債の多い会社では、譲渡額を基準にする場合より大きな金額になります。
つまり、同じ会社を、同じ金額で成約させても、基準の取り方が違えば手数料の総額は変わります。営業としての成績がどう積み上がるかは、ここに左右されます。応募先の基準がどれかは、その会社が公表していれば確認できます。ガイドラインは、手数料の算定基準を自社のホームページ等において公表することが望ましいとしています。
最低手数料が、扱う案件の大きさを決めている
ガイドラインが説明項目に挙げているもう一つが 最低手数料の額 です。これは年収の見通しに直接効いてきます。
最低手数料が設定されていると、小規模な案件でも一定額の手数料が発生します。会社としては小さい案件でも採算が取れる一方、依頼者から見れば、譲渡額に対する負担の割合が大きくなります。
営業から見た意味
最低手数料が高い会社では、小規模な案件が成立しにくくなります。扱う案件の規模が上がるため、1件あたりの報酬は大きくなりますが、成約までの難度も上がります。
最低手数料が低い会社では、小規模な案件も動きます。件数を積み上げやすい一方、1件あたりの報酬は小さくなります。
年収の見え方が変わる
前者は「1件決めれば大きい」型、後者は「件数で積む」型です。どちらが自分に向くかは、案件獲得の得意な領域によって変わります。地域の中小企業に密着してきた方は後者、大型の商談を回してきた方は前者に馴染みやすくなります。
報酬の発生タイミング
着手金、月額報酬、中間金、成功報酬。この4つのどれを採用しているかで、案件が動き始めてから会社に入る資金の流れが変わります。成功報酬だけの設計では、成約するまで一切の収入が発生しません。営業個人の評価も、その構造に引きずられます。
成約までの空白を、何が支えるか
この職種の年収を考えるうえで、平均額より重要なのが期間の問題です。
案件は着手から成約まで長期化します。その間、成功報酬は発生しません。支えるのは固定給と、会社によっては中間金に連動した支給です。
1年目の現実的な見通し
未経験で入った場合、初年度は固定給が収入の大半を占める前提で見積もるのが妥当です。求人賃金の月額28.3万円という数字は、この局面を映していると読めます。
2〜3年目
初成約に届くと、成功報酬が加わります。ここで年収が跳ねる方と、そうでない方に分かれます。案件を継続的に作れているかが差になります。
4年目以降
複数案件を並行できるようになると、平均を超える水準が見えてきます。平均年収1,134.6万円という数字は、この層を含んだ平均です。
見積もりの立て方 — 固定給を基準に、最低限の生活が成り立つかを確認します。そのうえで、成功報酬は上振れとして扱います。逆にすると、成約が遅れたときに苦しくなります。
同じ営業でも、証券外務員とは構造が違う
比較の材料として、隣接する金融営業の数字を置いておきます。job tagの「証券外務員」の区分では、平均年収は 664.5万円(令和7年賃金構造基本統計調査)、有効求人倍率は 2.79(令和6年度)とされています。
M&A側は平均1,134.6万円で有効求人倍率0.57。証券外務員は平均664.5万円で有効求人倍率2.79です。平均年収が高いほうが、募集は少ないという関係が見て取れます。
この対比は、報酬の構造の違いも示しています。証券営業は月次で数字が動きやすく、成果の確認が早い代わりに、1件あたりの報酬の伸びは緩やかです。仲介は成約すれば大きく報われる代わりに、そこまでの期間が長くなります。
どちらが有利かではなく、手応えの周期が違うと捉えるのが実務的です。業界全体の水準はM&A業界の年収、M&Aアドバイザーの年収、隣接するFASアナリストの年収相場もあわせてご覧ください。
エージェントベストの見解
求人票に「年収2,000万円以上可」といった記載がある場合、その数字が誰の実績なのかを確認することをお勧めします。多くは、在籍者のなかで上位に位置する方の実績です。中央値ではありません。確認したいのは3点です。ひとつ、直近1年で成約した人の割合。全員が成約しているのか、一部に偏っているのか。ふたつ、入社1年目の平均的な年収。上振れではなく、標準の水準です。みっつ、成功報酬の料率が案件規模でどう変わるか。小さい案件と大きい案件で料率が違う設計は珍しくありません。この3つを聞くと、提示された上限が自分にとって現実的な数字かどうかが判断できます。答えにくそうにする会社もありますが、それ自体が情報になります。
オファーの段階で確認しておくこと
- 固定給の額と、その内訳 — 基本給とみなし残業代の切り分け
- 成功報酬の料率と、算定の基準 — 会社が受け取る手数料に対してか、譲渡額に対してか
- 報酬の支給時期 — 成約時か、入金確認後か、期末か
- チームで担当した案件の配分 — 単独担当と共同担当で扱いが変わるか
- 中間金に連動した支給の有無 — 成約前に発生する収入があるか
- 試用期間中の条件 — 固定給が本採用後と異なる場合があります
2つ目が、この職種でとくに重要です。会社が受け取る手数料は、報酬基準額(譲渡額/純資産/移動総資産等)と料率、最低手数料の組み合わせで決まります。営業個人の成功報酬がそこからどう計算されるかは、会社ごとに設計が異なります。
6つ目も確認する価値があります。成約までの期間が長い職種では、試用期間中の条件差が実際の手取りに響きます。
エージェントベストの見解
年収の話をするとき、労働時間を切り離して考える方が多くいます。job tagの区分では月162時間とされていますが、これは調査区分全体の数字です。仲介の実務では、経営者との面談が営業時間外に設定されることが珍しくありません。相手が現役の経営者である以上、日中は自社の仕事をしています。夜や休日に時間を取ることになり、その分の稼働は統計に表れにくくなります。年収の水準を判断するときは、時間あたりで一度換算してみることをお勧めします。1,000万円でも、稼働が積み上がっていれば、時間あたりでは前職と変わらないという場合があります。逆に、それを踏まえてもなお選ぶ価値があると判断できるなら、その転職は続きます。数字だけで比べると、入社後に想定と違ったと感じやすくなります。
まとめ
M&A仲介営業の年収相場について、押さえるべき点を整理します。
- job tagの区分では平均1,134.6万円、求人賃金は月額28.3万円。差は成功報酬の部分
- 固定給と成功報酬の組み方が4通りある。未経験は固定給が厚い型から始めるのが現実的
- 会社が受け取る手数料は、報酬基準額(譲渡額/純資産/移動総資産等)と料率で決まる
- 最低手数料の高低が、扱う案件の規模と件数を左右する
- 隣接する証券外務員は平均664.5万円で有効求人倍率2.79。手応えの周期が違う
- オファーでは、料率の算定基準と支給時期を切り分けて確認する
本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。統計の数値は調査区分全体のものであり、特定の企業の実態を示すものではありません。制度の詳細は中小企業庁の公表資料をご確認ください。
よくある質問
Q. 未経験の1年目は、どのくらいの年収になりますか。
A. 固定給が収入の大半を占める前提で見積もるのが妥当です。求人賃金の月額28.3万円という数字は、この局面に近い水準を示しています。成約が出れば上振れしますが、初年度から見込むより、固定給で生活が成り立つかを先に確認するほうが安全です。
Q. 成功報酬の料率は、どのくらいが一般的ですか。
A. 会社ごとに設計が異なり、公開情報から一律の水準を示すことはできません。確認すべきは料率の数字だけでなく、何に対して掛けるかです。会社が受け取る手数料に対してか、譲渡額に対してかで、実際の金額が変わります。
Q. 移動総資産を基準にする会社は、避けたほうがよいですか。
A. 良し悪しの問題ではありません。負債を含めて評価する考え方であり、ガイドラインも報酬基準額の例として挙げています。営業として知っておきたいのは、基準の取り方で手数料の総額が変わるため、自分の成績の積み上がり方も変わるという点です。
Q. 年収1,000万円を超えるには、何年かかりますか。
A. 成約の実績によるため、年数では言い切れません。複数の案件を並行して動かせるようになった段階で見えてくる水準です。入社時の固定給と、成約1件あたりの報酬の目安を聞いておくと、自分の場合の見通しが立てられます。
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント・M&Aアドバイザー
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/証券外務員
- 中小企業庁 中小M&Aガイドライン(第3版)
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。