M&A仲介営業の選考フロー・面接対策|転職で押さえるべきポイント
選考で確かめられるのは、経営者と話せるかどうか
M&A仲介営業の選考には、他の営業職と違う特徴があります。その場で営業をやってみせる工程が入ることです。
面談の形式を模した課題、経営者役を相手にした対話、初回接触の想定でのやりとり。会社によって形は変わりますが、実際に話す様子を見る工程が組み込まれていることが少なくありません。
理由は明確です。この職種で成果を左右するのは案件の獲得であり、その入口は経営者との対話だからです。経歴の説明だけでは、そこができるかどうかが判断できません。
もう一つの特徴は、コンプライアンスに関する質問が出ることです。中小M&Aガイドラインが第3版に改訂され、仲介者の行動に関する記述が拡充されました。業界全体が、進め方の適正さを問われている局面にあります。
この記事では、選考がどう進み、何が見られているのかを整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。選考の内容は会社と時期によって変わりますので、最新の情報は各社公式サイトをご確認ください。
選考は何段階あるか
| 段階 | 会う相手 | 主な確認内容 |
|---|---|---|
| 書類選考 | 採用担当 | 商談の相手の役職、期間、新規開拓の方法 |
| 一次面接 | 現場のメンバー | 営業の型、断られた経験の扱い方 |
| 実技・ロールプレイ | 現場のメンバー | 話し方、聞き出し方、間の取り方 |
| 適性検査 | — | 数的処理、性格傾向 |
| 二次面接 | 部門の責任者 | 成果が出るまでの期間への理解 |
| 最終面接 | 役員クラス | 長く続けられるか、価値観の合致 |
| 条件面談 | 採用担当 | 固定給、成功報酬の料率と支給時期 |
3段階目が、この職種特有の工程です。会社によっては書類の後すぐに実施されることもあります。
適性検査について — 数的処理が含まれる場合があります。財務の知識を問うものではなく、数字への抵抗の有無を見る水準であることが多くなります。
ロールプレイで見られている観点
話す量と聞く量の比率
多くの方が、話しすぎます。仲介の初回接触で必要なのは提案ではなく、相手の状況を引き出すことです。話す量が聞く量を上回っていると、その場で分かります。
踏み込む前の順序
会社を手放す話は、相手にとって重い話題です。いきなり本題に入ると距離が開きます。業績や後継者の話に入る前に、何を置くか。この順序の作り方が見られています。
沈黙への耐性
相手が黙ったとき、埋めようとするか、待てるか。経営者が考え込む場面は実務でも起きます。急いで言葉を足す人は、実務でも同じことをすると見られます。
否定されたときの反応
「うちは売る気はない」と言われた後、どう続けるか。引き下がるのでも食い下がるのでも、その場の判断が見られます。
専門用語の扱い
知っている用語を並べる人がいます。相手は経営者であり、業界用語に馴染みがあるとは限りません。相手の言葉に合わせられるかが見られます。
実際に聞かれること
「前職で、最も長くかかった商談を教えてください」
期間への耐性を確認する質問です。長さだけでなく、その間に何をしていたかを話します。
「断られた後、どうしていましたか」
仲介の実務と直結します。関係を残した具体例があると強くなります。
「相手はどの役職の方でしたか」
決裁者と話してきたかの確認です。役職と、決めさせた内容をセットで答えます。
「成約が半年出なかったら、どう過ごしますか」
現実の構造を理解しているかを見ています。頑張りますという答えだけでは足りません。
「なぜFAではなく仲介なのですか」
業界を調べたかが表れます。双方と契約する構造を踏まえて答えます。
「経営者に、売却を勧めることに抵抗はありませんか」
この職種の本質に触れる質問です。勧めるのではなく選択肢を示す仕事だという理解を示します。
「決算書を読んだ経験はありますか」
なくても不利になるとは限りません。学習中であることを添えます。
コンプライアンスについて聞かれること
近年、この職種の選考で比重が増しているのがこの領域です。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)は、仲介者の行動について具体的な記述を置いています。
利益相反の構造
ガイドラインは、仲介者の場合、譲り渡し側・譲り受け側の双方が依頼者となるため、構造的にいずれかの当事者との間で利益相反のおそれが生じるとしています。そのうえで、利益相反のおそれがあるとして想定される事項について、事前に両当事者に説明を行い、了承を得ておく必要があるとしています。
禁止されている行為
ガイドラインが典型例として挙げているのは、譲り受け側が当初想定していた手数料に追加して手数料を支払う代わりに、仲介者が譲渡額を不当に低額に誘導する、または譲り渡し側の意向に反する形で優先的にマッチングを実施するという行為です。ガイドラインはこれを禁止行為としています。
仲介者が自ら行わないこと
利益相反の防止の観点から、仲介者はバリュエーションやデュー・ディリジェンス(DD)といった、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しないことが求められています。とくにDDについては、仲介者は自ら実施すべきでないとされています。開示資料の整理・作成のサポートやスケジュールの調整・管理といった、調査内容の検討や評価・判断に影響しない範囲での支援に限られます。
面接での問われ方
「双方から手数料を受け取る構造をどう捉えているか」「一方に有利な条件を求められたらどうするか」といった形で聞かれることがあります。中立・公平に接する必要があるという前提を踏まえ、自分で判断せず社内の管理部門に確認するという答え方が適切です。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。
見送りになりやすい人
- 話す量が多すぎる — ロールプレイで最も多い減点要因
- 報酬の質問が早い段階で出る — 続かないと判断されます
- 成約までの期間を軽く見ている — 実態を調べていないと受け取られます
- 仲介とFAの違いを説明できない — 業界の基本を押さえていないと見られます
- 前職の顧客情報を具体的に話す — 秘密保持への意識が疑われます
- 売却を勧める仕事だと思っている — 選択肢を示す立場だという理解がないと映ります
5つ目は、この職種でとくに重く扱われます。仲介の実務は秘密保持の連続です。選考の場で前職の顧客名や具体的な取引条件を出す人は、入社後も同じことをすると判断されます。
仲介会社のタイプ別に、選考の重さが違う
大手の仲介会社 — 選考のプロセスが標準化されています。適性検査とロールプレイが組み込まれ、段階数も多くなります。組織の型に乗れるかが見られます。
中堅・独立系 — 面接の回数は少なめで、現場責任者との相性が結果を左右します。自分でリストを作って開拓した経験が効きます。
金融機関系・証券系 — 組織としての選考手続が整っています。コンプライアンスに関する質問の比重が高くなる傾向があります。
事業承継特化のブティック — 少人数のため、代表との面談が中心になります。その領域への関心と知見が問われます。
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エージェントベストの見解
ロールプレイの準備で最も効くのは、質問を10個用意しておくことです。多くの方は、話す内容を準備して臨みます。しかし見られているのは、相手から何を引き出せるかです。業績の推移、従業員の年齢構成、後継者の有無、取引先との関係、経営者自身の今後。この順序で、答えやすいものから並べておきます。もう一点、最初の3分で本題に入らない設計にしておくことをお勧めします。会社を手放す話は、相手にとって最も重い話題です。距離が縮まる前に切り出すと、その後の会話が続きません。準備としては、業界の話や地域の話から入る導入を2つほど持っておくと安定します。実務でも同じ順序で動くことになるため、この準備はそのまま入社後に使えます。
選考中に確認しておきたいこと
面接は評価される場であると同時に、確認する場でもあります。この職種では、次の点を聞いておくと入社後のずれが小さくなります。
- 直近1年で、このポジションの人が最も時間を使った活動
- 成約までの平均期間
- 1人あたりの担当案件数
- 未経験入社者の初成約までの期間
- 手数料の算定基準を公表しているか
- 専任条項とテール条項の標準的な設定
5つ目と6つ目は、答えにくそうにする会社もあります。ガイドラインは、手数料の算定基準を自社のホームページ等において公表することが望ましいとしています。また、専任条項の契約期間は最長でも6か月から1年以内、テール期間は最長でも2年から3年以内を目安としています。この範囲を大きく外れた設定を標準にしている場合、営業としての進め方にも影響します。
エージェントベストの見解
最終面接で判断が分かれるのは、この仕事の重さをどう受け止めているかという点です。中小企業のM&Aは、経営者にとって人生の判断です。従業員の雇用、取引先との関係、家族の生活。すべてがその判断にかかっています。選考の場で「案件を数多く回したい」という表現をする方がいますが、この職種では慎重に扱われます。件数を追う姿勢が、依頼者の判断を急がせる行動につながりかねないためです。ガイドラインが、譲り渡し側の意向に反する形で優先的にマッチングを実施する行為を禁止行為として挙げていることも、この文脈にあります。伝えるべきは、成果を出す意欲と、判断を急かさない姿勢の両立です。この2つを同時に語れる方は、面接の場で明確に区別されます。
まとめ
M&A仲介営業の選考について、押さえるべき点を整理します。
- ロールプレイなど、その場で営業をやってみせる工程が入ることが多い
- 見られているのは話す力ではなく、引き出す力と待てるかどうか
- 成約までの期間への理解が、繰り返し確認される
- 中小M&Aガイドラインは、仲介者に構造的な利益相反があるとしている
- 追加手数料と引き換えに譲渡額を不当に低額に誘導する行為は禁止行為
- 前職の顧客情報を具体的に話すと、秘密保持への意識が疑われる
選考の進み方や評価の観点は会社と時期によって変わります。詳細は各社公式サイトでご確認ください。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. ロールプレイは、どのくらいの時間ですか。
A. 会社によりますが、10分から20分程度で実施されることが多くなります。長さより、最初の数分の入り方が結果を左右します。本題に急がず、相手の状況を聞く順序を作っておくことをお勧めします。
Q. 財務の知識を問う質問は出ますか。
A. 未経験採用の選考では、深い知識を問う質問は多くありません。決算書を読んだ経験があるか、学習を始めているかを確認される程度が一般的です。知らない場合は、素直に伝えたうえで学習の状況を添えます。
Q. 前職の実績を、どこまで具体的に話してよいですか。
A. 相手の役職、商談の期間、成約の件数までは話せます。顧客名や具体的な取引条件は避けます。秘密保持への意識が見られる職種であり、話しすぎることが不利に働きます。
Q. 「売却を勧めることに抵抗はないか」には、どう答えますか。
A. 勧める仕事ではなく、選択肢を示す仕事だという理解を示します。経営者が判断する材料を揃え、急かさずに伴走する立場だと答えると、この職種の構造を分かっていると伝わります。
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。