M&A仲介営業の転職難易度|転職で押さえるべきポイント
「未経験歓迎」と、募集より求職者が多い状態
M&A仲介営業の求人には「業界未経験歓迎」という言葉がよく並びます。実際、異業種の営業職から入る方が多い職種です。
一方で、公開統計を見ると別の景色が出てきます。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の「M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント・M&Aアドバイザー」の区分では、有効求人倍率は 0.57(令和6年度)とされています。1を下回っており、募集より求職者のほうが多い状態です。
この2つは矛盾しません。入口は開いているが、席の数は多くないという状態を示しているだけです。求人票の言葉が門戸の広さを示す一方、統計は競争の激しさを示しています。
この記事では、この職種の転職難易度を、何で決まるのかという観点から分解します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。
難易度を左右する4つの条件
| 条件 | 難易度が下がる状態 | 難易度が上がる状態 |
|---|---|---|
| 営業の型 | 無形商材、法人、長期の商談 | 有形商材、個人向け、短期の商談 |
| 相手の役職 | 経営者・役員と直接話してきた | 担当者レベルが中心だった |
| 数字の扱い | 決算書を読んで提案していた | 数字は他部署が用意していた |
| 年齢と経験年数 | 20代後半〜30代前半で営業経験5年前後 | 40代以降、または経験が浅い |
2つ目が、この職種でとくに重く見られます。仲介営業の相手は中小企業のオーナー経営者です。会社を手放すかどうかという判断に立ち会うため、決裁者と対等に話してきた経験があるかが問われます。
1つ目も見られます。形のない価値を説明して契約に至らせる経験は、そのまま仲介の仕事に移し替えられます。
3つ目は、あるとかなり有利になります。ただし、なくても入れないわけではありません。入社後の研修で扱う会社が多い領域です。
中小M&Aガイドライン第3版が、入口の意味を変えた
近年、この職種の難易度を語るうえで外せないのが、中小企業庁が公表している 中小M&Aガイドライン です。令和6年8月に第3版へ改訂されました。
第3版では、仲介者・FAが依頼者と契約を結ぶ前に説明すべき事項が拡充されています。そのなかに、次の項目があります。
担当者の保有資格(例えば、公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士、行政書士、司法書士、社会保険労務士、その他会計に関する検定(簿記検定、ビジネス会計検定等)等)、経験年数・成約実績
つまり、担当者本人の経験年数と成約実績を、依頼者に説明すべき事項として明記しているということです。しかも、これらは書面を交付して説明する対象に含まれます。
採用側から見た意味
自社の担当者の経験と実績が、そのまま説明資料に載ります。担当を任せられる人かどうかが、以前より外から見える形になりました。採用の場面で、営業としての推進力に加えて、説明に耐える経歴を持っているかが意識されやすくなっています。
応募する側から見た意味
未経験から入ること自体は妨げられていません。ガイドラインは、担当者の経験・専門的知見を補うためにサポートする者がいる場合、その内容とサポート担当者の資格・経験年数・成約実績も説明することが望ましいとしています。つまり、経験の浅い担当者を体制で支える形が想定されています。
裏を返せば、支える体制がない会社では、未経験者を採る余地が小さくなります。応募先を選ぶときに、育成の体制を確認する意味はここにもあります。
未経験から入る場合に見られていること
断られ続けても動き続けられるか
仲介の案件獲得は、断られる回数が圧倒的に多い活動です。会社を売る予定のない経営者に接触するところから始まるためです。前職で、反応が薄い相手に対して継続的に接点を作った経験があると、この点の説明ができます。
成果が出るまでの時間に耐えられるか
案件は着手から成約まで長期化します。月次で数字が動く営業から来た方が、最も戸惑う部分です。半年から1年以上、成果が確定しない状態に置かれます。前職で長期の商談を回した経験は、そのまま材料になります。
話を引き出せるか
経営者が売却を検討する背景には、後継者の不在、健康の問題、業績の変化といった、簡単には口にしない事情があります。提案より前に、聞き出す力が要ります。
数字を読む姿勢があるか
入社時点で財務の専門知識を求められないことは多いものの、学ぶ姿勢は確認されます。簿記の学習を始めている、決算書を読む研修を受けたといった事実があると、意欲の裏づけになります。
見送りになりやすいパターン
- 年収の話が先に出る — 高い報酬例に反応して応募したことが透けると、続かないと判断されます
- 相手が担当者レベルだった — 決裁者と話してきた経験が語れないと、経営者対応が想像されません
- 短期で数字を作る癖が強い — 成約まで長期化する構造との相性が問われます
- M&Aへの関心が抽象的 — 「企業の成長に関わりたい」だけでは、仲介を選ぶ理由になりません
- 仲介とFAの違いを説明できない — 業界の基本構造を調べていないと受け取られます
- 転職回数が多く、それぞれが短い — 長期の案件を担当し切れるかが懸念されます
5つ目は、事前に整理しておけば避けられる部分です。仲介は売り手と買い手の双方と契約し、双方から手数料を受け取ることが通常です。FAは一方とだけ契約し、その一方から手数料を受け取ります。この違いは、日々の仕事の中身に直結します。
会社のタイプで、入りやすさが変わる
大手の仲介会社 — 採用の枠が比較的大きく、研修の体制も整っています。その分、応募が集中し、選考の倍率は上がります。成果の基準も明確に設定されている場合が多くなります。
中堅・独立系の仲介会社 — 案件量に対して人員が足りていない局面では、入りやすくなります。育成の仕組みは会社差が大きいため、入社後の支援体制を確認する価値があります。
金融機関系・証券系 — 既存の取引基盤を活かした案件が中心です。金融の実務経験が評価されやすくなります。
事業承継特化のブティック — 少人数のため、採用は不定期です。特定の業種や地域に強みがあり、その領域の知見があると有利になります。
隣接領域の難易度はFASアナリストの転職難易度、M&Aアドバイザーに未経験からもあわせてご覧ください。
エージェントベストの見解
書類で見送りになる方の多くは、営業実績を「達成率」と「順位」で書いています。前職の社内基準は、応募先には伝わりません。この職種で読み手が知りたいのは、どういう相手と、どのくらいの期間をかけて、何を決めさせたかです。たとえば「導入決定まで平均8か月の商材を、代表または役員を相手に年間で4件成約させた」という書き方であれば、仲介の仕事と重ねて読めます。達成率120%という数字は、その裏側が見えないため判断材料になりません。もう一点、断られた案件をどう扱ったかを書ける方は多くありません。仲介では、一度断られた経営者と数年後に再び話が動くことがあります。関係を切らずに残した経験があれば、それは実績の数字より強い材料になります。
難易度を下げるためにできること
- 決裁者と話した実績を洗い出す — 相手の役職と、決めさせた内容を具体化します
- 商談の期間を数字で示す — 長期の商談を回した経験は、この職種と直結します
- 簿記の学習を始める — 進行中でも、姿勢の裏づけになります
- 仲介とFAの違いを整理する — 業界の構造を調べたことが伝わります
- 応募先の案件傾向を見る — 業種や地域の偏りから、自分の経験との接点を探します
- 成約までの平均期間を聞く — 面接での質問としても機能します
3つ目は時間がかかるように見えますが、着手していること自体が材料になります。応募の時点で取得済みである必要はありません。
入社後に離れる人が多い時期
難易度を考えるとき、入ることと続けることを分けて見る必要があります。
入社1年以内
案件獲得の活動そのものが合わないと分かる時期です。断られる回数の多さ、成果が数字にならない期間の長さ。この2つに耐えられるかは、実際にやってみないと分かりにくい部分があります。
初成約の前
着手から成約まで長期化するため、最初の成約に届く前に離れる方が一定数います。ここを越えると、仕事の全体像が見えるようになります。
3年目前後
成約を重ねて数字を安定させられる人と、単発で終わる人に分かれます。報酬が成果に連動する設計では、この差がそのまま収入の差になります。
入る前に確認できること — 直近1年でこのポジションの人が最も時間を使った活動、成約までの平均期間、1人あたりの担当案件数。この3つを聞いておくと、入社後のずれが小さくなります。詳しい進み方はM&A仲介営業のキャリアパスで整理しています。
エージェントベストの見解
応募先を選ぶとき、中小M&Aガイドラインへの向き合い方を見ておくことをお勧めします。ガイドラインは、手数料の算定基準を自社のホームページ等で公表することが望ましいとしています。公表している会社と、していない会社があります。これは会社の姿勢が表に出る数少ない材料です。あわせて、専任条項やテール条項をどう設定しているかも確認できると、その会社が依頼者との関係をどう作ろうとしているかが見えます。ガイドラインは、専任条項の契約期間は最長でも6か月から1年以内、テール期間は最長でも2年から3年以内を目安としています。この範囲から大きく外れた設定を標準にしている会社では、営業としての進め方にも影響が出ます。入社後に「そういう会社だったのか」と気づくより、選考の段階で聞いておくほうが安全です。
まとめ
M&A仲介営業の転職難易度について、押さえるべき点を整理します。
- 「未経験歓迎」でも、有効求人倍率は0.57。入口は開いているが席は多くない
- 決裁者と話した経験、長期の商談を回した経験が最も重く見られる
- 中小M&Aガイドライン第3版は、担当者の経験年数・成約実績の説明を求めている
- 未経験を採る余地は、支える体制がある会社に偏る
- 見送りの理由で多いのは、年収の話が先に出ることと、仲介とFAの違いを説明できないこと
- 入ることと続けることは別。成約までの平均期間を事前に確認する
本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。統計の数値は調査区分全体のものであり、特定の企業の実態を示すものではありません。制度の詳細は中小企業庁の公表資料をご確認ください。
よくある質問
Q. 有効求人倍率0.57は、未経験には厳しいという意味ですか。
A. 募集より求職者が多い状態を示しています。ただし、この数字は調査区分全体のもので、仲介営業だけの数字ではありません。未経験の採用は続いており、決裁者と話した経験があるかどうかで結果が分かれます。
Q. 簿記の資格は取ってから応募すべきですか。
A. 取得済みであることを条件にする求人ばかりではありません。学習を始めている事実があれば、姿勢の裏づけとして機能します。応募を先延ばしにするより、並行して進めるほうが現実的です。
Q. 40代からでも転職できますか。
A. 年齢だけで判断されるわけではありません。経営者と直接向き合ってきた経験や、特定の業種への深い理解があれば、材料になります。ただし、若手中心の採用を行う会社もあるため、応募先の選び方が結果を左右します。
Q. 仲介とFA、どちらのほうが入りやすいですか。
A. 一概には言えません。仲介は営業経験を土台に未経験から入る道が比較的開いています。FA・アドバイザリー側は財務や会計の専門性が求められる場面が多くなります。自分の経験がどちらに接続するかで選ぶと、通過率も上がります。
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。