M&Aアドバイザーの年収相場|転職で押さえるべきポイント
同じ区分に、仲介とFAが同居している
M&Aアドバイザーの年収を調べると、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の「M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント・M&Aアドバイザー」の区分に行き当たります。平均年収は 1,134.6万円(令和7年賃金構造基本統計調査)です。
この数字を扱うときに知っておきたいのが、この区分には仲介もFAも含まれているという点です。両者は報酬の決まり方が違います。同じ平均値の裏に、構造の異なる2つの職種が入っています。
仲介は、成約に連動した報酬の比重が高い設計が一般的です。FAは、職位ごとの固定的な水準に、案件の成果が加わる設計が多くなります。前者は個人差が大きく開き、後者は職位で概ね決まります。
同じ区分の他の数値も添えておきます。求人賃金は月額 28.3万円(令和6年度)、平均年齢 39.4歳、労働時間は月 162時間、就業者数 82,920人(令和2年国勢調査)、有効求人倍率 0.57(令和6年度)。
この記事では、FA側の報酬がどう決まるのかを分解します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の条件は各社公式サイトをご確認ください。
職位が、水準の大部分を決めている
| 段階 | 主な役割 | 報酬の決まり方 |
|---|---|---|
| ジュニア | モデル作成、資料作成、情報収集 | 職位の水準がほぼそのまま |
| ミドル | 工程の一部を主導、相手方と直接やりとり | 職位+案件への貢献の評価 |
| シニア | 案件全体を回す、依頼者の窓口 | 職位+成果の反映が大きくなる |
| 案件を取る立場 | 起点を作る、関係を維持する | 持ち込んだ案件の実績が直接効く |
上の3段階までは、職位が変わらなければ大きくは動きません。同じ職位に留まる限り、成果を出しても跳ね方は限定的です。ここが仲介との最大の違いです。
そのため、転職の場面で最も効くのは提示された金額ではなく、どの職位で入るかです。一段違うと、その後数年の水準が変わります。
確認しておくこと — 入社時の職位、次の職位に上がる目安の年数、そして上がらなかった場合の扱い。この3つを聞いておくと、数年後の見通しが立ちます。
リテイナーと成功報酬の比率が、働き方を決める
FAの案件では、会社に入る収入の構造が仲介とは異なります。
リテイナー(月額の顧問料) — 案件が動いている間、定期的に発生します。成立しなくても収入があるため、ファームとしては安定します。
着手金 — 契約の開始時に発生します。
マイルストーン報酬 — 基本合意など、一定の段階に到達した時点で発生します。
成功報酬 — 成立時に発生します。金額の比重が最も大きくなることが一般的です。
この構造が働き方に与える影響
リテイナーの比重が高いファームでは、成立の見込みが薄い案件でも一定期間は継続します。担当者は、動かない案件にも時間を割くことになります。
成功報酬の比重が高いファームでは、見込みの薄い案件を早く切ります。担当者の時間は動く案件に集中しますが、案件が細ると収入が振れます。
応募時に聞ける形にすると — 「1人あたりの同時担当案件数」と「直近1年で成立に至った案件の割合」を聞くと、この構造が推測できます。
案件の規模が、報酬に効いてくる経路
「大型案件を扱うほど年収が上がる」と言われますが、経路は間接的です。
直接には効かない
ジュニアからミドルの段階では、担当した案件の規模が報酬に直結する設計は多くありません。職位の水準が土台にあるためです。1,000億円の案件を担当しても、その年の報酬が倍になるわけではありません。
効いてくるのは3つの経路
- ファーム全体の収益 — 大型案件が多いファームは原資が大きく、職位ごとの水準も高くなります
- 昇進の速度 — 難度の高い案件を完了させた実績は、次の職位への評価材料になります
- 転職時の評価 — 扱った案件の規模と種類は、次のファームでの職位を決める材料になります
3つ目が、中期的には最も効きます。この職種では転職によって職位が上がることが珍しくありません。在籍中の案件が、次の交渉材料になります。
逆に言えば — 目先の年収より、どういう案件に入れるかを優先したほうが、数年後の水準は上がります。案件の質が、後から報酬に変換される構造です。
隣接する金融営業との対比
比較の材料として、job tagの「証券外務員」の区分を置いておきます。平均年収は 664.5万円(令和7年賃金構造基本統計調査)、有効求人倍率は 2.79(令和6年度)です。
M&A側は平均1,134.6万円で有効求人倍率0.57。証券外務員は平均664.5万円で2.79。平均年収が高いほうが、募集の口は狭いという関係が読み取れます。
もう一点、報酬が確定するまでの時間が違います。証券営業は月次で数字が動きます。FAは案件の完了まで成果が確定せず、その間の収入は職位の水準に支えられます。
判断の軸 — 収入の絶対額ではなく、確定までの時間に耐えられるかで選ぶと、入社後のずれが小さくなります。業界全体の水準はM&A業界の年収、M&Aアドバイザーの年収、FASアナリストの年収相場、M&A仲介営業の年収相場もあわせてご覧ください。
エージェントベストの見解
オファーの比較で失敗しやすいのが、提示総額だけを並べてしまうことです。この職種では、総額のうち変動部分がどれだけあるかで、実際に受け取る金額が変わります。固定部分が800万円で変動が最大400万円のオファーと、固定部分が1,000万円で変動が最大200万円のオファーでは、上限は同じ1,200万円です。しかし、案件が細った年には200万円の差が出ます。確認していただきたいのは、直近3年で変動部分が満額支給された割合です。答えにくい質問ですが、この職種では聞いても不自然ではありません。あわせて、変動部分の算定が個人の成果によるのか、ファーム全体の業績によるのかも切り分けてください。後者の場合、自分の働きとは無関係に上下します。
ファームの型で、水準と振れ幅が変わる
外資系投資銀行 — 職位ごとの水準が高く、変動部分の比重も大きくなります。上限は高い一方、業績によって振れます。求められる稼働も重くなります。
国内証券会社 — 給与体系が組織全体の枠組みに沿います。水準は安定し、振れ幅は小さくなります。
FAS(会計系) — 職位の水準が明確に定義されていることが多く、見通しが立てやすくなります。資格保有者への加算がある場合もあります。
独立系ブティック — 幅が大きくなります。少人数のため、案件が当たれば大きく、細ると厳しくなります。持ち込んだ案件への配分が明確な会社もあります。
中小企業向けのFA — 案件単価が小さいぶん、水準は抑えられます。件数で積む構造になります。
オファーで切り分けて聞くこと
- 固定部分と変動部分の額 — 総額ではなく内訳で確認します
- 変動部分の算定根拠 — 個人の成果か、ファームの業績か
- 入社時の職位と、次の職位までの目安年数
- みなし残業代が含まれているか — 稼働が重い職種のため影響が大きくなります
- リテイナーと成功報酬の比率 — 働き方の推測材料になります
- 試用期間中の条件 — 本採用後と異なる場合があります
2つ目が、実際の手取りを最も左右します。ファーム全体の業績に連動する設計では、自分の案件が成立しても支給が伸びないことがあります。逆に、自分の案件が止まっても支給される場合もあります。
3つ目は、この職種で最も重要な確認事項です。職位が水準の大部分を決めるため、入口の一段が数年分の差になります。
エージェントベストの見解
job tagの区分では労働時間が月162時間とされていますが、この数字だけで判断するのは危険です。この区分は仲介もFAも、経営コンサルティングも含む広い括りです。FAの実務では、デュー・ディリジェンスの期間や最終契約の交渉局面に稼働が集中します。年間を通じて一定ではなく、山と谷がはっきり分かれます。年収を評価するときは、繁忙期の稼働がどの程度かを個別に聞くことをお勧めします。同じ1,100万円でも、年間を通じて平準化されている職場と、3か月に集中する職場では、生活への影響がまったく違います。時間あたりで換算してみると、思っていた水準と離れていることがあります。それを踏まえてなお選ぶ価値があると判断できるなら、その転職は続きます。
まとめ
M&Aアドバイザーの年収相場について、押さえるべき点を整理します。
- job tagの区分(平均1,134.6万円)には仲介とFAが同居している。報酬の決まり方は別
- FAは職位が水準の大部分を決める。同じ職位のままでは大きく動かない
- 転職で最も効くのは提示額ではなく、どの職位で入るか
- リテイナーと成功報酬の比率が、案件の切り方と収入の振れ幅を決める
- 案件の規模は直接ではなく、昇進と次の転職を経由して効く
- 隣接する証券外務員は平均664.5万円で有効求人倍率2.79。確定までの時間が違う
本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。統計の数値は調査区分全体のものであり、特定の企業の実態を示すものではありません。詳細は各社公式サイトでご確認ください。
よくある質問
Q. 平均1,134.6万円は、FAだけの数字ですか。
A. 違います。この区分には仲介もFAも含まれます。仲介は成約に連動する比重が高く個人差が大きい一方、FAは職位で概ね決まります。構造の異なる2つを合わせた平均であることを踏まえて読む必要があります。
Q. 入社時の職位は交渉できますか。
A. 選考の過程で、前職の経験がどの職位に相当するかが評価されます。その評価に対して材料を出すことはできます。モデルを組んだ経験、案件を完了まで見た経験、交渉に関与した経験。これらを具体的に示せると、一段上での提示につながることがあります。
Q. 大型案件を扱えば年収は上がりますか。
A. その年の報酬に直結する設計は多くありません。効いてくるのは、昇進の評価と、次の転職時の職位です。中期的には大きく影響しますが、短期の年収を上げる手段としては期待しにくくなります。
Q. 変動部分は、どのくらいの割合が一般的ですか。
A. ファームの型によって幅が大きく、公開情報から一律の水準を示すことはできません。確認すべきは割合の数字より、算定が個人の成果によるのかファームの業績によるのかという点です。ここで実際の受取額が変わります。
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。