M&A仲介のキャリアパス|転職で押さえるべきポイント
進み方を考える前に、在籍期間の実態を見る
M&A仲介のキャリアを設計するとき、最初に置いておくべき数字があります。上場している仲介会社の平均勤続年数です。
日本M&Aセンター(最大人員会社)4.6年、オンデック3.97年、M&Aキャピタルパートナーズ3.30年、ストライク2.5年。いずれも各社の有価証券報告書に記載された数値です。平均年齢は32.4歳から36.63歳の範囲にあります。
この水準には、採用の拡大による押し下げも含まれます。それでも、20年同じ会社にいるのが標準の業界ではないことは読み取れます。キャリアパスを考えるうえで、社内の階段だけでなく、外に出る道も同時に見ておく必要があります。記載は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。
入社後、最初の2年で起きること
1年目前半は、案件を持つ経営者に出会うための活動が中心になります。会社が紹介元を持っている場合と、個人で開拓する場合で内容が変わります。この時期の成果は、成約ではなく接触数と面談数で測られることが一般的です。
1年目後半から2年目にかけて、担当案件を持ちます。譲渡側の意向を整理し、譲受候補を探し、条件を詰める過程に入ります。ここで初めて、財務資料の読み方や契約の実務に触れることになります。
最初の成約に至るまでの期間は人によって幅があります。この期間の過ごし方が、その後の型を決めます。案件を選ばず数を追った人と、対象を絞って深く入った人では、3年目以降の伸び方が変わってきます。
3年目前後に訪れる3つの分岐
分岐1:担当規模を上げるか、件数を増やすか。
同じ手数料体系でも、扱う企業規模が変われば1件あたりの収入が変わります。規模を上げる道は1件の重さが増し、準備の質が問われます。件数を増やす道は活動量で支えます。どちらを選ぶかで、身につく力が変わります。
分岐2:プレイヤーで続けるか、人を持つか。
成約実績が積み上がると、チームを持つ打診が来ることがあります。人を持つと自分の成約は減り、評価の対象がチームの数字に移ります。報酬設計も変わるため、事前に確認が要ります。
分岐3:特定の業種に寄るか、広く扱うか。
製造、建設、医療、IT——業種を絞ると、譲受候補の企業リストと業界特有の論点が蓄積されます。紹介が循環し始めるのもこの道です。一方で、その業種のM&Aが落ち着くと影響を受けます。
社内で上がる道と、その前提
社内のキャリアは、担当者から管理職、そして役員へという階段が基本です。ただし前掲の平均勤続年数を踏まえると、この階段を最後まで上る人は限られます。
会社の人員構成も見ておく価値があります。M&Aキャピタルパートナーズは従業員296名のうちM&Aコンサルタント部門231名、管理部門及び非コンサルタント部門65名。オンデックは57名のうちM&Aアドバイザリー事業40名、全社共通17名という構成です。管理側のポジション数は限られており、全員が管理職に進む設計にはなっていません。
そのため、社内で上がることだけを前提に計画を立てると、行き詰まりやすくなります。担当者として長く成果を出し続ける道が用意されているかは、会社ごとに確認が要る点です。
エージェントベストの見解
数年後に差がつくのは、成約件数ではなく、成約後にどう扱われたかです。仲介の仕事は成約で終わりますが、経営者にとってはそこから新しい生活が始まります。譲渡後の会社がどうなったかを追いかけている方は、次の紹介が来ます。追いかけていない方は、成約のたびに関係が切れ、常に新規の接触から始めることになります。この差は3年目以降に効いてきます。社内で評価されるのは成約の数字ですが、5年後の自分を支えるのは、成約した経営者との関係が残っているかどうかです。
外に出るときの3つの選択肢
選択肢1:FAや投資銀行に移る。
間に立つ立場から、一方の側に立つ立場に移る道です。財務の精査や企業価値評価の比重が上がるため、実務の型が変わります。詳しくはFASのキャリアパスをご覧ください。
選択肢2:事業会社や投資側に移る。
譲受側として案件を検討する立場です。M&A仲介で培った案件の見立てが活きます。事業会社の経営企画やM&A担当、投資ファンドの投資担当が該当します。
選択肢3:独立する。
登録支援機関3,399件のうち個人事業主が793件、専従者0人が762件を占めるという構成は、独立が現実的な選択肢として存在していることを示しています。ただし、案件の紹介元を自分で持てるかどうかが前提になります。会社の看板があって成立していた紹介は、独立後に続くとはかぎりません。
会社のタイプで、進み方が変わる
| タイプ | 進みやすい方向 | 制約になりやすい点 |
|---|---|---|
| 上場の大手仲介 | 社内の階段を上る | 管理職のポジション数 |
| 中堅・専業の仲介 | 担当規模を上げる | 育成の仕組みが薄い |
| 少人数・新設の事業者 | 経営に近い位置に立つ | 会社の資金余力 |
| 士業系・コンサル併営 | 専門領域と掛け合わせる | M&A案件の量 |
| プラットフォーム型 | 仕組み側の職種へ移る | 個別案件の経験が薄い |
各社の状況は日本M&Aセンターの評判、M&Aキャピタルパートナーズの評判、ストライクの評判、オンデックの評判、fundbookの評判、バトンズの評判、山田コンサルティンググループの評判、インテグループの評判をご覧ください。
積み上がる実績と、積み上がらない実績
積み上がるのは、次の4つです。
- 特定業種における譲受候補の理解と、業界特有の論点
- 経営者との関係が、成約後も続いている実績
- 条件が折り合わなかった案件で、何を調整したかの記録
- 財務資料から論点を見つけた経験
積み上がりにくいのは、活動量そのものです。接触件数や面談数は社内の評価には使われますが、外に出るときの材料にはなりにくい項目です。数を語れる人は多く、そこでは差がつきません。
資格と専門知識を、どの順で足すか
M&A仲介では資格が必須とされることは多くありません。ただし、登録支援機関の内訳を見ると、税理士507件、中小企業診断士327件、公認会計士288件、弁護士59件、行政書士90件と、士業が業界の一角を占めています。専門知識が案件を動かす場面があるということです。
実務のうえで効きやすいのは、次の順序です。まず財務諸表を自分で読み、譲渡側の数字のどこに論点があるかを見つけられること。次に、業種特有の許認可や資産の扱いを押さえること。資格の取得は、この2つの後に検討しても遅くありません。
順序を逆にして資格から入ると、知識はあるが案件が取れないという状態になりやすくなります。仲介の評価は、知識量ではなく案件を前に進めた実績で決まるためです。
40代以降の進み方
40代で移ってくる方、あるいは40代で次を考える方も一定数います。この年代では、育成を受ける前提のポジションは少なくなり、自分で案件を取ってこられるかが判断の中心になります。
一方で有利な点もあります。譲渡を検討する経営者は50代から70代が中心で、同年代に近いほうが話が進みやすい場面があるためです。前職で築いた業界内の関係も、そのまま紹介元になり得ます。年齢を不利と捉えるより、どの業種に人脈があるかを棚卸しするほうが実務的です。
未経験から入った場合の時間軸
未経験入社の場合、最初の1年は活動の型を作る期間になります。2年目から3年目にかけて成約の経験を積み、そこから分岐が始まるという流れが一般的です。
前掲の平均勤続年数を踏まえると、多くの人がこの分岐の前後で次の判断をしていることになります。入社時点で5年後の姿を決める必要はありませんが、3年目に判断が来ることは想定しておくとよいでしょう。年収の構造は年収相場、入口の難易度は転職難易度で扱っています。
エージェントベストの見解
この業界の方が次を考えるとき、FASと事業会社のM&A担当を並べて比較しているケースが多く見られます。判断が割れるのは、案件との関わり方です。仲介は入口から出口まで一貫して関わりますが、1件ごとに関係が切れます。事業会社のM&A担当は買った後の統合まで見届けるため、時間軸が長くなります。仲介の経験は「案件を作る力」として評価されますが、「買った後を見た経験」は仲介では積みにくい。この非対称を理解したうえで、どちらの経験を次に足すかを決めると、選択の軸がはっきりします。
まとめ
M&A仲介のキャリアは、1年目の活動、2年目の担当、3年目前後の分岐という流れで進みます。分岐では、担当規模を上げるか件数を増やすか、プレイヤーで続けるか人を持つか、業種を絞るか広く扱うかという3つの選択が生じます。
上場企業でも平均勤続年数は2.5〜4.6年です。社内の階段だけでなく、FA・事業会社・独立という外への道も同時に見ておくほうが、計画は立てやすくなります。積み上がるのは活動量ではなく、業種の理解と成約後も続く関係です。制度や役割の名称は会社ごとに異なりますので、具体的な条件は各社公式サイトでご確認ください。
よくある質問
Q. 独立するには何年くらいの経験が必要ですか。
A. 年数より、案件の紹介元を自分で持てているかが判断基準になります。会社の看板で来ていた紹介と、個人に来ている紹介を区別して考える必要があります。
Q. 管理職になると年収は上がりますか。
A. 会社の報酬設計によります。自分の成約が減る一方でチームの数字が評価対象になるため、設計によっては一時的に下がることもあります。事前の確認が要る項目です。
Q. 仲介の経験は、他の業界で評価されますか。
A. 決裁者と長期間向き合った経験、案件を最初から最後まで動かした経験として評価されます。一方で、買収後の統合に関わった経験は積みにくいため、そこを求める求人では補足の説明が要ります。
- 中小企業庁 M&A支援機関登録制度に係る登録FA及び仲介業者の公表(令和7年度公募2月分・別紙2 登録状況)
- 日本M&Aセンターホールディングス 有価証券報告書 第35期(2026年3月期)
- M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 有価証券報告書 第20期(2025年9月期)
- 株式会社オンデック 有価証券報告書 第18期(2025年11月期)
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。