M&A仲介の志望動機の書き方|転職で押さえるべきポイント
「事業承継の役に立ちたい」の先に何を書くか
M&A仲介の志望動機は、ほとんどが同じ入口から始まります。後継者不在の中小企業を支えたい、経営者の人生の節目に関わりたい、社会的意義のある仕事をしたい——。
この入口は間違っていません。ただし、同じ求人に応募する人の大半が同じ入口から書きます。そして採用側は、この入口の先に何が書かれているかで読み分けています。
本記事では、公開されているデータを使って志望動機に具体性を持たせる手順を扱います。記載は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。
まず、業界の構成を材料にする
中小企業庁のM&A支援機関登録制度では、2026年3月9日時点で3,399件のFA・仲介業者が登録されています。その種類別内訳を見ると、M&A専門業者のうち仲介は803件、FAは377件で、税理士507件、コンサルティング会社626件、中小企業診断士327件、公認会計士288件が続きます。
つまり中小企業のM&Aは、専業の仲介会社だけが担っているわけではありません。顧問税理士や地域の金融機関も入口になっています。設立年代別では2020年代が2,060件と6割を占め、この10年で急速に事業者が増えたことも読み取れます。
この構造を把握しておくと、志望動機に次の一段が加わります。「なぜ専業の仲介会社なのか」「なぜ税理士事務所や金融機関ではないのか」に答えられるようになるためです。
志望動機を3つの問いに答える形で作る
問い1:なぜM&Aなのか。
ここで「社会的意義」に寄せすぎると弱くなります。有効なのは、自分が扱ってきた仕事の性質との連続性を示すことです。決裁者と話してきた、検討期間の長い商材を扱ってきた、相手の事情に踏み込んで提案してきた。こうした経験は、そのまま接続できます。
問い2:なぜ仲介なのか。
仲介は譲渡側と譲受側の双方の間に立ち、FAは一方の側に立ちます。どちらを選ぶかは適性の問題です。双方の落としどころを探る役割に向いていると考える理由を、過去の場面で説明します。
問い3:なぜこの会社なのか。
ここが最も差がつきます。次節で扱います。
「なぜこの会社か」の材料の集め方
上場している仲介会社であれば、有価証券報告書から会社の輪郭が読めます。
M&Aキャピタルパートナーズの第20期(2025年9月期)では、提出会社の従業員296名のうち、M&Aコンサルタント部門が231名、管理部門及び非コンサルタント部門が65名という内訳が開示されています。平均年齢32.4歳、平均勤続年数3.30年、平均年間給与22,658千円です。
オンデックの第18期(2025年11月期)では、従業員57名のうちM&Aアドバイザリー事業40名、全社共通17名。平均年齢36.63歳、平均勤続年数3.97年、平均年間給与7,260千円となっています。
この2社を並べるだけで、規模も年齢構成も報酬水準も違うことが分かります。志望動機では、この違いのどちらを選んだのかを述べます。「少人数で一人あたりの担当範囲が広い環境を選んだ」「案件数の多い環境で経験の密度を上げたい」——どちらも成立しますが、選んだ理由が書かれていることが要点です。
弱い志望動機と、その直し方
「後継者不在の企業を救いたい」
救うという語は、経営者を助けられる側に置く表現です。実際の仲介は、経営者が自分で決めた判断を形にする仕事です。「決断を形にする過程に関わりたい」に置き換えると、立ち位置が正確になります。
「大きな金額の仕事に関わりたい」
金額への関心は自然ですが、それだけでは動機になりません。金額の大きさが何を意味するのか——関わる人数、判断の不可逆性、失敗したときの影響——まで書くと、理解の深さが伝わります。
「成果が報酬に反映される環境で働きたい」
これは書いてよい動機です。ただし、成果が出るまでの期間に触れておく必要があります。成約までの時間が長い商売である以上、その期間をどう過ごすつもりかまで書けると説得力が出ます。
「御社の理念に共感しました」
理念そのものへの言及は差がつきません。理念が事業の設計に表れている箇所——手数料体系、対象とする企業規模、担当の付け方——を1つ挙げ、そこに触れると具体的になります。
エージェントベストの見解
志望動機で最も多い失敗は、事業承継の社会課題を語りきってしまい、自分の話が薄くなることです。統計や社会背景は調べれば誰でも書けるため、そこに紙幅を使うほど他の応募者と区別がつかなくなります。読まれているのは、その課題の前に自分が何をしてきたかです。前職で扱った顧客の規模、決裁までの期間、断られた回数と続けた期間。この3つが数字で入っていると、社会課題への言及が1〜2文でも動機として成立します。順序を逆にするだけで、通過率は変わります。
会社のタイプごとに、軸をずらす
- 上場の大手仲介では、体制の中で成果を出す姿勢が軸になります。日本M&Aセンターの評判、M&Aキャピタルパートナーズの評判、ストライクの評判をご覧ください
- 中堅・専業の仲介では、担当範囲の広さを求める理由が軸です。オンデックの評判、M&Aベストパートナーズの評判、経営承継支援の評判が参考になります
- プラットフォーム型では、仕組みで成約を増やす発想が軸になります。バトンズの評判、fundbookの評判をご覧ください
- 士業系・コンサル併営では、専門領域との掛け合わせが軸です。山田コンサルティンググループの評判、インテグループの評判が該当します
例文の骨子
完成文の丸写しは避けてください。骨子のみ示します。
- 現職で担当した顧客の規模と、意思決定までにかかった期間を1文で書く
- その中で、相手が決めきれなかった案件を1つ挙げ、そのとき自分が何をしたかを書く
- 事業承継の課題に触れる。ここは2文以内にとどめる
- 仲介とFAのうち仲介を選んだ理由を、自分の適性の言葉で書く
- 応募先の体制について、公開情報から読み取った点を1つ挙げ、選んだ理由に接続する
3を短くするのが要点です。多くの応募者がここを厚く書くため、短いほうがかえって目立ちます。
書いた志望動機を、口頭で話すときの注意
書類で通った志望動機が、面接で崩れることがあります。文章では成立していた構成が、口頭では順序を保てないためです。
対策は2つあります。ひとつは、最初の1文を決めておくこと。「前職で扱っていたのは年商◯億円規模の企業で、決裁までに平均◯か月かかりました」のように、事実から入ると話が安定します。志望理由から入ると抽象的になりやすくなります。
もうひとつは、深掘りされる箇所を想定しておくことです。志望動機の中で最も具体的な部分——断られた案件、決めきれなかった顧客——が、そのまま次の質問になります。そこを2分程度で話せるように整理しておくと、面接全体の印象が変わります。
逆に準備が要らないのは、業界の統計です。数字を暗記して話しても、評価にはつながりません。
未経験・異業種から書くとき
法人営業の経験がある方は、扱った商材ではなく相手の役職と検討期間で語り直します。個人向け営業からの応募でも、経営者に近い顧客層を扱っていたなら接続できます。
士業や金融機関の出身であれば、専門知識は前提として置き、そのうえで「なぜ助言する側から間に立つ側に移るのか」を書く必要があります。ここを書かないと、専門性を活かしたいという説明だけが残り、仲介を選んだ理由が抜けてしまいます。難易度の全体像は転職難易度を、入社後の進み方はキャリアパスをご覧ください。
エージェントベストの見解
この業界を検討する方は、FASと、事業承継に力を入れる地域金融機関のポジションを併願しているケースが多く見られます。判断が割れるのは、報酬の受け取り方と時間軸です。仲介は成約に連動する報酬の比重が大きく、成果が出るまでの期間は不安定になります。金融機関側は安定する代わり、案件を最後まで担当できるとはかぎりません。志望動機を書き分けるときは、この違いを避けずに、自分がどちらの不確実性を引き受けたいのかまで書くほうが、結果として一貫します。
まとめ
M&A仲介の志望動機は、事業承継の社会課題を語る部分を短くし、自分の経験と会社の選択理由に紙幅を割ると通りやすくなります。登録支援機関3,399件のうち仲介専業は803件で、税理士や金融機関も入口になっているという構造を知っておくと、「なぜ専業の仲介会社か」に答えられます。
会社ごとの違いは有価証券報告書の従業員内訳から読み取れます。M&Aコンサルタント部門が何名か、全社で何名かを見るだけでも、志望動機に具体性が加わります。評価の重心は会社ごとに異なりますので、最新の募集要項は各社公式サイトでご確認ください。
よくある質問
Q. 前職の営業成績が突出していない場合、何を書けばよいですか。
A. 順位や達成率よりも、検討期間の長い案件をどう進めたかの記述が材料になります。成約に至らなかった案件について書いても構いません。
Q. 社会的意義に触れないほうがよいのでしょうか。
A. 触れて構いません。分量の問題です。全体の2割を超えると、調べた情報の要約に見えやすくなります。
Q. 複数の仲介会社に応募する場合、書き分けは必要ですか。
A. 「なぜM&Aか」「なぜ仲介か」は共通で構いません。「なぜこの会社か」は、規模と体制が会社ごとに大きく違うため、書き分けが要ります。
- 中小企業庁 M&A支援機関登録制度に係る登録FA及び仲介業者の公表(令和7年度公募2月分・別紙2 登録状況)
- M&Aキャピタルパートナーズ株式会社 有価証券報告書 第20期(2025年9月期)
- 株式会社オンデック 有価証券報告書 第18期(2025年11月期)
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。