FAS(財務アドバイザリー)のキャリアパス|転職で押さえるべきポイント
在籍期間の前提を置いてから、階段を考える
FASのキャリアを設計するとき、最初に押さえておくべき数字があります。厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースのオープンデータ(学術研究、専門・技術サービス業/2026年8月11日更新)に、各法人が公表している平均継続勤務年数です。
合同会社デロイト トーマツは雇用管理区分CSで男性2.5年・女性2.6年、EYストラテジー・アンド・コンサルティングは男性3.1年・女性2.9年、KPMGコンサルティングの専門職は男性3.1年・女性2.9年。いずれも2〜3年台です。法人の事業範囲は同一ではなく、採用拡大による押し下げも含まれますが、長期在籍が標準の組織ではないことは読み取れます。
つまりFASのキャリアは、社内の階段だけで完結しません。外に出る道を同時に見ておく必要があります。記載は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。
等級で進む組織の、最初の3年
FASは等級で役割が定義される組織です。名称は法人により異なりますが、アナリスト、コンサルタント、マネージャー、シニアマネージャー、パートナーといった階層が置かれます。
1年目は、資料の突合と分析の実務が中心になります。財務デューデリジェンスであれば、決算資料から論点になりそうな項目を洗い出し、質問リストを作る工程です。交渉の場に立つことは多くありません。
2年目から3年目にかけて、担当する範囲が工程から論点に変わります。指示された作業をこなす立場から、この論点は深く見る・この論点は切る、という判断に関わる立場へ移ります。
この切り替えが、その後の伸びを決めます。作業の速度と正確さで評価される段階にとどまり続けると、次の等級に上がりにくくなります。上の段で問われるのは網羅性ではなく、どこを見ないかの判断だからです。
3年目前後に訪れる3つの分岐
分岐1:領域を深めるか、広げるか。
財務デューデリジェンスを続けて専門性を高める道と、企業価値評価や統合支援に横展開する道があります。法人の中で領域が区分として分かれていることは、PwCアドバイザリー合同会社が雇用管理区分を「Finance Initiative」「Strategy Initiative」に分けて公表していることからも読み取れます。区分をまたぐ異動が容易かどうかは、法人によって差があります。
分岐2:分析側に残るか、案件を回す側に出るか。
分析の質で立つ道と、依頼者との対話と案件の進行を担う道です。後者に進むと、数字を作る時間は減り、判断を伝える時間が増えます。
分岐3:法人に残るか、外に出るか。
前掲の在籍年数を踏まえると、多くの人がこの時期に一度は検討します。外に出る選択肢は次節で扱います。
外に出るときの4つの選択肢
選択肢1:事業会社のM&A部門・経営企画に移る。
買い手側で継続的に案件に関わる立場です。FASでは扱いにくい「買った後」を見届けられる点が、経験の幅として加わります。
選択肢2:投資ファンドに移る。
自ら投資判断を行う側です。デューデリジェンスの経験がそのまま接続しますが、投資の成否に責任を持つ点が変わります。
選択肢3:M&A仲介やFA専業に移る。
案件を作る側に近づく道です。中小企業庁のM&A支援機関登録制度では、M&A専門業者のFAが377件、仲介が803件と登録されています。案件獲得の比重が上がる点は事前に理解しておく必要があります。詳しくはM&A仲介のキャリアパスをご覧ください。
選択肢4:独立・小規模事務所を構える。
同登録制度では公認会計士が288件、税理士が507件登録されており、士業として独立してM&A支援に関わる形も現実に存在します。ただし案件の紹介元を自分で持てるかが前提になります。
エージェントベストの見解
数年後に差がつくのは、担当した案件の数ではなく、報告書に自分の判断が残っているかどうかです。FASの成果物は複数人で作るため、どこまでが自分の仕事だったかが後から見えにくくなります。次の選考で問われるのは、その報告書のどの論点を自分が見つけ、どの論点を切る判断をしたかです。ここを説明できる方は、案件数が少なくても評価されます。逆に、大型案件に多数関わっていても「チームの一員として担当しました」としか言えない方は、規模の割に評価が伸びません。案件ごとに、自分が決めた1点をメモに残しておくことをおすすめします。
会計士資格の位置づけ
FASでは会計士資格が必須とはかぎりませんが、キャリアの中盤以降で意味を持つ場面があります。
公認会計士・監査審査会が公表した令和7年公認会計士試験の結果では、最終合格者1,636人のうち「学生」及び「専修学校・各種学校受講生」が999人(61.1%)を占め、「会社員」は89人(5.4%)。合格者の平均年齢は24.6歳です。働きながら取得する人は年間89人という規模にとどまります。
この数字が示すのは、入社後に働きながら資格を取る道が、現実には狭いということです。資格を前提としたキャリアを描くのであれば、入社前の段階で判断しておくほうが無理がありません。資格がない場合は、特定領域の実務の深さと、業種への理解で立つ設計に切り替えるほうが実務的です。
法人のタイプで、進み方が変わる
| タイプ | 進みやすい方向 | 制約になりやすい点 |
|---|---|---|
| Big4系FAS | 等級の階段を上る | 領域をまたぐ異動 |
| 独立系アドバイザリー | 案件を一貫して担当する | 組織の規模 |
| 再生・事業支援系 | 事業側の経験を積む | 常駐案件の負荷 |
| 証券会社系 | 大型案件・資本市場へ | 部門の枠 |
| 事業会社のM&A部門 | 統合まで見届ける | 案件数の頻度 |
各法人の状況はデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーの評判、KPMG FASの評判、PwCアドバイザリーの評判、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの評判、GCAの評判、フロンティア・マネジメントの評判、山田コンサルティンググループの評判をご覧ください。
積み上がる実績と、積み上がらない実績
積み上がるのは次の4つです。
- 自分が見つけた論点と、それが取引条件に与えた影響
- 切ると判断した論点と、その理由
- 特定業種の会計・事業構造への理解
- 依頼者と直接やりとりした経験
積み上がりにくいのは、担当した案件の件数と金額規模です。件数を語れる人は多く、そこでは差がつきません。金額規模は本人の関与の深さと必ずしも一致しないため、読み手も割り引いて受け取ります。
業種の理解を、どこで積むか
等級が上がるにつれて効いてくるのが、業種への理解です。財務デューデリジェンスの手続そのものは業種を問わず共通ですが、どこにリスクが潜むかは業種ごとに違います。
製造業なら在庫と設備の評価、小売なら店舗ごとの採算と賃借契約、ソフトウェアなら収益認識の時期と開発費の扱い、医療・介護なら報酬制度の改定リスク。こうした勘所は、案件を重ねる中でしか身につきません。
キャリアの中盤で差がつくのは、この蓄積が特定の業種に集まっているかどうかです。毎回違う業種を担当していると、手続には習熟しても、初見で論点を見つける力が育ちにくくなります。担当案件に選択の余地があるなら、業種を意識して寄せていくほうが、数年後の市場価値につながります。
30代後半以降の進み方
30代後半になると、等級が上がるか、外に出るかの判断が近づきます。等級が上がる道では、案件の獲得や部門の運営に関わる比重が増え、分析の実務からは離れていきます。
外に出る場合、この年代では事業会社のM&A部門や経営企画が有力な選択肢になります。買い手側は、デューデリジェンスの実務を理解している人を継続的に必要としているためです。年収の構造は年収相場、入口の難易度は転職難易度で扱っています。
エージェントベストの見解
FASの方が次を考えるとき、事業会社のM&A部門と投資ファンドを並べて比較しているケースが多く見られます。判断が割れるのは、責任の持ち方です。事業会社は買った後の統合まで見届けるため、自分が出した判断の結果を数年かけて確認することになります。投資ファンドは投資の成否そのものを負います。どちらもFASより責任の期間が長い点は共通しており、そこが助言する仕事との最大の違いです。助言の立場に物足りなさを感じているなら移る価値がありますが、期限で区切られた仕事の心地よさを手放すことになる点も、あわせて考えておくとよいでしょう。
まとめ
FASのキャリアは、1年目の分析実務、2〜3年目の論点判断への移行、3年目前後の分岐という流れで進みます。分岐では、領域を深めるか広げるか、分析側に残るか案件を回す側に出るか、法人に残るか外に出るかという選択が生じます。
各法人が公表している平均継続勤務年数は2〜3年台であり、社内の階段だけを前提にした設計は現実的ではありません。積み上がるのは案件数ではなく、自分が見つけた論点と切った論点です。制度や等級の名称は法人ごとに異なりますので、具体的な条件は各法人の公式サイトでご確認ください。
よくある質問
Q. 何年目で転職を考える人が多いですか。
A. 公表されている平均継続勤務年数が2〜3年台であることから、3年目前後に一度検討する方が多いと考えられます。ただし採用拡大の影響も含まれる数値のため、そのまま在籍期間の目安とは言えません。
Q. 会計士資格は途中で取れますか。
A. 制度上は可能ですが、合格者のうち会社員は年間89人という規模です。働きながらの取得は現実には狭い道であるため、資格を前提にする場合は入社前の判断をおすすめします。
Q. 領域を途中で変えられますか。
A. 法人によります。雇用管理区分が分かれている法人では、区分をまたぐ異動の運用を選考中に確認しておくとよいでしょう。
- 厚生労働省 女性の活躍推進企業データベース オープンデータ(学術研究、専門・技術サービス業/2026年8月11日更新)
- 公認会計士・監査審査会 令和7年公認会計士試験の合格発表の概要について
- 中小企業庁 M&A支援機関登録制度に係る登録FA及び仲介業者の公表(令和7年度公募2月分・別紙2 登録状況)
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。