FAS(財務アドバイザリー)の志望動機の書き方|転職で押さえるべきポイント

FAS(財務アドバイザリー) 志望動機の書き方 更新日 2026/8/11

志望動機は、志望領域を決めてから書く

FASの志望動機で最も多い書き出しは、「M&Aという企業の転換点に関わりたい」という形です。悪くはありませんが、これだけでは選考が進みません。FASは領域が細かく分かれており、どこを志望するかが決まっていないと、配属先を想定できないためです。

主な領域は、財務デューデリジェンス、企業価値評価、M&Aアドバイザリー(FA業務)、統合支援(PMI)、事業再生支援などに分かれます。この分化は組織の設計にも表れています。厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースのオープンデータを見ると、PwCアドバイザリー合同会社は雇用管理区分が**「Finance Initiative」「Strategy Initiative」**に分けて公表されており、財務系と戦略系が別区分として管理されていることが読み取れます。

本記事では、領域を決めるところから志望動機を組み立てる手順を扱います。記載は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。

「なぜ仲介ではなくFAか」に先に答える

FASの選考で高い確率で問われるのが、仲介との違いです。中小企業庁のM&A支援機関登録制度でも、M&A専門業者はFA377件、仲介803件と別の類型に分けられています。

違いは立ち位置です。FAは一方の側に立ち、その依頼者の利益のために交渉します。仲介は双方の間に立って合意を作ります。この違いに対する答えを、報酬体系や案件規模で説明すると浅く見えます。

有効なのは、自分の適性で答えることです。「双方の落としどころを探るより、一方の側に立って条件を詰める仕事に向いている」と考える理由を、過去の場面で説明します。前職で誰かの代理として交渉した経験、社内で自部門の立場を通した経験などが材料になります。

志望動機を3層に分けて置く

第1層:なぜ財務の側から関わるのか。

事業を動かす側ではなく、数字で判断を支える側を選ぶ理由です。ここで「分析が好き」と書くと弱くなります。判断に責任を持った経験——融資の可否、投資の稟議、撤退の判断——に接続すると、立場の選択として読まれます。

第2層:なぜこの領域か。

財務デューデリジェンスなのか、企業価値評価なのか、統合支援なのか。自分の経験と最も近い領域を選び、その理由を書きます。複数書くと決めていない人に見えます。

第3層:なぜこの法人か。

Big4系か独立系か、どの領域に厚みがあるか。ここは調べた範囲で構いませんが、書かれていないと汎用の志望動機に見えます。

資格がない場合、どう書くか

公認会計士・監査審査会が公表した令和7年公認会計士試験の結果では、最終合格者1,636人のうち職業別で「学生」及び「専修学校・各種学校受講生」が999人(61.1%)を占め、「会社員」は89人(5.4%)でした。合格者の平均年齢は24.6歳です。

つまり、働きながら会計士資格を取ってFASに移る経路は、年間89人という規模でしか存在しません。中途採用がその中だけで完結しているはずはなく、資格を持たない応募者の枠は確かにあります。

志望動機では、資格がないことを弁明する必要はありません。書くべきは、資格が担保する知識のうち、自分が実務で使ってきた部分です。連結の考え方、収益認識、運転資本の増減。どれか1つでも、業務で扱った文脈とともに書けていれば十分に伝わります。「取得を目指しています」だけで終える書き方のほうが、かえって現時点の実力が伝わりません。

弱い志望動機と、その直し方

「企業の転換点に立ち会いたい」

立ち会うという語は、観察する側の表現です。FASは判断材料を作る側です。「判断材料を作る側に回りたい」に置き換えると、役割が正確になります。

「専門性を高めたい」

どの専門性かが書かれていないと、成長意欲の表明で終わります。前節の領域のどれかを名指しすると具体化します。

「若いうちから裁量のある環境で働きたい」

FASの裁量は、期限と責任とセットです。裁量に触れるなら、期限の中で結論を出した経験を併記します。

「グローバルな案件に関わりたい」

案件構成は部門によって差があります。この動機を書くなら、応募先のどの部門がクロスボーダー案件を扱っているかまで調べたうえで書く必要があります。

エージェントベストの見解

志望動機で最も多い失敗は、監査法人やコンサルティングファームとの違いを整理しないまま書いてしまうことです。FASは会計の知識を使いますが、監査のように正しさを検証する仕事ではありません。買う側または売る側の判断のために、数字のどこにリスクがあるかを示す仕事です。この違いを踏まえずに「会計知識を活かしたい」と書くと、監査法人の志望動機と見分けがつかなくなります。書き分けの要点は、検証と助言のどちらを選ぶかです。過去に、正しさより判断の役に立つことを優先した場面があれば、それが最も強い材料になります。

法人のタイプごとに、軸をずらす

例文の骨子

丸写しできる完成文は載せません。骨子のみ示します。

  1. 現職で数字に責任を持った場面を1つ挙げ、何を判断したかを書く
  2. その判断で、前提が変わって結論が動いた経験に触れる
  3. 仲介ではなくFAを選ぶ理由を、自分の適性の言葉で書く
  4. 志望する領域を1つ名指しし、1の経験との重なりを述べる
  5. 資格や知識の不足がある場合は、現時点で使える部分を具体的に書く

2を入れる応募者は多くありません。前提が動いて結論が変わった経験は、FASの実務そのものに近く、読み手の側で仕事の場面が想像できます。

志望領域の決め方

領域を1つ選ぶよう述べてきましたが、どう選ぶかに迷う方も多い部分です。判断の材料は、前職で自分が扱っていた時間軸に置くと決めやすくなります。

好みではなく、実際に成果が出た仕事から逆算するのが要点です。志望動機に書いたとき、経験と領域が自然につながるためです。

未経験・異業種から書くとき

銀行の融資審査、事業会社の経理・財務・経営企画、証券会社の引受業務からの応募が現実的な経路です。この場合、志望動機の第1層で「なぜ社内から社外の助言側に移るのか」に答える必要があります。

社内では自社の1件を深く見ますが、FASでは複数の会社を短期間で見ます。この違いを理解したうえで移りたいと書けていると、実務のイメージがある応募者として読まれます。難易度は転職難易度、入社後の進み方はキャリアパスで扱っています。

エージェントベストの見解

書類で通過率を分けているのは、扱った金額の大きさではなく、数字を疑った記述があるかどうかです。職務経歴書に「決算業務を担当」「予算策定に従事」と書かれているだけでは、この業界では差がつきません。読み手が見たいのは、提出された数値をそのまま受け取らなかった場面です。在庫の評価に違和感を持って調べた、売上計上の時期を確認した、子会社からの報告数値の根拠を遡った。こうした記述が1つ入っているだけで、デューデリジェンスの現場に置いたときの姿が読み手に伝わります。

まとめ

FASの志望動機は、志望領域を決めるところから始めます。領域が細分化されており、決まっていないと配属を想定できないためです。仲介との違いには、報酬や案件規模ではなく自分の適性で答えます。

資格がない場合も、弁明ではなく実務で使ってきた会計知識を具体的に書けば伝わります。会計士試験の合格者のうち会社員は年間89人という規模であり、中途採用が資格保有者だけで成り立っているわけではありません。評価の重心は法人ごとに異なりますので、最新の募集要項は各社公式サイトでご確認ください。

よくある質問

Q. 志望領域を1つに絞ると、選択肢が狭まりませんか。

A. 面接で他領域への関心を聞かれた場合に答えれば足ります。書類段階で複数を並べると、決めていない印象が先に立ちます。

Q. 監査法人からの応募では、何を書けばよいですか。

A. 検証する仕事から助言する仕事に移る理由が中心になります。監査の過程で、正しさの確認を超えて経営判断に関わりたいと感じた場面があれば、それが最も自然な材料です。

Q. 資格取得の予定は書くべきですか。

A. 書いて構いませんが、それを主軸に置かないほうが伝わります。現時点で何ができるかを先に書き、予定は補足として置く順序が読まれやすくなります。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)