FAS(財務アドバイザリー)の年収相場|転職で押さえるべきポイント

FAS(財務アドバイザリー) 年収相場 更新日 2026/8/11

平均年収が公表されていない業界をどう読むか

FASの年収を調べようとすると、確かな数字にたどり着きません。理由は単純で、Big4系のFASも独立系アドバイザリーの多くも非上場だからです。有価証券報告書がないため、平均年間給与の開示義務がありません。

転職メディアには具体的な金額が並んでいますが、出典が示されていないものが大半です。本記事では、公的な統計と、各法人が自ら国のデータベースに公表している数値だけを使って、相場の輪郭と労働の実態を組み立てます。記載は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。

公的統計が示す隣接区分の水準

厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の「公認会計士」区分では、令和7年賃金構造基本統計調査の結果を加工した数値として、賃金(年収)810.8万円、平均年齢42.2歳、労働時間150時間が示されています。ハローワーク求人統計データでは求人賃金(月額)40.9万円、有効求人倍率0.32、就業者数は21,850人です。

この数値はFASそのものの統計ではありません。監査法人に所属する会計士も、独立開業している会計士も含まれます。それでも、いくつか読み取れることがあります。

労働時間150時間は、専門職の区分としては短い部類です。年収810.8万円を単純に時間で割った時給は、他のIT・コンサル系区分を上回ります。つまりこの職業区分は、長時間労働で年収を積み上げる構造ではありません。求人賃金40.9万円が高い一方で有効求人倍率が0.32と低いのは、求人1件あたりに複数の応募が集まることを示しています。

法人が自ら公表している労働の実態

年収の開示はなくとも、労働時間と勤続年数は公表されています。厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースのオープンデータ(学術研究、専門・技術サービス業/2026年8月11日更新)から、Big4系の法人が公表している数値を挙げます。

法人(登録名)企業規模平均残業時間(一月あたり)平均継続勤務年数管理職に占める女性の割合
合同会社デロイト トーマツ1001〜5000人15.4時間(対象正社員)男2.5年/女2.6年(区分CS)15.2%(80人/528人)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング1001〜5000人14.1時間(基幹的な職種)男3.1年/女2.9年16.0%
KPMGコンサルティング1001〜5000人2.7時間(専門職)男3.1年/女2.9年(専門職)19.7%
PwCアドバイザリー合同会社501〜1000人7.3時間(Finance Initiative)/6.1時間(Strategy Initiative)17.3%

法人の事業範囲は同じではなく、アドバイザリー専業の法人とコンサルティングを含む法人が混在しています。また、この残業時間は裁量労働制の適用者等が算出の対象から除かれる定義であり、実際の稼働時間とは異なります。単純な優劣の比較には使えません。

それでも重要な事実が読めます。平均継続勤務年数がいずれも2〜3年台です。これは離職率の指標ではなく、採用を拡大した結果として新しい在籍者が平均を押し下げている面もあります。ただし、10年20年在籍することを前提にした年収設計ではないという点は共通しています。

年収を決めている4つの要素

1. 等級。 FASの報酬は等級で決まる部分が大きく、アナリスト、コンサルタント、マネージャー、シニアマネージャー、パートナーといった階層に対応します。同じ等級であれば、個人の成果による幅は仲介ほど大きくなりません。

2. 等級が上がる速度。 年収の伸びは、等級が上がる速度でほぼ決まります。前掲の平均継続勤務年数を踏まえると、数年で複数の段を上がる人と、同じ段にとどまる人で差が開きます。

3. 領域。 財務デューデリジェンス、企業価値評価、統合支援、事業再生では、案件のフィー構造が異なります。法人の中でも区分が分かれていることは、PwCアドバイザリー合同会社が「Finance Initiative」「Strategy Initiative」を別の雇用管理区分として公表していることからも読み取れます。

4. 法人の規模と系列。 Big4系は等級と報酬の対応が制度化されている一方、独立系は案件への貢献が反映されやすい設計を採ることがあります。

エージェントベストの見解

FASの年収を検討するとき、転職メディアに並ぶ「アナリスト600万円、マネージャー1,200万円」といった金額は、出典が示されていないものがほとんどです。そのまま前提にすると、オファーが出た段階で認識のずれが生じます。確認すべきは金額そのものではなく、提示された等級が既存の在籍者の中でどの位置にあるかです。同じ等級でも、その等級の下限に置かれるのか中位に置かれるのかで、次の昇格までの期間が変わります。オファー面談では「この等級の在籍年数の中央値」と「次の等級に上がる評価の基準」を聞いてください。金額の交渉より、この2点のほうが3年後の水準を左右します。

仲介との違いは、収入の形に表れる

同じM&Aを扱う仕事でも、報酬の形が異なります。M&Aキャピタルパートナーズの第20期(2025年9月期)有価証券報告書では、提出会社の従業員296名(M&Aコンサルタント部門231名、管理部門及び非コンサルタント部門65名)に対し、平均年齢32.4歳、平均勤続年数3.30年、平均年間給与22,658千円と開示されています。

仲介側は成約に連動する報酬の比重が大きく、当たった年と外れた年の差が大きくなります。FASは案件のフィーが工数に紐づくため、個人の収入の振れ幅は相対的に小さくなります。期待値の高さだけで比べると、この違いが抜けます。詳しくはM&A仲介の年収相場をご覧ください。

法人のタイプで、報酬設計が変わる

タイプ報酬設計の傾向確認しておく点
Big4系FAS等級と報酬が制度で対応等級内の位置と昇格基準
独立系アドバイザリー案件貢献が反映されやすい変動部分の算定方法
再生・事業支援系常駐案件の手当が入る場合がある稼働地と手当の条件
証券会社系賞与の比重が高い賞与の決定要素
事業会社のM&A部門社内の給与テーブルに乗る職種手当の有無

各法人の状況はデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーの評判KPMG FASの評判PwCアドバイザリーの評判EYストラテジー・アンド・コンサルティングの評判GCAの評判フロンティア・マネジメントの評判をご覧ください。

求人票の年収レンジを読むときの観点

FASの求人票には、等級に対応した年収レンジが示されることが一般的です。仲介のように成果で大きく振れる設計ではないため、レンジの幅はそのまま等級内の幅を表していると考えてよい場合が多くなります。

確認しておきたいのは次の3点です。

  1. 提示された等級が、既存在籍者の中でどの位置にあるか。 下限に近いか中位かで、次の昇格までの期間が変わります
  2. 賞与の決まり方。 個人評価、部門業績、法人全体の業績のうち、どれが主に効くのか
  3. 昇格の頻度と時期。 年1回か半期に1回か、また飛び級の運用があるか

3つ目は見落とされがちですが、等級で決まる報酬体系では、昇格の機会が年に何回あるかが数年後の水準を左右します。

提示額より、等級にとどまる年数を見る

複数のオファーを比べるとき、提示額の差だけで判断すると見誤ることがあります。等級で決まる報酬体系では、その等級に何年とどまるのが標準かのほうが効いてくるためです。

年収が50万円高い代わりに次の昇格まで3年かかる法人と、50万円低いが2年で上がる法人では、4年後の水準は後者が上回ります。前掲のとおり各法人の平均継続勤務年数は2〜3年台であり、この期間の中で一度でも等級が動くかどうかが、在籍期間全体の収入を決めます。

選考の終盤で、直近に昇格した人が入社何年目だったかを聞いてみるとよいでしょう。具体的に答えられる法人は、昇格の運用が定着していると考えられます。

年収が上がる局面、止まる局面

上がるのは、案件を任される単位が変わったときです。作業の一部を担当する立場から、案件全体の進行と依頼者との対話を持つ立場に移ると、等級が動きます。

止まりやすいのは、特定の作業に習熟しきったときです。財務デューデリジェンスの手続に熟達しても、それだけでは次の段に上がりません。上の段で問われるのは、どの論点を深く見てどの論点を切るかという判断です。この切り替えができないまま数年が過ぎると、年収の伸びが緩やかになります。

未経験・異業種から入るときの水準

銀行、事業会社の経理・財務、証券会社などから移る場合、入社時の等級は前職の年収ではなく実務の対応範囲で決まります。前職より下がる提示になることもあります。

判断材料は初年度の金額ではなく、次の等級に上がるまでの標準的な期間です。前掲のとおり平均継続勤務年数は2〜3年台であり、この間に等級が動くかどうかで数年後の水準が変わります。難易度の全体像は転職難易度、選考の進み方は選考フロー・面接対策で扱っています。

エージェントベストの見解

FASを検討する方は、M&A仲介と、事業会社のM&A部門を並べて比較しているケースが多く見られます。判断が割れるのは、年収の伸び方の形です。仲介は成果次第で早期に大きく伸びる可能性がある一方、成約が出ない年の落ち込みも受け止めることになります。FASは等級に沿って段階的に上がるため予測が立ちますが、飛び越えることは起きにくい。事業会社は社内テーブルに乗るため上限が読めます。3つのうちどれを選ぶかは、収入の期待値ではなく、収入が読めないことにどれだけ耐えられるかで決まる部分が大きいと考えています。

まとめ

FASの年収は、非上場のため公式な平均値が存在しません。公的統計で隣接する「公認会計士」区分は年収810.8万円・労働時間150時間・有効求人倍率0.32で、長時間労働で積み上げる構造ではないことが読み取れます。

各法人が国のデータベースに公表している平均継続勤務年数はいずれも2〜3年台であり、長期在籍を前提にした設計にはなっていません。年収を左右するのは等級が上がる速度です。オファーでは金額より、等級内の位置と昇格の基準を確認するほうが判断に使えます。個別の条件は募集要項でご確認ください。

よくある質問

Q. 転職メディアに載っている年収表は参考になりますか。

A. 出典が示されているかを確認してください。示されていない数字は、実際のオファーとずれることがあります。等級ごとの水準は、選考の中で直接確認するのが確実です。

Q. 公認会計士の資格があると年収は上がりますか。

A. 領域によります。会計知識が前提となる領域では評価されますが、資格そのものに一律の手当が付く設計とはかぎりません。法人ごとの確認が要ります。

Q. 残業時間が短く見えるのはなぜですか。

A. 公表されている平均残業時間は、裁量労働制の適用者等が算出の対象から除かれる定義です。実際の稼働時間とは異なるため、案件の繁忙期の実態は選考中に確認することをおすすめします。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)