FAS(財務アドバイザリー)の転職難易度|転職で押さえるべきポイント

FAS(財務アドバイザリー) 転職難易度 更新日 2026/8/11

競争倍率が、実数で公表されている

転職の難易度は感覚で語られがちですが、FASに関しては実数の手がかりがあります。厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースには、企業が自ら採用の競争倍率を公表しているためです。

同データベースのオープンデータ(学術研究、専門・技術サービス業/2026年8月11日更新)によれば、合同会社デロイト トーマツは採用における男女別の競争倍率として、雇用管理区分「CS」で男性15.8倍・女性16.2倍、区分「CSS」で男性24.2倍・女性26.6倍を公表しています(令和7年度・直近事業年度5月末時点)。EYストラテジー・アンド・コンサルティングは区分「CS」で男性17.5倍・女性13.9倍です。

これらの法人は事業範囲が同一ではなく、アドバイザリー専業とはかぎりません。また、この倍率は新卒・中途の別が明示されていないため、そのまま中途採用の倍率と読むことはできません。それでも、応募が集まる領域であることは読み取れます。

本記事では、この難易度がどこから生まれているかを分解します。記載は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。

難易度を作っている4つの要素

要素1:会計士の供給が構造的に細い

公認会計士・監査審査会が公表した令和7年公認会計士試験の結果では、出願者数22,056人に対し最終合格者は1,636人、最終合格率7.4%。合格者の平均年齢は24.6歳で、職業別では「学生」及び「専修学校・各種学校受講生」が999人(61.1%)、**「会社員」は89人(5.4%)**です。

社会人が働きながら資格を取得してFASに移る経路は、年間89人規模でしか存在しません。この細さは応募者にとって不利にも有利にも働きます。不利なのは、資格保有者の枠を狙う場合に競合が限られた層に集中する点。有利なのは、法人側が資格保有者だけでは採用計画を満たせず、資格を持たない実務経験者の枠を開いている点です。

要素2:領域ごとに求められるものが違う

FASは財務デューデリジェンス、企業価値評価、FA業務、統合支援、事業再生に分かれます。この分化は組織にも表れており、PwCアドバイザリー合同会社は雇用管理区分を「Finance Initiative」「Strategy Initiative」に分けて公表しています。

領域を決めずに応募すると、どの枠にも当てはまらないという理由で見送られることがあります。難易度が高いのではなく、判定できないという状態です。

要素3:入社後の立ち上がりが早く求められる

同データベースで公表されている平均継続勤務年数は、合同会社デロイト トーマツが区分CSで男性2.5年・女性2.6年、EYストラテジー・アンド・コンサルティングが男性3.1年・女性2.9年、KPMGコンサルティングの専門職が男性3.1年・女性2.9年です。

いずれも2〜3年台にとどまります。採用拡大による押し下げも含まれますが、長い育成期間を前提にした組織ではないことは読み取れます。選考で即戦力性が重く見られるのは、この構造の反映です。

要素4:仲介と混同したまま応募してしまう

中小企業庁のM&A支援機関登録制度では、M&A専門業者のうちFAが377件、仲介が803件と別の類型に分けられています。立ち位置が違う以上、求められる資質も違います。この違いを整理しないまま応募すると、志望動機が噛み合わず見送られます。

出身別に見た通りやすさ

出身通りやすさ補うべき点
監査法人(会計士)最も通りやすい検証から助言への切り替え
銀行の融資審査・法人融資通りやすい案件単位で動く働き方
事業会社の経理・財務経路として現実的複数社を短期で見る速度
事業会社の経営企画領域による財務数値の細部への強さ
証券会社の引受・法人営業通りやすい分析の実務経験
コンサルティングファーム領域による会計の基礎知識

監査法人からの応募が最も自然な経路である一方、検証する仕事と助言する仕事の違いに答えを持っていないと、そこで止まることがあります。正しさを確認する立場から、判断の役に立つことを優先する立場に移る理由が問われます。

難易度を下げる打ち手

1. 志望領域を1つに決める。 前述のとおり、決まっていないことが見送りの理由になります。自分の経験に最も近い領域を選びます。

2. 数字を疑った経験を書き出す。 在庫の評価に違和感を持って調べた、売上計上の時期を確認した、子会社の報告値を遡った。こうした場面が1つあれば、デューデリジェンスの現場に置いた姿が伝わります。

3. 期限の中で結論を出した経験を用意する。 情報が揃わないまま判断した場面と、そのとき何を切り捨てたかを整理します。

4. 仲介との違いに自分の言葉で答える。 報酬や案件規模ではなく、一方の側に立つ仕事への適性で答えます。M&A仲介の転職難易度と読み比べると違いが見えます。

5. 事業会社のM&A部門も選択肢に入れる。 買い手側で経験を積んでからFASに移る経路もあります。順序を変えることで通りやすくなる場合があります。

エージェントベストの見解

この領域で最も多い転職の失敗は、監査法人からの移籍で「M&Aの華やかさ」を期待して入り、実際の時間の大半が資料の突合と質問リストの作成だったというパターンです。財務デューデリジェンスは、限られた期間に大量の資料を読み、論点を絞り、報告書に落とす仕事です。交渉の場に立つのは上位の等級になってからで、入社直後にその位置に着くことは多くありません。入社前に確認すべきは、応募先の部門で自分の等級の人が1件あたりどの工程を担当しているかです。ここを聞かずに入ると、期待とのずれが1年目に出ます。

年代による違い

20代後半は、監査法人や銀行での実務経験を土台に移る層として最も採用されやすい年代です。育成を前提とした枠が残ります。

30代前半は、領域の適合が問われます。前職で扱った業務と志望領域が近いほど通りやすくなります。

30代後半以降は、案件を回す立場での採用が中心になります。担当した案件の規模だけでなく、依頼者との対話をどこまで持ったかが確認されます。前掲の平均継続勤務年数を踏まえると、この年代の採用は等級を伴う判断になるため、選考も慎重になります。

法人のタイプで、入りやすさが変わる

面接で答えに詰まりやすい問い

選考の中盤以降で、準備していないと止まりやすい問いが3つあります。

「この会社を買うべきかどうか、あなたはどう判断しますか」——結論を出すことが求められています。情報が足りないと述べて終える回答は、期限のある仕事に耐えられないと受け取られます。足りない情報を挙げたうえで、現時点での仮の結論まで述べるのが型です。

「監査とデューデリジェンスの違いは何ですか」——監査法人出身の方には、かなりの確率で問われます。正しさの検証と、判断のための論点提示という違いを、自分の言葉で述べられるかが見られています。

「関心のない業種の案件を担当したらどうしますか」——配属は希望どおりにならないことがあります。この問いは、志望領域の強さと組織で働く柔軟さの両方を確かめています。

いずれも知識の問題ではなく、立場の理解を問う問いです。

応募の進め方

FASの選考は、面接回数が多く、実務課題を伴うことがあります。在職中に受ける場合は、課題に充てる時間を見込んで計画を立てる必要があります。

また、法人ごとに強い領域が違うため、同じ領域を複数法人で受けるほうが準備が効率的です。領域を変えながら受けると、そのたびに志望動機を組み直すことになり、準備が薄くなります。

エージェントベストの見解

書類で通過率を分けているのは、資格の有無ではなく、数字に責任を持った記述があるかどうかです。職務経歴書に「決算業務を担当」「財務分析を実施」と書かれているだけでは差がつきません。読み手が知りたいのは、その数字にもとづいて何が決まったかです。融資を実行した、投資を見送った、事業からの撤退を提案した。判断まで書かれていると、助言する側に置いたときの姿が想像できます。会計知識の網羅性より、この一文があるかどうかで書類の通過は変わります。

まとめ

FASの難易度は、供給の細さと領域の分化から生まれています。会計士試験の合格者1,636人のうち会社員は89人にとどまる一方、法人側は採用を続けており、資格を持たない実務経験者の枠は存在します。

公表されている採用競争倍率は15.8〜26.6倍と高い水準にありますが、これは新卒・中途の別が示されていない数値です。難易度を下げる要点は、志望領域を1つに決め、数字を疑った経験と期限内に結論を出した経験を用意することにあります。選考基準は法人と時期により変動しますので、最新の募集要項は各社公式サイトでご確認ください。

よくある質問

Q. 未経験からFASに入れますか。

A. 財務数値を扱った実務経験があれば経路はあります。まったく数字に関わってこなかった場合は、事業会社の経理・財務や経営企画を経由するほうが現実的です。

Q. 簿記の資格は評価されますか。

A. 知識の裏づけとして扱われます。ただし資格そのものより、その知識を使って何を判断したかの記述のほうが重く見られる傾向があります。

Q. 監査法人から移るのに適した時期はありますか。

A. 一概には言えませんが、監査の一連の流れを一通り経験した段階で検討する方が多く見られます。時期より、検証から助言に移る理由を言語化できているかが判断の中心になります。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)