FAS(財務アドバイザリー)の選考フロー・面接対策|転職で押さえるべきポイント
「会計士でないと入れない」は正確ではない
FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)の選考を考えるとき、公認会計士の資格が前提だと受け取られていることがあります。実際の中途採用は、そこまで単純ではありません。
公認会計士・監査審査会が公表した令和7年公認会計士試験の結果を見ると、この認識が現実と合わないことが分かります。出願者数22,056人に対し、最終合格者は1,636人、最終合格率は7.4%。合格者の平均年齢は24.6歳で、職業別では「学生」及び「専修学校・各種学校受講生」が999人(構成比61.1%)、**「会社員」は89人(構成比5.4%)**にとどまります。
社会人が働きながら会計士になり、その資格でFASに移るという経路は、年間89人という規模でしか存在しません。FASの中途採用が毎年その人数の中だけで動いているはずはなく、実際には会計士以外の枠が相当の比重を占めています。
本記事では、この前提から選考を整理します。記載は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトをご確認ください。
FASが仲介と分けられている理由
中小企業庁のM&A支援機関登録制度では、支援機関の種類が細かく分けられています。2026年3月9日時点の登録3,399件のうち、M&A専門業者のFAは377件、仲介は803件です。同じM&Aを扱いながら、制度上も別の類型として整理されています。
違いは立ち位置です。FAは譲渡側か譲受側のどちらか一方に立ち、その依頼者の利益のために動きます。仲介は双方の間に立ちます。この違いが、選考で確かめられる資質の違いにつながります。
選考で「なぜ仲介ではなくFAなのか」を問われたとき、報酬体系や案件規模の話で答えると浅く見えます。求められているのは、一方の側に立って交渉する仕事への適性を、自分の経験で説明することです。
一般的な選考ステップ
公開されている募集要項では、書類選考、複数回の面接、ケースまたは実務課題、最終面接という流れが取られていることが多いとされています。ステップ数や順序は会社と時期により変動します。
書類選考では、財務数値を扱った経験の具体性が見られます。決算業務、予算管理、事業計画の策定、投融資の審査など、数字に責任を持った経験が対象になります。
現場担当者との面接では、数字の読み方が確かめられます。財務諸表のどこを最初に見るか、異常値をどう追うか。正解を当てる場ではなく、思考の順序が見られています。
マネージャー・パートナー面接では、依頼者への向き合い方が問われます。FASの仕事は分析だけで完結せず、その結果を依頼者に伝え、判断を支えるところまで含みます。
実務課題が課される場合、財務モデルの作成や、簡易な企業価値評価が題材になることがあります。完成度より、前提の置き方と、置いた前提を説明できるかが評価対象です。
選考で確かめられている3つのこと
1. 数字の裏側を見にいく習慣があるか。 資料に書かれた数値をそのまま受け取らず、なぜその数値になっているかを追う姿勢です。
2. 期限の中で結論を出せるか。 案件には期限があり、情報が揃わないまま判断を求められる場面があります。完璧を求めて止まる人は、実務に耐えにくいと見られます。
3. 依頼者と反対の意見を言えるか。 一方の側に立つ以上、依頼者の希望に沿えない結論を伝える場面があります。ここで言えるかどうかが、助言する仕事の核になります。
働き方の実態を、公開データで確かめる
FAS各社の多くは非上場のため、有価証券報告書がありません。ただし、厚生労働省の女性の活躍推進企業データベースには、一定規模以上の企業が自ら数値を公表しています。同データベースのオープンデータ(学術研究、専門・技術サービス業/2026年8月11日更新)から、Big4系の法人が公表している数値を挙げます。
| 法人(登録名) | 企業規模 | 一月当たり平均残業時間 | 管理職に占める女性の割合 |
|---|---|---|---|
| 合同会社デロイト トーマツ | 1001〜5000人 | 15.4時間(対象正社員) | 15.2%(80人/528人) |
| EYストラテジー・アンド・コンサルティング | 1001〜5000人 | 14.1時間(基幹的な職種) | 16.0% |
| PwCアドバイザリー合同会社 | 501〜1000人 | 区分別に7.3時間・6.1時間ほか | 17.3% |
| KPMGコンサルティング | 1001〜5000人 | 専門職2.7時間 | 19.7% |
数値は各法人が公表している範囲のもので、法人の事業範囲は同じではありません。アドバイザリー専業の法人と、コンサルティングを含む法人が混在しています。また、この残業時間は裁量労働制の適用者等が算出の対象から除かれる定義であり、実際の稼働時間とは異なります。
それでも読み取れることがあります。PwCアドバイザリー合同会社は雇用管理区分が「Finance Initiative」「Strategy Initiative」に分かれており、法人の中で財務系と戦略系が別区分として管理されていることが分かります。どちらに配属されるかで、選考で問われる内容も入社後の仕事も変わります。
エージェントベストの見解
面接の終盤で詰められるのは、「その数字が間違っていたらどうしますか」という問いです。財務モデルも企業価値評価も、前提が変われば結論が変わります。ここで「精度を高めます」と答える方が多いのですが、評価は伸びません。実務で求められるのは精度そのものではなく、どの前提が結論を左右するかを見分け、そこだけを依頼者に示す判断です。準備としては、前職で扱った数値のうち、前提が変わって結論がひっくり返った例を1つ用意しておくことです。数字を扱う仕事の経験がない方でも、見積もりや計画の狂いという形で経験されているはずです。
会社のタイプで、選考の重心が変わる
| タイプ | 特徴 | 選考で重く見られる点 |
|---|---|---|
| Big4系FAS | 領域が細分化され、分業が進む | どの領域を志望するかの明確さ |
| 独立系アドバイザリー | 少人数で案件を一貫して担当 | 幅広く動ける柔軟さ |
| 再生・事業支援系 | 財務と事業の両面を扱う | 現場に入る耐性 |
| 証券会社系 | 大型案件と資本市場に接続 | 資本市場の理解 |
| 事業会社のM&A部門 | 買い手の側で継続的に関与 | 事業理解と統合の視点 |
各社の状況はデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーの評判、KPMG FASの評判、PwCアドバイザリーの評判、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの評判、GCAの評判、フロンティア・マネジメントの評判、山田コンサルティンググループの評判をご覧ください。
見送りにつながりやすい受け答え
- 財務諸表を読めると述べるが、どの数値から見るかを聞かれて答えが出てこない
- 志望する領域が定まらず、「M&Aに関われれば何でも」という答え方をする
- 仲介との違いを、報酬体系や案件規模でしか説明できない
- 依頼者に反対した経験がなく、要望に沿った提案の話だけになる
- 資格取得の予定を強調する一方、現時点で何ができるかの説明が薄い
2つ目は特に注意が必要です。前掲のとおりFASは領域が細分化されており、財務デューデリジェンス、企業価値評価、再生支援、統合支援では求められるものが違います。志望領域を決めていない応募者は、配属先を決められないという理由で見送られることがあります。
異業種から受けるとき
会計事務所や監査法人以外からの応募も広く行われています。銀行の融資審査、事業会社の経理・財務・経営企画、証券会社の引受業務などが接続しやすい経路です。
翻訳の要点は、数字を作った経験ではなく、数字で判断した経験に置くことです。融資の可否を判断した、投資の稟議を通した、事業から撤退する判断に関わった。こうした経験は、資格の有無にかかわらず評価されます。仲介側との比較はM&A仲介の選考フローを、職種としての詳細はFASアナリストの選考フローをご覧ください。
エージェントベストの見解
FASを受ける方は、M&A仲介と、事業会社のM&A・経営企画のポジションを並べて検討しているケースが多く見られます。判断が割れるのは、案件のどこに立つかです。仲介は案件を作るところから関わり、営業活動の比重が大きくなります。FASは依頼を受けてから精査に入るため、分析の比重が高くなります。事業会社は買った後の統合まで見届けます。同じM&Aでも、1日の時間の使い方は3つとも別物です。選考の途中で、その会社が案件のどの段階から関与しているかを確認すると、この違いが具体的に見えます。
まとめ
FASの選考は、会計士資格の有無だけで決まるものではありません。令和7年の会計士試験合格者1,636人のうち会社員は89人であり、この人数だけで中途採用が成り立つ規模ではないためです。
問われるのは、数字の裏側を見にいく習慣、期限の中で結論を出す力、依頼者に反対を伝えられるかの3点です。志望する領域を定めておくことも、配属を伴う選考では実務的な準備になります。選考の内容は会社と時期により変動しますので、最新の募集要項は各社公式サイトでご確認ください。
よくある質問
Q. 公認会計士の資格がないと不利ですか。
A. 領域によります。財務デューデリジェンスでは会計知識が前提になりますが、再生支援や統合支援では事業側の経験が評価されます。資格の有無より、志望領域との適合が見られます。
Q. 英語力はどの程度求められますか。
A. 案件によります。クロスボーダー案件を扱う部門では日常的に使いますが、国内案件が中心の部門ではその限りではありません。応募先の案件構成を確認しておくとよいでしょう。
Q. 実務課題ではどこまでの完成度が求められますか。
A. 完成度より、置いた前提を説明できるかが見られる傾向があります。時間内に終わらなかった部分についても、何が残っているかを把握していれば評価の対象になります。
- 公認会計士・監査審査会 令和7年公認会計士試験の合格発表の概要について
- 中小企業庁 M&A支援機関登録制度に係る登録FA及び仲介業者の公表(令和7年度公募2月分・別紙2 登録状況)
- 厚生労働省 女性の活躍推進企業データベース オープンデータ(学術研究、専門・技術サービス業/2026年8月11日更新)
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。