事業承継支援の選考フロー・面接対策|転職で押さえるべきポイント
制度と家族の、両方が問われる
事業承継支援の選考には、他のM&A関連職と違う特徴があります。制度の理解と、家族に向き合う姿勢の両方が確かめられることです。
制度の側
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)、民法の相続、事業承継税制。条文が入り組んでおり、解説書だけでは足りません。
家族の側
同法第4条第1項は、旧代表者の推定相続人及び会社事業後継者が その全員の合意をもって、書面により 定めをすることができるとしています。同条第4項・第5項も、処分等の場合の措置について全員の合意を求めています。
1人でも反対すれば成立しない仕事です。
この2つが揃わないと成立しない
制度に詳しくても家族の話に入れない人、家族と話せても制度を知らない人。どちらも、この領域では完結しません。
この記事では、選考の流れと、何が確かめられているのかを整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。
選考の段階と、確認される内容
| 段階 | 会う相手 | 主な確認内容 |
|---|---|---|
| 書類選考 | 採用担当 | 扱った承継の型、案件の期間、反対への対応 |
| 一次面接 | 現場のメンバー | 前職での役割、制度の理解 |
| ケース面接/事例の議論 | 中堅・責任者 | 承継の型の選択、関係者の整理 |
| 二次面接 | 部門の責任者 | 家族への向き合い方、士業との協働 |
| 最終面接 | 役員クラス | 長期の適性、成果が出ない期間への耐性 |
| 条件面談 | 採用担当 | 成果の定義、固定給と成果連動の比率 |
3段階目では、架空の企業の状況が示され、どの承継の型を提案するかを問われることがあります。
選考の期間 — 金融機関や税理士法人では、段階数が多くなる傾向があります。
ケース面接で見られていること
型を選べるか
親族内、従業員、第三者。どれが適切かは、状況によって変わります。 後継者候補の有無、株式の分散状況、資金の余裕。
関係者を洗い出せるか
経営者、後継者、他の相続人、役員、金融機関、取引先。誰の合意が必要かを特定できるかが見られます。
制度の要件を確認するか
経営承継円滑化法第4条第1項の但書は、後継者が所有する株式等のうち定めに係るものを除いたものについて 議決権が総株主の50%を超える場合 は、この限りでないとしています。
既に支配権がある場合、この特例は使えません。 こうした要件に気づけるかが問われます。
証明する者を知っているか
同条第1項第二号は、価額の証明を 弁護士、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人 に限定しています。同条第2項は、旧代表者や後継者、これらが半数以上を占める法人は証明できないとしています。
時間軸を置けるか
案件が数年に及びます。「いつまでに何を」という段取りを示せるかが見られます。
面接で繰り返される質問
「関係者の意見が割れたとき、どうしましたか」
この領域で最も重い質問です。全員の合意が要件だからです。
「担当した案件は、どのくらいの期間でしたか」
数年に及ぶ領域です。長い案件を扱った経験が問われます。
「断念した案件はありますか」
すべてが成立するわけではありません。分析ができるかが見られます。
「士業には、何を依頼しますか」
担えない工程があることを理解しているかの確認です。
「M&Aと事業承継の違いを、どう考えますか」
第三者承継は3つの型のひとつです。
「成果が出ない期間を、どう過ごしますか」
入社から2年間、成約が出ないことがあります。
「後継者候補が辞退したら、どうしますか」
実際に起きる事態です。次の選択肢を示せるかが問われます。
「意見が割れたとき」の答え方
この質問への答えで、経験の有無がはっきり分かれます。
多くの人が答える内容
メリットを説明して納得を得た。会社の存続のために必要だと伝えた。専門家の意見を示した。
なぜ不十分か
家族の間には、事業の合理性では説明できない経緯があります。正論を積み上げても、感情は動きません。
効く順序
まず、反対の理由を分解します。この領域では、理由に型があります。
- 取り分への不満 — 自分の相続分が減ることへの反発
- 後継者への不信 — 経営能力や人柄への疑問
- 親の判断への不満 — なぜ自分ではないのかという思い
- 事業の将来への不安 — 継いでも続かないのではないか
理由によって、打ち手が変わります
取り分の問題なら、他の資産での調整や、金銭での補償を検討します。後継者への不信なら、引継ぎの計画を文書にして進捗を共有します。同じ「反対」でも、解き方が別です。
答え方の例
「まず、なぜ反対なのかを個別に聞きます。取り分の話か、後継者への不安か、それとも過去の経緯か。理由が分かれば、打ち手が変わります。全員の合意が要件である以上、正論で押しても進みません」
この答え方ができる方は、実務の経験があると判断されます。
評価が下がる受け答え
- 「説得します」と答える — 家族の感情は正論で動きません
- 制度を原典で読んだ経験がない — 条文が入り組んだ領域です
- 短期で成果を出す前提で語る — 案件が数年に及びます
- M&Aだけを語る — 親族内・従業員承継が抜けます
- 士業の役割を知らない — 担えない工程があります
- 断念を失敗として隠す — 分析があれば知見として扱われます
1つ目が、営業出身の方に多い落ち方です。前職では美徳だった姿勢が、この領域では危うさとして受け取られます。
会社の型で、選考の重心が変わる
金融機関(銀行・信用金庫) — 既存の取引先が対象です。関係構築と融資の知識が問われます。選考の段階数が多くなります。
M&A仲介会社の承継部門 — 第三者承継が中心です。案件を動かす力と、営業の要素が見られます。詳しくはM&A仲介営業の選考フロー・面接対策もご覧ください。
税理士法人・会計事務所 — 制度と税務が中心です。資格保有者は選考が軽くなる場合があります。
事業承継専門のコンサルティング — 3つの型すべてが問われます。ケース面接の比重が高くなります。
公的機関の支援窓口 — 相談を受ける役割です。聞く力と、専門家につなぐ判断が中心に見られます。
隣接領域はM&Aアドバイザーの選考フロー・面接対策もあわせてご覧ください。
エージェントベストの見解
ケース面接で最も差がつくのは、要件の但書に気づけるかどうかです。経営承継円滑化法第4条第1項には、後継者が所有する株式等のうち定めに係るものを除いたものについて議決権が総株主の50%を超える場合は、この限りでないという但書があります。つまり、既に支配権を持っている後継者には、この特例を使う必要がありません。ケースで株式の保有状況が示されているのに、これを確認せずに特例の適用を提案すると、条文を読んでいないと判断されます。準備としてお勧めしたいのは、条文を読むときに但書に印をつける習慣です。この領域の制度は、原則より例外に実務上の意味があることが多くあります。原文を読んだ人と、解説書で済ませた人の差が出るのは、まさにこの部分です。
選考中に確認しておきたいこと
- 扱う承継の型の比率(親族内・従業員・第三者)
- 成果の定義(成約か、認定の取得か、計画の策定か)
- 固定給と成果連動の比率
- 士業が社内にいるか、外部と連携するか
- 案件の平均的な期間
- 紹介元との関係が、会社に帰属するか個人に帰属するか
1つ目が、積める経験を最も左右します。第三者承継が主軸ならM&Aに近く、親族内が中心なら制度と家族の調整が中心になります。
2つ目と3つ目は、収入に直結します。案件が長いため、成果の定義が評価を決めます。詳しくは事業承継支援の年収相場で整理しています。
6つ目は、聞きにくい質問ですが、長期のキャリアを考えるうえで重要です。
エージェントベストの見解
「後継者候補が辞退したら、どうしますか」という質問が出ることがあります。実際に起きる事態です。多くの方は、説得を試みると答えます。しかし、継ぎたくない人に継がせても、数年後に同じ問題が起きます。効くのは、次の選択肢を示す答え方です。従業員のなかに候補はいないか、第三者への譲渡は検討できるか、あるいは時間をかけて別の候補を育てられるか。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)が仲介者・FAの行動を定めているように、第三者承継には整備された枠組みがあります。「辞退そのものは失敗ではなく、選択肢が絞られただけです。残った選択肢を並べて、経営者に判断していただきます」。この答え方ができる方は、3つの型すべてを視野に入れていると伝わります。
まとめ
事業承継支援の選考について、押さえるべき点を整理します。
- 制度の理解と、家族に向き合う姿勢の両方が確かめられる
- 経営承継円滑化法第4条は、推定相続人の全員の合意を要件としている
- 第4条第1項の但書に気づけるかで、条文を読んだかどうかが分かる
- 「意見が割れたとき」は、説得ではなく理由の分解で答える
- 反対には型がある。取り分、後継者への不信、親の判断、事業の将来
- 後継者の辞退は失敗ではなく、選択肢が絞られただけと捉える
選考の進み方や評価の観点は会社と時期によって変わります。詳細は各社公式サイトでご確認ください。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. 制度の質問に答えられなかった場合、不利ですか。
A. 細部を知らないことは大きな減点になりにくい一方、原典を読んでいないことは伝わります。経営承継円滑化法第4条を読んでおくだけで、面接での会話が変わります。準備に必要なのは数十分です。
Q. ケース面接では、どこまで具体的に答えるべきですか。
A. 完璧な答えより、確認すべき事項を挙げられることが評価されます。株式の保有状況、後継者候補の有無、相続人の構成。「この点を確認したうえで判断します」と述べるのは、この領域では適切な答え方です。
Q. 「説得します」と答えるのは、なぜよくないのですか。
A. 家族の間には、事業の合理性では説明できない経緯があります。正論を積み上げても感情は動きません。まず理由を聞き、理由に応じた打ち手を出す順序が求められます。
Q. 資格がない場合、選考で不利ですか。
A. 役割によります。制度・税務の設計を担う立場では資格が有利ですが、相談の入口や推進・調整の役割では、経営者と話せることのほうが問われます。応募する役割を先に確認してください。
- e-Gov法令検索 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律 第4条(遺留分の算定に係る合意等)
- 中小企業庁 中小M&Aガイドライン(第3版)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント・M&Aアドバイザー
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/公認会計士
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。