事業承継支援のキャリアパス|転職で押さえるべきポイント

事業承継支援 キャリアパス 更新日 2026/8/11

相続の問題を、制度で解く仕事

事業承継支援は、M&Aの隣接領域として語られることが多い分野です。しかし実務の中心には、相続と遺留分という民法の問題があります。

何が起きるか

会社を継ぐ後継者に株式を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害することがあります。後になって遺留分の請求を受ければ、せっかく集めた株式が分散します。 承継そのものが崩れます。

この問題に対する制度

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)の第4条は、次のような合意を認めています。

旧代表者の推定相続人及び会社事業後継者は、その全員の合意をもって、書面により、次の定めをすることができます。

ただし書きの意味

同条第1項には、当該会社事業後継者が所有する株式等のうち定めに係るものを除いたものについて議決権が総株主の50%を超える場合は、この限りでないという但書があります。既に支配権を持っている場合は、この特例を使う必要がないという構造です。

個人事業の場合

同条第3項は、旧個人事業者の推定相続人及び個人事業後継者について、事業用資産の全部または一部を遺留分算定財産に算入しない旨の定め ができるとしています。

キャリアへの含意

この仕事は、株式の評価や税務だけでは完結しません。相続人全員の合意を取り付ける工程が伴います。ここに、この領域固有の難しさがあります。

この記事では、その構造を踏まえて進み方を整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。

「全員の合意」という要件が、仕事の性質を決める

経営承継円滑化法第4条の特例は、推定相続人の全員の合意 を要件としています。

この要件の重さ

株式を継ぐ後継者だけでなく、継がない兄弟姉妹も含めた全員です。1人でも反対すれば成立しません。

実務での意味

技術的に最適な承継の設計を作っても、家族の一人が納得しなければ実行できません。したがって、この領域の仕事は 説明と調整 に多くの時間を使います。

証明する者の限定

同条第1項第二号は、価額の証明ができる者を 弁護士、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人 に限定しています。

同条第2項は、旧代表者、会社事業後継者、業務停止中の者、およびこれらの者が半数以上を占める法人は証明ができないと定めています。利害関係者を排除する設計です。

処分等の場合の措置

同条第4項・第5項は、株式等または事業用資産の処分等の場合に講じうる措置を、全員の合意をもって定めなければならないとしています。将来の変化まで、あらかじめ合意しておく必要があります。

キャリアへの含意

制度を知っているだけでは足りません。家族の間に立って合意を作る技術が要ります。ここができる人は、代替が効きません。

3つの承継の型で、仕事が変わる

承継の型内容主な論点
親族内承継子や親族が継ぐ遺留分、株式の集中、税負担
従業員承継役員や従業員が継ぐ資金調達、個人保証、株式の買取り
第三者承継(M&A)社外に譲渡する相手探し、企業価値、条件交渉

1つ目が、経営承継円滑化法の特例が効く領域です。

2つ目の難しさ

従業員には、株式を買い取る資金がありません。加えて、金融機関からの借入に個人保証が求められることがあります。資金の設計が中心になります。

3つ目はM&Aの領域

中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)が、仲介者・FAの行動を定めています。詳しくはM&A仲介営業のキャリアパスM&Aアドバイザーのキャリアパスで整理しています。

キャリアの分かれ目

3つすべてを扱える人は多くありません。どの型を主戦場にするかで、積む知識が変わります。

入社後の進み方と、評価が切り替わる時期

時期主な状態この時期の分岐
入社〜2年制度と税務の基本を覚える。同行が中心条文を自分で引けるか
2〜5年案件の一部を担当。経営者と話す家族の話に入れるか
5〜8年案件を主導。相続人全員と向き合う合意を作れるか
8年以降案件を取ってくる側、または専門を深める紹介が来る状態になるか

最初の関門は2年目前後です。経営承継円滑化法、事業承継税制、民法の相続。条文を原典で確認する習慣がないと、この領域では信頼されません。

2つ目の関門は5年目前後です。株式の評価や税務の設計はできる人が増えます。そこから先、家族の間に立てるかで役割が分かれます。

制度と税務で立つ道

株式の評価、納税の設計、認定の申請、契約書の作成。技術的な側面を深める方向です。

評価される要素

士業との関係

経営承継円滑化法第4条第1項第二号が、価額の証明を 弁護士、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人 に限定しているように、この領域には士業しかできない工程があります。

在籍中に積むべきもの

  1. 認定まで通した経験 — 申請の実務を最後まで
  2. 複数の型を扱った経験 — 親族内、従業員、第三者
  3. 士業と協働した経験 — 誰に何を依頼するかの判断

関連する統計

厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の「公認会計士」の区分では、平均年収 810.8万円、平均年齢 42.2歳、労働時間 月 150時間、有効求人倍率 0.32、就業者数 21,850人、時間当たり賃金 4,304円 とされています。入職前訓練・入職後訓練とも「3年超〜5年以下」が最多です。

経営者と家族に向き合う道

もう一つは、制度の設計ではなく、人の側に立つ方向です。

この道の仕事

後継者候補との面談、家族の意向の聴取、社内への説明、取引先や金融機関への通知。

なぜ難しいか

経営承継円滑化法第4条の特例は全員の合意を要件としています。しかし、家族の間には長年の経緯があります。制度の説明だけでは、合意は生まれません。

求められるもの

job tagの「M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント・M&Aアドバイザー」の区分では、必要スキルとして 交渉4.7 が高く示されています。ただし、この領域では交渉より 聴くこと が先に来る場面が多くなります。

在籍中に積むべきもの

2つ目を語れる人は多くありません。すべての案件が成立するわけではないこの領域では、断念の経験に価値があります。

エージェントベストの見解

この領域に入る方が最初に驚くのは、進まない時間の長さです。M&Aの仲介であれば、譲渡の意思が固まった経営者を相手にします。事業承継支援では、経営者自身がまだ決めていないことが少なくありません。誰に継がせるか、いつ退くか、株式をどう分けるか。この判断には、事業だけでなく家族の事情が絡みます。経営承継円滑化法第4条が推定相続人の全員の合意を要件としているのは、この構造を前提としているためです。準備としてお勧めしたいのは、案件の進捗を「合意した人の数」で数える習慣です。全員の合意が必要である以上、5人中3人が合意している状態は、進捗として意味があります。売上だけで測ると、何も進んでいないように見える期間が続きます。この見方ができると、長い案件にも耐えられます。

この経験の次にある選択肢

1つ目が最も多い進路です。事業承継の相談から、結果として第三者承継に至る案件は少なくありません。中小M&Aガイドラインの枠組みを理解していることが、そのまま活きます。

5つ目は、この領域に固有の選択肢です。紹介が来る状態を作れた人は、単独でも成立します。

会社の型で、積める経験が変わる

金融機関(銀行・信用金庫) — 既存の取引先が対象です。関係が長く、相談を受けやすい立場にあります。

M&A仲介会社の承継部門 — 第三者承継が中心になります。案件の回転が速くなります。

税理士法人・会計事務所 — 制度と税務が中心です。顧問先からの相談が起点になります。

事業承継専門のコンサルティング — 3つの型すべてを扱います。専門性が付きやすくなります。

公的機関の支援窓口 — 相談を受け、専門家につなぐ役割です。案件の全体像が見えます。

選び方の要点 — 制度と税務を深めたいなら税理士法人系、人と向き合う経験を積みたいなら金融機関や専門コンサル。同じ「事業承継支援」でも、日々の仕事が違います。

エージェントベストの見解

5年後を考えるとき、この領域では「紹介が来る状態か」を意識しておく価値があります。事業承継の相談は、広告では取れません。経営者が誰に相談するかは、信頼で決まります。税理士、金融機関の担当者、取引先の社長。こうした人からの紹介が、案件の入口になります。したがって、この領域で長く続けるには、紹介元との関係が資産になります。在籍中に、誰と関係を作れたかを意識しておいてください。ただし、注意点があります。紹介元との関係は、会社に帰属する部分と個人に帰属する部分があります。転職や独立を考える場合、この線引きを踏まえた行動が求められます。関係を築くことと、それを持ち出すことは別の問題です。ここを誤ると、この狭い業界では評判に響きます。

まとめ

事業承継支援のキャリアパスについて、押さえるべき点を整理します。

本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。統計の数値は調査区分全体のものであり、特定の企業の実態を示すものではありません。制度の解釈や個別の判断は事情により変わりますので、専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 士業の資格がないと入れませんか。

A. 必須ではありません。ただし、経営承継円滑化法第4条第1項第二号のように、証明を士業に限定している工程があります。資格がない場合、士業と協働する立場になります。誰に何を依頼するかの判断が求められます。

Q. M&A仲介との違いは何ですか。

A. M&Aは第三者承継の手段のひとつです。事業承継支援は、親族内承継と従業員承継も含みます。前者では遺留分や税負担、後者では資金調達と個人保証が中心の論点になります。

Q. 案件が進まないのは普通ですか。

A. この領域では珍しくありません。経営者自身がまだ決めていないことがあり、全員の合意という要件もあります。進捗を売上だけで測ると、何も進んでいないように見える期間が続きます。

Q. 未経験から入れますか。

A. 金融機関の法人営業や、会計事務所の経験があると接続します。まったくの未経験からは難しくなりますが、公的機関の支援窓口など、相談を受ける役割から入る道はあります。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)