事業会社のプロダクト開発の年収相場|転職で押さえるべきポイント
相場は、2つの職業区分の間に落ちる
事業会社でプロダクトを作る仕事には、単独の公的統計がありません。賃金構造基本統計調査の職業分類は、作る側と束ねる側で分かれており、実際の求人はその間に位置しています。
そこで、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)に掲載された2つの区分を並べます。どちらも令和7年賃金構造基本統計調査の結果を加工した数値です。
| 項目 | システムエンジニア(Webサービス開発) | プロジェクトマネージャ(IT) |
|---|---|---|
| 賃金(年収) | 578.5万円 | 889万円 |
| 年齢 | 37.1歳 | 38.3歳 |
| 労働時間 | 159時間 | 173時間 |
| 賃金(1時間当たり・一般労働者) | 2,819円 | 4,026円 |
| 就業者数 | 389,760人 | 656,770人 |
| 求人賃金(月額・令和6年度) | 35.2万円 | 39万円 |
| 有効求人倍率(令和6年度) | 2.57 | 2.1 |
差は310.5万円です。一方で年齢はほぼ変わりません。年齢が同じで年収が違うということは、この差が経験年数ではなく役割によって生まれていることを示しています。以下、この構造を分解します。記載は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。
求人倍率が高いほうが、年収は低い
表の最下段に、直感に反する数字が並んでいます。有効求人倍率はWebサービス開発側が2.57で、プロジェクトマネージャ側の2.1より高い。募集は多いのに年収は310万円低いという関係です。
求人倍率は需給の逼迫を示しますが、賃金の高さを示すものではありません。人手が足りない仕事と、単価が高い仕事は別だからです。事業会社の求人票に「開発体制を強化中」と書かれていても、そのポジションが高い水準で処遇されるとはかぎりません。
労働時間も見ておく必要があります。159時間と173時間で14時間の差があり、時間当たりの賃金では2,819円と4,026円と、1,207円離れています。年収の差は、長く働いた分の差ではありません。
スキルレベルを上げても、届かない天井がある
job tagには、厚生労働省が2023年度に実施した委託調査にもとづくスキルレベル別の給与データが掲載されています。金額は第一四分位から第三四分位の範囲です。
システムエンジニア(Webサービス開発)/設計・構築
| ITSSレベル | 年収の範囲 |
|---|---|
| レベル1〜2 | 420.0万円〜620.0万円 |
| レベル3 | 450.0万円〜700.0万円 |
| レベル4 | 500.0万円〜780.0万円 |
| レベル5以上 | 600.0万円〜950.0万円 |
同じページの「ソフトウェア開発スペシャリスト」では、レベル5以上でも550.0万円〜866.0万円と、上限がさらに低くなっています。
プロジェクトマネージャ(IT)/企画立案・プロジェクト管理
| ITSSレベル | 年収の範囲 |
|---|---|
| レベル3 | 600.0万円〜900.0万円 |
| レベル4 | 650.0万円〜950.0万円 |
| レベル5以上 | 700.0万円〜1100.0万円 |
ここが年収相場を考えるうえで最も重要な部分です。作る側は最上位のレベル5以上でも第三四分位が950.0万円であるのに対し、束ねる側はレベル3の時点で第三四分位が900.0万円に達し、レベル5以上では1100.0万円に届きます。
つまり、技術的な習熟度を上げていく道筋には、この統計の範囲で見るかぎり天井があります。その天井を越えている層は、技術レベルをさらに上げたのではなく、別の責務に移っています。
エージェントベストの見解
公開されている578.5万円という数字は、そのまま自分の相場として受け取らないほうが安全です。これは職業分類に対応する統計であり、事業会社の内製組織だけを取り出した数値ではありません。同じ分類の中に、受託開発の担当者も、社内システムの運用担当者も含まれています。自分の場合いくらになるかを決めるのは、所属する会社の業種でも保有スキルでもなく、負っている数字があるかどうかです。オファー面談では、提示額そのものより、評価対象となる指標が何かを確認してください。指標が「担当機能のリリース」なのか「担当プロダクトの利用者数」なのかで、2年後の水準が変わります。
年収を決めている4つの要素
1. 成果責任の有無。 デジタルスキル標準ver.2.0では、プロダクトマネージャーの責務に「明確な成果責任を持つ」と明記されている一方、要求の整理と伝達を担うビジネスアナリストの責務には、その記載がありません。求人票の職種名が同じでも、責任の所在が違えば水準は変わります。
2. 誰が予算を持っているか。 事業部門が予算を持ち、開発側が実装を担う構造では、開発側の等級が事業側より上がりにくい傾向があります。
3. プロダクトが収益に直結しているか。 本業を支える社内向けの仕組みか、それ自体が売上を生むサービスかで、投資の位置づけが変わります。
4. どの法人に所属するか。 IT・デジタル子会社は、親会社とは別の給与テーブルを持つことが一般的です。親会社の水準を前提に考えると、実際の提示額と開きが出ることがあります。
事業会社が高い金額を出しにくい事情
IPAの「DX動向2025」では、DXを推進する人材の獲得・確保の課題として、日本は「魅力的な処遇が提示できない」「募集しても応募が少ない」の回答率が米国とドイツに比べて突出していると報告されています。同じ調査では、DX推進人材の「量」が不足していると答えた企業が85.1%にのぼる一方、「人材確保を行っていない」も19.4%を占めます。
人が足りないと認識していても、処遇を上げて採りにいくとはかぎらない、という状況です。この背景には、既存の給与テーブルとの整合という問題があります。長く続いてきた等級制度の中に、外から来た人材だけを高い水準で置くのは、社内の説明がつきにくいためです。
そのため、水準の交渉では等級の位置づけを確認するのが実務的です。同じ提示額でも、既存テーブルの上限に近い位置なのか、中位なのかで、その後の伸び方が変わります。
類型ごとの傾向
| 類型 | 給与テーブルの特徴 | 見ておく点 |
|---|---|---|
| 自社サービス専業 | 職種別の設計になりやすい | 賞与の変動幅 |
| 非IT事業会社の内製部門 | 全社共通のテーブルに乗る | 職種手当の有無 |
| IT・デジタル子会社 | 親会社と別テーブル | 出向者との差 |
| SaaS・スタートアップ | 現金以外の報酬が入る | 株式報酬の条件 |
| 外資テック日本法人 | 本社の等級に紐づく | 評価サイクル |
上場企業であれば、有価証券報告書の「従業員の状況」に平均年間給与・平均年齢・平均勤続年数が記載されています。持株会社やIT子会社では提出会社の数値が実態と離れることがあるため、どの法人の数値かを確かめてから読む必要があります。企業ごとの状況はLINEヤフーの評判、カカクコムの評判、楽天グループの評判、クレディセゾンの評判、第一生命情報システムの評判、明治安田システム・テクノロジーの評判、ラクスルの評判などをご覧ください。
年収が上がる局面、止まる局面
上がる局面は、担当範囲が機能から事業に変わるときです。担当機能の改善から、収益や利用者数の目標を持つ立場に移ると、評価対象が変わります。逆に止まりやすいのは、担当プロダクトが安定運用に入り、改善の余地が小さくなったときです。
もうひとつ止まりやすいのが、調整の量だけが増えていく局面です。関係部署が増え、会議が増え、忙しさは上がるものの、決めた事柄が増えていない状態を指します。この状態は職務経歴書にも書きにくく、次の転職でも評価されにくくなります。
未経験・異業種から入るときの水準
事業部門やカスタマーサポートからプロダクト側に移る場合、初年度は現職と同水準か、やや下がる提示になることがあります。判断の材料は、初年度の金額よりも、2〜3年後にどの等級まで上がり得るかです。
前掲のスキルレベル別データでは、レベル1〜2の下限が420.0万円、レベル3の上限が700.0万円です。この幅の中でどこに置かれ、どの条件で次の段に進むのか。ここを入社前に確認できると、目先の増減に振り回されずに済みます。難易度そのものについては転職難易度を、選考の進み方は選考フロー・面接対策をご覧ください。
エージェントベストの見解
事業会社のプロダクト開発を検討する方は、SaaS企業のプロダクト職と、コンサルティングファームのIT・DX関連ポジションを並べて比較しているケースが多く見られます。判断が割れるのは、伸び方の形が違う点です。コンサル側は等級が上がる速度が制度として決まっており、数年先の水準が読めます。事業会社側は制度上の上がり幅が緩やかな一方、担当プロダクトが伸びれば役割そのものが変わり、等級の枠を越える動き方が起こり得ます。読める伸び方を取るか、振れ幅のある伸び方を取るか。ここを先に決めておくと、提示額の比較で迷いにくくなります。
まとめ
事業会社のプロダクト開発の年収は、作る側の578.5万円と束ねる側の889万円の間に位置します。両者の年齢はほぼ同じで、差を生んでいるのは役割です。スキルレベル別のデータでは、作る側は最上位でも第三四分位が950.0万円である一方、束ねる側はレベル5以上で1100.0万円に届きます。
水準を動かすのは技術的な習熟度そのものではなく、成果責任を引き受ける位置に移れるかどうかです。求人倍率の高さが処遇の高さを意味しない点にも注意が必要です。数値は統計の区分にもとづく目安であり、個社の水準は募集要項と提示条件でご確認ください。
よくある質問
Q. 求人票に書かれた想定年収の幅は、どう読めばよいですか。
A. 幅の上限はほとんどの場合、既存の上位等級者の水準を示しています。入社時の提示は中位以下に置かれることが多いため、上限に到達する条件を確認するほうが実務的です。
Q. 内製化を進めている会社のほうが、年収は高くなりますか。
A. 一概には言えません。「DX動向2025」では処遇を提示できないことが人材確保の課題として挙げられており、内製化への意欲と支払える水準は別の問題として現れます。
Q. 株式報酬がある場合、年収としてどう見積もればよいですか。
A. 付与条件、権利が確定するまでの期間、退職時の扱いの3点を確認したうえで、現金部分と分けて考えるのが安全です。現金部分だけで生活が成り立つかを先に確かめてください。
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/システムエンジニア(Webサービス開発)
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/プロジェクトマネージャ(IT)
- IPA デジタルスキル標準DSS-P 分冊版 ver.2.0(ロール一覧・担うべき責務)
- IPA DX動向2025(日米独比較で探る成果創出の方向性)
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。