投資銀行(IBD)の年収相場|転職で押さえるべきポイント
平均と入口が、800万円近く離れている
投資銀行部門(IBD)の年収を調べると、まず公的統計の平均額に行き当たります。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の「証券アナリスト」の区分では、次の数値が示されています。
- 平均年収 1,134.6万円(令和7年賃金構造基本統計調査)
- 平均年齢 39.4歳
- 労働時間 月 162時間
- 時間当たり賃金 5,497円
- 有効求人倍率 0.57(令和6年度)
- 求人賃金 月額 28.3万円(令和6年度・前年度比0.7万円増)
- 就業者数 82,920人(令和2年国勢調査)
- 学歴構成:大卒83.7%、修士課程卒16.3%
平均年収1,134.6万円に対し、求人賃金は月額28.3万円。年換算すると約340万円で、差は800万円近くあります。
同じサイトの「M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント/M&Aアドバイザー」の区分と並べると、これらの数値は完全に一致します。金融・投資の助言に関わる職種が、賃金統計の上でひとつの区分として扱われているためです。
つまり、この1,134.6万円はIBDだけの数字ではありません。 この記事では、実際に参照できる数値を積み上げていきます。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。
なぜ差が開くのか、3つの理由
1. 在職者の構成が上位に寄っている 就業者数82,920人という区分に、経験を積んだ層が含まれます。長く続けた人の水準が平均を押し上げます。
2. 賞与の比重が高い この領域は、基本給に加えて業績連動の賞与が乗る設計が一般的とされています。求人票に記載される月額は基本給部分であり、実際の年収とは差が出ます。
3. 募集は下位の役割が中心 中途採用で出るポジションは、アナリストからアソシエイト級が多くを占めます。入口の水準は求人賃金に近いと考えるほうが実態に合います。
年収を決めているのは、3つの要素
1. 年次(タイトル) アナリスト、アソシエイト、ヴァイスプレジデント、ディレクター、マネージングディレクター。この階層ごとに基本給のレンジが決まります。転職時の提示額は、どのタイトルで入るかでほぼ決まります。
2. 賞与の決まり方 会社全体の業績、部門の業績、個人の評価。この3つの掛け合わせで決まる設計が一般的です。案件が動いた年と動かない年で、振れ幅が大きくなります。
3. 案件への関与の深さ どの案件に、どの工程から入ったか。関与が浅いまま年次だけ上がると、評価が伸びにくくなります。
労働時間の数字を、そのまま読まない
job tagの区分では月162時間と示されていますが、これは区分全体の平均です。時間当たり賃金は5,497円と計算されています。
実際の負荷は、案件の局面で大きく振れます。デューデリジェンスの期間、契約の締結前、開示の直前。ここに山が来ます。平均値だけで働き方を判断せず、直近で走っている案件がどの局面かを面接で確認するほうが実態に近づきます。
エージェントベストの見解
公開されている平均年収1,134.6万円は、金融・投資の助言職を広く束ねた区分の平均です。転職の目安には使えません。参照すべきは3つあります。ひとつ目は求人賃金の月額28.3万円。これは入口に近い水準です。ふたつ目は、応募先が提示するタイトルとその基本給レンジ。3つ目は、賞与の算定方法と直近の支給実績の考え方です。この3つを確認すれば、自分の場合の見込みは十分に絞れます。「IBDは初年度から2,000万円」といった前提のまま面談に臨むと、タイトルの話になった時点で噛み合わなくなります。最初に外しておくべき数字です。
賞与を確認するときの、聞き方
賞与は年収の大半を占める場合があります。ただし「いくら出ますか」と聞いても、確定した答えは返りません。聞き方を変えます。
- 算定の要素は何か — 全社業績、部門業績、個人評価の比率
- 支給の時期と回数 — 年1回か、分割か
- 繰延べ(ディファード)があるか — 数年に分けて支給される設計かどうか
- 在籍要件があるか — 支給日に在籍していない場合の扱い
4つ目は見落とされがちです。転職の時期によっては、前職の賞与を受け取れないまま移ることになります。 オファーの条件を詰めるときに、この点を含めて交渉する余地があるかを確認してください。
タイトル別に、何が変わるか
年収の話をするとき、金額よりも先に押さえたいのが、タイトルごとに求められる成果が変わるという点です。ここを理解しておくと、提示された条件の意味が読めます。
アナリスト 資料と数字を作る役割です。評価されるのは正確さと速さ。成果が個人で完結するため、評価のばらつきは小さくなります。
アソシエイト モデルの設計と、資料全体の構成を担います。アナリストの成果物を確認する立場でもあります。ここから、案件の進行に対する責任が乗り始めます。
ヴァイスプレジデント 案件の進行管理と、顧客とのやり取りの前面に立ちます。成果が案件の成否に連動し始めるため、賞与の振れ幅が大きくなります。
ディレクター・マネージングディレクター 案件の起点を作ることが仕事になります。報酬は、自分が持ち込んだ案件にひもづく設計へと移ります。
転職の面談では、どのタイトルで入るのか、ひとつ上に上がる標準年数は何年かの2点を確認してください。この2つが分かれば、3年後の水準はおおよそ見積もれます。金額の交渉が難しい場面でも、この情報は得ておく価値があります。
年収が上がるのは、どの局面か
- タイトルが上がったとき — 基本給のレンジが切り替わります
- 案件の起点を作れるようになったとき — 顧客との関係が評価に反映されます
- 業種のカバレッジを任されたとき — 継続的な案件の流れを担うようになります
- クロスボーダー案件を回せるようになったとき — 対応できる人が限られます
4つ目について補足します。公正取引委員会の資料では、外国企業を当事会社に含む届出が令和5年度34件、令和6年度44件、令和7年度52件と増えています。海外当事者を含む案件の比重が上がるなかで、言語と時差を越えて回せる人の価値は上がりやすいと言えます。
同じ金額でも、確定している部分が違う
オファーを比べるときに見落とされがちなのが、総額のうち何が確定しているかです。
- 基本給 — 毎月支払われる、確定している部分
- 賞与の最低保証 — 初年度にかぎり保証される場合があります
- 業績連動の賞与 — 会社・部門・個人の評価で振れる部分
- 繰延べ支給 — 数年に分けて支払われる部分。在籍が条件になる場合があります
同じ「想定1,500万円」でも、確定部分が800万円の会社と1,200万円の会社では、生活設計がまったく変わります。住宅ローンを組む予定がある場合、審査で見られるのは主に確定部分です。
面談の場では、この4つに分けて説明を求めてください。分けて答えられる会社は、報酬の運用が整理されています。逆に、総額だけで話が進む場合は、内訳を書面で確認してから判断するほうが安全です。
会社ごとの水準を調べるときの順序
上場している証券会社であれば、有価証券報告書の平均年間給与が第一の手がかりになります。企業別の記事もあわせてご覧ください。
注意点があります。平均年間給与は全社員の平均であり、部門と職種の構成に左右されます。 リテール部門を持つ会社では、IBDの水準はこの数字から離れます。数字を見たうえで、面接で部門別・タイトル別のレンジを確認するのが現実的です。
なお、金融庁の登録一覧によれば第一種金融商品取引業者は290社(令和8年6月30日現在)ですが、そのすべてが有価証券報告書を提出しているわけではありません。非上場・外資系の日本法人では、公開されている数値が限られます。
エージェントベストの見解
年収の話で最も多いミスマッチは、額面の総額だけで転職先を比べてしまうことです。IBDの報酬は基本給と賞与の比率が会社ごとに違い、賞与の一部が数年に分けて支給される設計もあります。同じ「想定1,500万円」でも、確定している部分が800万円の会社と1,200万円の会社では、生活設計が変わります。比較するときは、確定部分・変動部分・繰延べ部分の3つに分けて並べてください。この作業をすると、順序が入れ替わる方が少なくありません。住宅ローンを組む予定がある場合は、特に効いてきます。
まとめ
- job tagの平均年収1,134.6万円は、金融・投資の助言職を束ねた区分の平均
- 求人賃金は月額28.3万円(令和6年度・前年度比0.7万円増)で、入口はここに近い
- 年収はタイトル・賞与の算定方法・案件への関与の3つで決まる
- 賞与は算定要素、支給時期、繰延べ、在籍要件の4点を確認する
- 平均年間給与は全社員平均であり、部門別の水準とは異なる
よくある質問
Q. 未経験で入る場合、初年度の年収はどのくらいですか。 A. 入るタイトルによります。公開されている求人賃金は月額28.3万円(令和6年度)です。実際の提示額は前職の年収と評価で決まるため、レンジと賞与の算定方法をあわせて確認してください。
Q. 外資系と日系で水準は違いますか。 A. 報酬の設計が異なります。外資系はタイトルごとのレンジが明確で賞与の比重が高い設計、日系は基本給の比重が相対的に高い設計とされています。公開情報が限られるため、面接で直接確認するのが確実です。
Q. オファーの提示額は交渉できますか。 A. タイトルが決まった後は、レンジの範囲内での調整が中心になります。前職の年収を示す資料の提出を求められることが一般的です。金額そのものより、入るタイトルを1段上げられるかどうかのほうが、長期的な影響は大きくなります。
Q. 前職の賞与を受け取ってから移るべきですか。 A. 支給日に在籍していることを条件とする会社が多くあります。移る時期によっては受け取れないため、その分をオファーに反映してもらえるかを確認する余地があります。転職の時期を決める前に、就業規則の定めを確認してください。
Q. 労働時間に対して割に合いますか。 A. 判断は人によります。job tagの区分では時間当たり賃金が5,497円と計算されていますが、これは区分全体の平均です。案件の局面によって負荷が偏るため、繁忙期の実態を面接で確認したうえで判断してください。
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/証券アナリスト
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)/M&Aマネージャー、M&Aコンサルタント/M&Aアドバイザー
- 金融庁 金融商品取引業者登録一覧(令和8年6月30日現在)
- 公正取引委員会 令和7年度における企業結合関係届出等の状況(令和8年6月24日)
本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。