投資銀行(IBD)の志望動機の書き方|転職で押さえるべきポイント

投資銀行(IBD) 志望動機の書き方 更新日 2026/8/11

「大型案件に関わりたい」は、志望動機として弱い

投資銀行部門(IBD)の志望動機で最も多いのが、「社会的に大きな影響を持つ案件に関わりたい」という書き方です。内容は間違っていません。ただ、この一文だけでは応募者の区別が付きません。

採用側が見ているのは、案件のどの立場に立ちたいのかを理解しているかです。売り手に付くのか、買い手に付くのか。資金を調達する側を助けるのか、投資家に売る側に回るのか。同じM&Aでも、立場が変われば日々の仕事が変わります。

この記事では、志望動機を分解する順序と、弱い型の直し方を整理します。本記事の内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。最新の募集要項は各社公式サイトでご確認ください。

案件の実数を知ってから書く

志望動機に説得力を持たせるには、業界の現在地を数字で押さえておくことです。公正取引委員会が令和8年6月24日に公表した「令和7年度における企業結合関係届出等の状況」では、次の数値が示されています。

届出が必要になるのは一定規模以上の企業結合にかぎられます。つまり458件は、大型案件のおおよその総量です。 IBDが関与する案件の規模感を測る目安になります。

あわせて、供給側の数字も押さえておきます。金融庁の「金融商品取引業者登録一覧」(令和8年6月30日現在)では、株式や社債の引受けを担える第一種金融商品取引業者は290社です。

案件も会社も、数が限られている市場です。 この理解が前提にあると、志望動機の書き方が変わります。

志望動機を3つに分解する

1. なぜ助言する側なのか 事業会社で買収や資本政策に関わった方は、ここを厚く書けます。当事者として動いたときに、外部の助言者に何を期待したのか。その期待に自分が応える側に回りたいと考えた理由を書きます。

2. なぜIBDなのか FASは検証と分析、仲介は双方の間、IBDは一方に付いて交渉する。この違いを自分の言葉で説明できると、志望動機が具体になります。 価格の議論に踏み込みたい、資本市場からの調達まで見たい、といった理由が接続します。

3. なぜこの会社なのか クロスボーダーが強いのか、国内カバレッジが厚いのか、引受けを持たない独立系か。応募先の案件の取り方に触れ、自分の経験がどこで効くかを書きます。 ここが空欄の書類が、いちばん多く見られます。

材料は、現職の実務から取り出せる

M&Aの経験がなくても、材料は作れます。多くの方が持っているのは次のような経験です。

いずれも**「数字で説明し、相手を動かした」経験**です。IBDの仕事は、この繰り返しになります。金額や期間の数字を添えれば、そのまま書類の材料になります。

よくある弱い志望動機と、その直し方

「financeの専門性を高めたい」 専門性は手段であって、動機になりません。直すには、その専門性で誰を助けたいのかを書き足すことです。

「若いうちから大きな裁量を持ちたい」 裁量という言葉が独り歩きすると、実務の理解が浅いと見られます。IBDでは資料作成と検証の積み重ねが土台にあります。工程の話に触れておくと、地に足が着いて見えます。

「年収を上げたい」 面接で率直に語る場面はあっても、書類の中心には置けません。job tagの証券アナリストの区分では、平均年収1,134.6万円(令和7年賃金構造基本統計調査)に対し、求人賃金は月額28.3万円(令和6年度)と示されています。入口と平均は別のものを指しています。 数字の理解が浅いまま書くと、かえって不利になります。

「グローバルな環境で働きたい」 外国企業を含む届出が52件まで増えていることを踏まえれば、方向としては合っています。ただし、英語で何をしたいのかまで書かないと、留学経験の紹介で終わります。

エージェントベストの見解

書類で見られているのは、関与した案件の規模ではありません。「自分が担当した工程」が書けているかです。デューデリジェンスの資料を集めたのか、事業計画の前提を置いたのか、価格の交渉の場にいたのか。ここが「M&Aプロジェクトに参画」とだけ書かれていると、読む側は判断ができません。工程を並べ、自分の担当に印を付ける。それだけで通過率が変わります。加えて、案件が成立したか否かも書いてください。破談になった案件でも構いません。むしろ、なぜ止まったのかを説明できる方は、面接での会話が深くなります。

例文の骨子(そのまま使わず、材料を入れ替える)

完成文を写すと、面接で掘られたときに答えられなくなります。骨子だけ示します。

  1. 現職での立ち位置 — どの範囲を担当し、何を決めていたか
  2. 助言する側に回りたいと考えた場面 — 当事者として限界を感じたこと
  3. IBDを選ぶ理由 — FAS・仲介との違いを踏まえた説明
  4. この会社を選ぶ理由 — 案件の取り方と、自分の経験の重なり
  5. 入社後の最初の1年 — どの業種から入り、何を身に付けるか

5番目まで書けている書類は多くありません。ここが埋まっていると、面接の会話が具体的になります。

業種の軸を、志望動機に入れる

IBDはカバレッジ(業種担当)の体制を取る会社が多くあります。前職で関わった業種があれば、それは書くべき材料です。

書き方としては、次の3段構えが扱いやすいはずです。

  1. 自分が言葉の通じる業種を挙げる
  2. その業種で起きている再編の動きを、公開情報を根拠に1つ書く
  3. その動きに、自分の経験がどう届くかを書く

2は、公正取引委員会が公表している主要な企業結合事例など、公的な資料から拾えます。業界紙の見出しをなぞるより、一次資料に当たって書いたほうが、面接での質問に耐えます。

面接で掘られたときの、答え方

書類に書いた志望動機は、面接での質問の起点になります。掘られる箇所は、おおむね決まっています。

「なぜ今の会社では続けられないのですか」 待遇や労働時間を理由にすると、同じ理由で辞めると見られます。扱える案件の規模や、関与できる工程の話に寄せるほうが自然です。現職を否定せず、次に何を積みたいかで説明すると角が立ちません。

「うちでなくてもよいのでは」 応募先の案件の取り方に触れられていないと、この質問で止まります。クロスボーダーが強いのか、国内の特定業種に厚いのか、引受けを持たない独立系か。調べた形跡が見えるだけで、答えが成立します。

「激務だと聞いていますが、家庭との両立はどう考えていますか」 無条件に大丈夫と答えるより、繁忙の波を経験したうえで、どう備えるかを話すほうが信用されます。案件のクロージング前後に負荷が集中する構造は、面接官も承知しています。

「入社後、最初に何をしますか」 業種の知識を埋める、社内の資料の型を覚える、といった具体が出てくると、実務のイメージがあると受け取られます。壮大な構想を語る場面ではありません。

プレイヤー別に、書くべき軸を変える

応募先の案件の取り方によって、強調すべき経験が変わります。企業別の記事もあわせてご覧ください。

エージェントベストの見解

この領域で最も多いミスマッチは、「案件の意思決定に関わる仕事」を期待して入り、実際は検証と資料作成に時間の大半を使う構造に戸惑うというものです。決めるのは顧客の経営陣であり、助言者は材料を整える側にいます。この立ち位置を納得したうえで入る方は続きますが、当事者として決めたい方は数年で事業会社側に移ることが多い。入社前に確認しておきたいのは、直近の案件でジュニアがどの工程を担当していたかです。面接で聞いて差し支えありませんし、答えの具体性から、その会社の育成の姿勢も見えてきます。

まとめ

よくある質問

Q. M&Aの実務経験がなくても書類は通りますか。 A. 監査法人、銀行の審査、事業会社の経営企画など、隣接する経験から移る方がいます。数字を検証した経験、事業計画を作った経験があれば、材料として書けます。求人票の必須要件は会社ごとに異なるため、事前にご確認ください。

Q. 志望動機に具体的な案件名を書いてよいですか。 A. 公開情報にもとづくものであれば問題ありません。ただし、案件の評価を断定的に書くと、根拠を問われます。「公表資料から読み取れる範囲では」と前置きし、自分の見立てとして書くほうが安全です。

Q. 独立系と大手のどちらを志望すべきですか。 A. 引受けを持つかどうかで、扱える業務範囲が変わります。資本市場の案件まで見たい場合は第一種の登録を持つ会社、助言に専念したい場合は独立系という整理になります。志望動機もこの違いに沿って書き分けてください。

出典

本記事は 2026/8/11 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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監修

松岡 良次

株式会社エージェントベスト代表。大手人材会社およびスタートアップ人材企業にて、IT・スタートアップ・メガベンチャー企業の採用支援に従事。独立後はIT・スタートアップ・コンサル領域に特化し、20〜30代のキャリア支援を行う。(厚生労働大臣許可 13-ユ-316964)